ダッジバン(1987年式)のブレーキ修理です。
ブレーキペダルの感触に異変を感じるとのことで入庫しました。
この写真の意味は記事の最後で解説します |
注ぎ足してもひと月ほどでこの状態になってしまうとのこと。
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漏れているのは確実なので、ブレーキシステム全般を点検します。
まずはリヤブレーキのホイールシリンダー。
いきなりNG |
次に、プロポーショニングバルブ( = アイソレーション ダンプ バルブ)。
ドラムブレーキの整備は、分解・清掃・給脂・調整までがワンセットです。
スイッチまわりから漏れています |
そして、マスターシリンダー。
一見、乾いているようですが・・・ |
ドラムブレーキの整備は、分解・清掃・給脂・調整までがワンセットです。
ホイールシリンダーはアッセンブリーで交換します。いつ取り替えたかわからないシリンダーをホーニングしてカップキットを交換しても、費用と時間を浪費するだけだからです。
プロポーショニングバルブも、同様の理由で交換します。
この部品は前後のブレーキバランスを調整するために、内部にラバーシールが仕込まれています。ブレーキオイル漏れが放置されていたクルマのこの部品がケアされていたとは考えられませんし、内部のシールにダメージがあっても外に漏れてはこないので機を見て交換するのが得策です。
右下の形状が違いますが互換品です |
マスターシリンダーを取外すと、おぞましいことになっています。(写真参照)
カップやスイッチからの漏れは、ひと月で数百CCも減る症状の原因としては物足りない量でしたが、これを見れば納得です。大量にブレーキオイルが減る直接的な原因は、マスターシリンダーからの漏れだったのですね。
エア抜き後のマスターシリンダーを装着。パイプと結合したら再度、四輪のブレーキブリーダーからエア抜きを行ないます。
最初に外から観察したときには乾いて見えたので、ブレーキパイプのユニオンやジョイントもすべて圧力を上げて点検しました。
それにしてもこの錆の量、相当な長期間漏れたままだったのでしょう。
マスターバッグ(= ブレーキブースター)は、機能が正常だったので清掃して再使用。
オーナーが持ち込んだ新品マスターシリンダーは、ボディが樹脂製に変わっています。
新品マスターシリンダーは、組付け前にエア抜きが必要です。
FTECで使用しているのは写真の汎用品。
この状態で循環させてエアを抜きます |
エア抜き後のマスターシリンダーを装着。パイプと結合したら再度、四輪のブレーキブリーダーからエア抜きを行ないます。
しかたがないので、再度取り外して点検します。
これらの事実は、シリンダーとシールの精度に問題があることを表しています。
これでは元の部品と変わりません |
組立ミスはありません。シールの劣化や破損もありません。
この場合は、そういう凡ミスがあった方がリカバリーが簡単なのですが。
後ラバーシール |
前ラバーシール |
これらの事実は、シリンダーとシールの精度に問題があることを表しています。
従って、この部品は使用不可能な不良品であり、別の良品と交換しなければなりません。
今度の部品は鋳造品でよさそう |
気をあらためてもう一度交換。ところが、それで終わりとはいきませんでした。
・・・が、みかけだおしだった |
なんということでしょう。持ち込まれた部品は、2個連続で不良品でした。
アメリカの自動車業界は日本のそれよりはるかに広く、流通している部品も玉石混交です。最近は個人でも通販サイトで本国から容易に取り寄せられますが、底値の部品には日本の常識では計り知れない品質のものが紛れていることを肝に銘じておきましょう。
3個目の部品は、さすがに仕入先を選んだのか、問題なく機能しました。
あたり前のことに、なんだかホッとさせられてしまいます。
FTECが輸入した部品で万一こんな事態になったら、不良品は断固返品して良品と交換していただくのですが、今回の部品については仲介業者のところで有耶無耶な話になってしまったようだとオーナーから聞きました。
将来的な品質向上につながる可能性がある対処方法は、返品してメーカーに原因究明してもらうことですが、あまりにも安い商品単価だと面倒になってしまい、事態収拾を急いでしまうのかもしれませんね。
アルミは分別してリサイクルしてあげよう |
かくして、不良品はそのまま廃棄処分となりました。大量のブレーキオイルとともに。
FTECは2回分の脱着とエア抜きの労力を無駄にし、お客様は3つの純正部品を取り換えるだけで1か月半も好きなクルマに乗れず、今度の部品は使えるのかと気を揉む破目になったのです。
時間と手間だけに着目すれば忘れたい作業ですが、どんな失敗にも貴重な教訓が潜んでいるものです。もし、FTECで手配した部品に初期不良があったら、良品への交換とともに原因究明を依頼するという方針に変わりはありません。また、オーナーが自分のクルマのために持ち込んだ部品の使用についても、変わらず協力させていただきます。
海外の通販サイトで自分のクルマの部品を探すのは、とても楽しいことです。
もし実際に取り寄せるとなったら、様々なリスクにも思いを巡らせていただければ幸いです。