フォード マスタングGT (1967年式)です。
パワーステアリングのオーバーホールで入庫しました。
入庫時の症状は、オイル漏れがひどく、転舵時に異音と振動が生じるというもの。
1960年代、フォード大衆車用パワステの代表格 |
このパワステは、リレーロッドの作動を、油圧シリンダーでアシストする仕組みです。
ノンパワーのステアリングリンケージに少しの改造で取り付けられるため、マスタングの他、ファルコン、フェアレーン、マーヴェリック、ランチェロ、トリノなど、1960年代を通じて様々な車種に採用されていました。
.
リンケージ式パワーステアリングの主な構成部品は、
・ パワーステアリングポンプ
・ コントロールバルブ
・ パワーシリンダー
・ 油圧ホース
です。
今回は、これらの部品のオーバーホールを行ないます。
コントロールバルブの横に、ベンディックスのシールキットを並べて確認。
ここが固まると、ステアリングのアシスト量が左右で不釣り合いになったりします。
右転舵が軽く左転舵が重い、などが典型的な症状。
ボールスタッドのニップルから大量のグリスが回り込んでも同様の問題を引き起こします。
一番手前のナットはロックナットではなく、アジャストナットです。
アジャストナットは、オーバーホールキットに含まれています。
スプールが抜かれたコントロールバルブ。
微細な異物混入にも細心の注意が必要です。
なにしろケースがドロドロに汚れているので、できる工夫は何でもしましょう。
古いアメ車の油圧系統には、鉄の部品に感心させられます。
非常に高い寸法精度が要求される部品が、大衆車にもふんだんに使われている。
1960年代にパワーステアリングの需要があったのは、実質アメリカだけでしょう。
巨大マーケットでトレーニングされることによって品質は安定し、コストも下がる。
こうした部品は、手入れで何度でも蘇ります。
スプールバルブのアウタースペーサー。
この腐食では、スムーズな作動は望むべくもありません。交換。
分解したコントロールバルブと、その構成部品。
フォードのリンク式パワーステアリングの、頭脳ともいえる部品です。
・ ステアリング操作に対する負荷が大きいときは、より大きな力でアシストする
・ ステアリングが中立位置で、手放しでも直進するときはアシストしない
・ 車輪側からのキックバックには、対抗するように働いて針路を保つ
これらの機能を、いっさい電気を使わない油圧制御によって実現しています。
バルブスリーブ内でのボールスタッドの搖動を阻害しないことが、この作業の要諦です。
ハンドルを切った時に左右の重さが違うという症状は、すべての機能が正常に作動するコントロールバルブならば、容易に修正できるように設計されています。
洗浄したスリーブに正しく組みつけられたボールスタッドが要求するグリスは、ごく少量です。
オイルの通路は大変狭いので、部品と作業環境を清潔に保つことが成功の鍵です。
【つづき】 → フォードのリンケージ式パワーステアリング修理 (2/2)