ボルボ V70 SB5244W型(1999-2007)です。
2.4リッター直列5気筒4バルブDOHCのモジュラーエンジン、B5244Sを搭載しています。
エアコンの修理で入庫しました。
暑い日に走り続けていると冷風が出なくなる、という症状です。
FTECでは、よく似た症状のボルボを過去に修理したことがあります。
症状が似ていても原因は個々に違うのが常ですが、構造は同じです。
先入観に囚われず正当な故障診断をするために、復習はしておきましょう。
.
定石通りプライマリーチェック(IPC)は、故障コードの確認から始めます。
再現性のある症状が確かにあるにもかかわらず、関連するDTCは検出されず。
クーラーガスの配管に、油汚れが付着しています。
クーラーガスの圧力分布に異常はありませんが、これは漏れが疑われる状態です。IPCでガスの量が正常でも、他所で補充された結果かもしれない、という視点を忘れずに点検しましょう。
コンプレッサーのマグネットクラッチに、テスト用の配線を割り込ませます。
これにより、発症時の作動電源の有無を確認できます。
エンジンルーム内の雰囲気温度が上がり切ると、クラッチが離れました。
このとき、クラッチの作動電源は供給されたままと判明。
テスト用の配線を応用して直接B+電源を投入しても、クラッチは作動せず。
クラッチ単体の部品供給は無いので、コンプレッサーAss'y の交換は確定です。
エンジンルーム側の部品構成図を見て、その他の交換部品を洗い出します。
▲ エンジンルーム側の部品構成図 |
コンプレッサーを交換する際には、ドライヤー(リキッドタンク)も交換します。
その他、分離した配管に装着されているOリングは、すべて新品に交換します。
SB5244W型 V70のコンプレッサーには、サーペンタインベルトで駆動する補器を上から順に取り外してアクセスします。オルタネータも取り外すので、はじめにラゲッジスペース床下のバッテリーターミナルを分離します。
ベルト周りの作業域を確保するために、パワーステアリングのリザーブタンクを移動させます。この際、PSFが漏れていることを発見しました。
まずパワーステアリングポンプ、次にオルタネータを取外します。
更に作業域を拡げるために、エンジン冷却水を排出してラジエターのアッパーホースを分離します。オルタネータの下側は、コンプレッサーの上側と同じボルトを貫通させて、共締めする構造です。
摘出したオルタネータと、新旧コンプレッサー。
コンプレッサーオイルの量は、180㎤(180cc)とラベルに書かれています。
オイル漏れによる汚濁箇所をケミカル洗浄。
綺麗に組み上げることによって、次の故障診断の精度が上がるとFTECは考えています。
このコンプレッサーが要求するオイルは、PAG46。
ND-OIL8を使用します。
新品のコンプレッサーは、組み立てとテスト時に用いたであろうオイルを、完全に抜いた状態で入荷しました。このような場合には、新しいコンプレッサーオイルを内部に行き渡らせて、主軸を手で回して手ごたえを確かめます。
コンプレッサーオイルの量は、システム全体で180㎤(180cc)。
少なければコンプレッサーが焼き付き、多ければ冷えません。
PAGオイルの比重は水とほぼ同じですから、重量で管理したほうが楽です。
容器を移し替えると大気中の水分の影響が増えるので、手早く済ませます。
再使用するボルトナットは、いつも通り磨いて点検します。
分離した配管の結合部に使用されているOリングは、すべて新品に交換します。
古いOリングの一部には、破損が認められます。
汎用Oリングの選定には、充分な時間をかけましょう。
内外径や線径などの情報は公開されていないので、現品に合わせて選定します。
ラジエターを外さずにドライヤー(リキッドタンク)を交換するのは、少々手間がかかります。上部の配管は勘合面を目視できない状態で組付けざるを得ないので、異物の咬み込みやOリングのズレ、ヨレが生じないように、細心の注意を払う必要があります。
ドライヤーのステーは、上側に抜いて上側から挿し込むように設計されています。
満足な手ごたえが得られるまで、何回でもやり直しましょう。
古いコンプレッサーのOリングも、淵が破損しています。
新しいOリングを破損させないためには、勘合面同士が均一に接近するように、配管を手で保持しながらボルトを締める必要があります。
他にも、破損したOリングが幾つも見つかります。
これは、オフセットされた1本のボルトで結合する設計の弊害です。
組付け時に均一な圧力がかかりづらいので、破損させやすいのです。
このことは、FTEC weblogの以前の記事で、詳しく解説しています。
チャージポートのバルブコアも、新品に交換します。
マニフォールドゲージを分離した時に、ガス漏れに気付くこともありますから。
PSFとL.L.C.を補充して、エンジンを始動。
雰囲気温度は34℃、エアコン整備にはうってつけの気温です。
コアサポートのコーションラベルに、クーラーガスの量が記載されています。
サービスマニュアルでは800gなのですが、ラベルには1000gと。
このような場合、現車に書いてある情報を優先するのが定石だと、FTECは思います。
インストルメントパネル中央の吹き出し口から、7℃の冷風を供給できることを確認。
高圧スイッチ作動で電動ファンの回転数が上がることも確認して、修理完了です。
ボルボV70(SB5244W)のエアコン修理、いかがでしたか?
現車の積算走行距離は、20万5千キロ。
適切な整備を施せば、まだまだ走ってくれそうです。
おまけの動画は、ボルボが定期的に配信しているイメージ広告。
商品としてのボルボより、ボルボの生まれ故郷に焦点をあてた構成になっています。
美しい風景の連なりが郷土愛を刺激する、良い映像作品になっていると思います。
日本の自動車メーカーにも、たまには四季折々の日本の風景を主役にして広告を作ってみてはいかがですか、と言ってみたいものですね。