三菱ジープJ59 (昭和61年式) です。
アストロンG52B型 4気筒2000㏄ガソリンエンジンを搭載しています。
エンジン不調とインパネの警告灯不動で入庫しました。
入庫時には、
・ エンジンの始動が困難
・ アイドリングが不安定
・ 減速時にエンジンが停止する
・ 走行中に突然出力が落ちる
などの不具合があり、暖機後もチョークを引いたままでなければ乗れない状態でした。
さて、どんな故障が潜んでいるのでしょうか?
今回初入庫したこの車体、内外装ともに驚くほど綺麗です。
MMCの部販からありったけの新品部品を取り寄せて交換したのではと思うほど。
塗装もしているので、電装系のまとまった不具合は接地不良の可能性があります。
車体各部のアースポイントとバッテリーのマイナスターミナルの電位差を測定。
エンジン不調の症状が顕著なので、排出ガスレベルを測定。
完全暖気後の排出ガスレベルは
CO : 0.12%
HC : ∞
アイドリングが不安定でトルクがまったくないのも頷けます。
点火イニシャルタイミングは正常。進角装置も正常に機能していることを確認。
キャブレターに燃料漏れの痕跡があります。
苦しげなアイドリングの途中、スロットル操作で中速にあげてペダルを放す。
・・・と、もとの回転数まで落ちません。
スロットルのリターンスプリングが衰損していました。
よく見ると、錆びたスプリングを銀色に塗装してあります。
ガソリン漏れはキャブレターの加速ポンプから。
ケース嵌合面を両方とも仕上げ、パッキン、ダイヤフラム、リターンスプリングを交換。
新旧パッキンの比較。
左が古いパッキン。穴位置がズレて取付けられていたことが解かります。
ところで、このパッキンの「欠けた部分」はどこ?
気になって探すと、・・・ありました!
新しいパッキンは正確に取付けます。
三菱自動車の部販で奇跡的に発掘された、インテークエアダクト。
欠損していると夏場に吸気温度が異常上昇し、エンジン不調の遠因となります。
条件改善に資する処置は迷わず実施。
キャブレターからのガソリン漏れを修理した後、排出ガスレベルを再測定。
CO値はほとんど変わらないもののHC値が大きく下がりました。
これでキャブレターの調整を始めることができます。
インストルメントパネルの3連インジケータは、ガソリンエンジンを搭載するジープ(J57、J58、J59など)の場合、上から順に
・ パーキングブレーキ(センターブレーキ)警告灯
・ チョークレバー戻し忘れ警告灯
・ 4WD(直結)警告灯
という並び。
全部取外して、系統ごとに単体テストを実施します。
水温計の取付ステーが絶縁されておらず、黄色線から供給される12V電源がインストルメントパネルにショートしています。不導体でワッシャーを製作して対処。
G52B用の水温センサースイッチ(二極)。
左が純正、右が今回新たに装着したセンサー。
4WD警告灯は、センターデフのない直結式のジープには必需品。
全部のタイヤがグリップ力を発揮する乾いた舗装道路上で4WDのまま無理に走行すると、トランスファーやクラッチをはじめとする駆動系を痛めます。
筋金入りのジープ乗りは、野性の勘で独特の手ごたえがわかるし警告灯なんてなくてもいいよ、と言うかもしれません。
しかし、修理屋がそんなことを言い出したらおしまいです。
美しく仕上がった現車のインパネに死んだ機能が存在するなんて、到底我慢できません。
しかし、純正新品は既に 製廃 で在庫なし。再生産の予定もなし。
そこで、FTECでスイッチの仕様を調べ上げ、互換性のありそうな部品を片っ端から当たることに決めました。条件は、車体側の改造なしで装着でき、万一正規純正部品が再生産された場合はすみやかにオリジナル状態に戻せること。
結局、ねじピッチが同じ他車のトランスファー用スイッチを流用することに決定。
取付面から先端までの長さが異なり、このまま装着しても望む機能は得られません。
先端を延長する方法も検討しましたが、もしトランスファー内に脱落しようものならケースを分解しなければ排出できなくなります。スイッチ自体の耐久性が落ちる心配もありますし、交換の度に新品部品を加工して取付けるのでは安定した性能は望めません。
様々な角度から善後策を検討した結果、新品スイッチを別の場所に取付けるためのステーを製作することに決めました。
トランスファーのオペレーティングロッド先端に、新品のスイッチを取付けます。
正規純正部品が再生産されたらオリジナル状態に戻す。
その前提条件を守るため、トランスファー側にはいっさい手を加えません。
ステーは既存のプラグと古いスイッチでトランスファーに固定します。
ステーの雌ネジで突出し量を調整できるようにして、ロックナットで固定します。
オペレーティングロッドとの芯が合っているので、再び他車流用のスイッチと交換することも容易にできます。このスイッチはもともと完全防水。先端は露出となりますが、トランスファー内部の環境よりレバー直下の方が条件が良いので耐久性には余裕があります。
ちなみに、純正スイッチは内部にトランスファーのオイルが滲入したために接触不良をおこしていました。高温のオイルに常時さらされる条件より、今回の条件の方が長寿命が期待できるとFTECは考えています。
このままだと警告灯の ON/OFF が逆転するので、スイッチオーバーリレーを使用して回路を開閉する条件を反転させるハーネスを製作します。
このハーネスも、正規純正のトランスファースイッチが入手できたらオリジナル状態に戻せる構造にしました。純正の配線に割り込ませる形で装着し、取外してつなぎ直せば即座に元に戻せるように、車体側の配線にはいっさい手を加えていないところが特長です。
新たなスイッチの動作を確認。
レバーは静的移置を超えて作動するので、押し込んだ先のロッド位置を見極めてスイッチを調整することが肝要です。
パーキングブレーキ警告灯の故障は、スイッチ不良が直接的な原因でした。
しかし、レバーの据わりが悪いせいで走行中に点くこともあったため、さらに改善を加えます。
レバー前端のタブがスイッチを押す仕組みですが、経年劣化でワイヤーの柔軟性がなくなっているうえ樹脂製のガイドローラーも摩耗しており、遊びが大きくなりすぎています。
パーキングブレーキ(センターブレーキ)オペレーティングシャフトのリターンスプリングを強化してワイヤーに注油し、パーキングブレーキレバーの取付位置も上限となるように改善しました。
細かい積み重ねを積極的にして、長期間安定した性能を発揮するように組付けます。
冷間始動から始まる、作動テストの様子。
フルチョークの手前でも、セル一発で始動できるようになりました。
すべての警告灯が正常に機能する、美しい外観に相応しい計器盤の完成です。
1953年(昭和28年)ウイリスオーバーランドのノックダウン生産から始まった三菱ジープ。
現車のフロントバンパーは初期型への敬意が感じられて好印象です。
1982年(昭和57年)にパジェロが登場したことで一般市場における三菱ジープは退役に向いましたが、官公庁向けには1998年(平成10年)まで生産が続けられました。
全長3,400ミリ 全幅1,660ミリ 車両重量1,170kg 出力100ps。
このJ59は、変転する社会の要請に応え続けて進化した、三菱ジープの最終形態といえるもの。
末永く健全に保たれることを、心より祈念いたします。
おまけの動画は 1942年(昭和17年)式の本家ジープ、ウイリスMB型。
これにノスタルジーを感じる世代は、もれなく80歳以上でしょうか。
戦勝国アメリカと敗戦国日本とでは、思い出もカラーと黒白くらい違うのでしょうね。