埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

フォードブロンコのマフラー製作 ・2/3

2代目フォード ブロンコのワンオフマフラー製作。
現状を仔細に観察して把握した古いマフラーの問題点は、

1.左バンクのパイプが右バンクより1m以上も長い
2.狭い場所でパイプの径を何度も絞っている
3.全体の形状とハンガーの荷重が不揃い
4.切断しなければ外せない

など。

音も形も不揃いな古いマフラー

全部やり直すためにオーナーが準備したのは、

1.ヘドマンのエキゾーストマニフォールド
2.マグナフローのキャタライザー(= 触媒)
3.フローマスターのサイレンサー(= レゾネータ)

どれも本国では一般的な汎用の社外品です。


Hedman Hedders 89210 & 89216
Magnaflow CAT 34105 x 2
Flowmaster 50 Series Resonator x 2

.
ヘドマンのヘダース(= エキゾーストマニフォールド)はロングブランチの4in1、マグナフローのキャタライザーは古いマフラーのそれと同じ容量、フローマスターのレゾネーター(= サイレンサー)は古いマフラーの3割増しの容量です。

これらの部品選択から、

高出力と静粛性を兼ね備えたクルマに仕上げたい

というオーナーの思いが伝わってきます。

その他、排気の出口にはマフラーカッターやエンドチップを設けず、いわゆる切りっ放しの素朴な状態に仕上げてほしいとご要望をいただきました。





冒頭に挙げた古いマフラーの問題点を解決するため、新しいマフラーは以下の点に留意して設計します。

1.右バンクの排気を左に、左バンクの排気を右に出すことで、パイプ長の差を相殺する
2.ヘダース直後で左右バンクの排気圧力を同調させ、不要な波動を取り除く
3.パイプ径をφ60.5に統一し、曲がりの数と角度は管路抵抗の左右差を考慮して決定する
4.Uボルトは使わず、全溶接で強固なセンターピースを構成する。
5.強固なハンガーを新規に製作、ヘダース以後は3分割で容易に脱着可能な構造とする

このうち、2.の目的を果たす手段としては、左右パイプの組み方によって「Hパイプ」と「Xパイプ」がよく知られています。Xパイプは比較的新しい手法なので、

70年代風の伝統的な音色を控えめな音量で再現すること

を目標とするならば、Hパイプのほうが適しています。
これについて、より詳しく知りたい方には下の動画が参考になるでしょう。

この動画では、HパイプとXパイプを比較して

・最高出力の増幅効果はどちらも同じ
・左右の圧力を共有させる(シェア)か、同調させる(イコライズ)させるかの違い
・Xパイプは高い音、Hパイプは低い音になる

など、それぞれの特徴を解説しています。


https://youtu.be/c0cQOEyVzp8?t=3m20s

ヘドマンのヘダースには、モロソヘッダラップを施工します。

80~100m/secで排出される高温高圧のガスを緩やかな温度勾配で下流側に導くことによって出力向上が期待できること、純正マニフォールドより遥かに大面積となった熱源がエンジンルーム内の補器類に与える影響を軽減できること。これらが採用の理由です。

ヘドマンのヘダース。材質はスチール。

3ボルトフランジとスフェリカルジョイント。

スチール製のエキゾーストマニフォールドにヘッダラップを施工すると、マニフォールドの寿命は著しく短くなります。ヘドマンは、「ヘッダラップを施工した製品については永久保証の対象外とする」と公式にアナウンスしています。

それを承知で施工するのは、熱害の軽減効果の方がヘダースの寿命よりも重要だから。

裸のヘダースが数年長持ちしたところで、車輛火災が起きたら元も子もありません。
ヘドマンの永久保証はアメリカ国内限定なので、もともと対象外ということもあります。

FTECはマフラー屋ではなく自動車整備工場ですから、クルマ全体のバランスに配慮した処置を諒としています。







ヘドマンのヘダース(左)と、純正の鋳鉄製マニフォールド(右)。
形状の違いは明らかですが、注目すべきはボリュームの違い。
エンジンルーム内の補器類への熱害対策に、やり過ぎということはありません





ヘドマンのヘダースをエンジンに装着してみると、集合部の位置が左右で違うことがわかります。

元々、このブロンコはF-100トラック4WD仕様と共通シャシーなので、エンジンが右側にオフセットされています。また、トランスファーからフロントデフに向けて伸びるプロペラシャフトがあるため、左側にマフラーのためのスペースはありません。

完全左右対称の排気システムにならないことは最初から分かっていたので、集合部の左右差はさして問題視しませんが、クロスメンバーを直撃する位置にくるとは予想外でした。

右バンクの方が後方で集合。集合部の高さは同じ。

出口正面がクロスメンバー。

指一本入るかどうかという隙間。

梱包材に紛れて、ヘドマンによる素敵なソリューションの提案がありました。
ヘドマンにとってはイージーな問題で、理解したうえで販売しているのね・・。


さて、ヘドマン製ヘダース(ロングブランチ4in1等長エキゾーストマニフォールド)が、モロソのヘッダラップを巻かれてストックの351エンジンに装着されました。
どんな音になっているか、聞いてみましょう。


集合部直後で解放されているのでアイドリング付近は騒々しいだけですが、2,000~2,500rpm付近では以前の雑味がなくなっていることがわかります。

ヘダース以後の排気システムは、この音を効率よく減衰させてスムースにガスを流せるように設計し、製作していくことになります。