サスペンションからの打音を修理するために入庫しました。
事前点検でコントロールアームのブッシュ破損を確認していたため、すべてのブッシュを交換することに決めました。このモデルのサスペンションは、パジェロシリーズの中でも例外的に複雑な構成です。
パジェロ エボリューションは、パリ - ダカールラリーがプロトタイプカーの参戦を禁止していた90年代後半に誕生。98年にはジャン・ピエール・フォントネがステアリングを握って総合優勝、1位~4位までを独占するという快挙を成し遂げたモデルです。
エンジンはこのモデル専用の 6G74-MIVEC(3500cc V型6気筒DOHC)。
そして、マルチリンク式の4輪独立懸架装置を備えています。
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このクルマは、社外品のコイルスプリングによって45ミリ程車高が上がっています。
スタビライザーのリンクをフリーにして、ナックル側に荷重をかけて点検します。
バネレート不明とのことですが、非常に硬いスプリングでした。オンロードでのフラットな乗り味に重点を置いた仕様のようです。
各アーム類の取り回しは、標準車のフレームを改造してマルチリンク化するために、妥協せざるを得ない部分もあったのでしょう。このロアアームのレバー比からは、硬いスプリングによって内側の支点にかかるストレスが非常に大きくなることが窺えます。
深いトラベルストロークを受容する設計です。
アッパーアーム角は、パワーオンで楽に沈み込ませてトラクションをかけやすいように設けられたのでしょう。車高を上げて、かつフラットな乗り味とするために、強力なバネで動きを制限するのは少々惜しい気もするサスペンションです。
はてさて、リヤサスの構成部品を並べてみました。
普通の乗用車とは一線を画す、非常にヘビーデューティな部品群です。
コントロールアームは、ブッシュのみの部品供給がありません。
新旧を比較してみると・・・。
ブッシュの容量が増やされています。
標準車のフレームに溶接で設けられた、箱型のピボット。
鍛造のアーム類と比較すると、脆弱な印象です。
鍛造のアーム類と比較すると、脆弱な印象です。
パリダカを走ったパジェロには、どれだけ補強が入っていたのでしょうか。
機会があれば、覗いてみたい部分です。
アッパーアーム内側。ここは汎用のプーラーとドリフトで作業可能。
イチグチのフラップホイルで内面を整えます。
コンパニオンフランジとドライブシャフトを接続するボルトナット。
磨いて点検し、必要に応じて交換します。
コイルスプリングのインシュレータ。
洗浄して磨き上げ、シリコングリスを薄塗りして再使用。
前サスペンションアッパーアームと、スプリングシートとの関係。
リバンプ側いっぱいの時には、干渉しています。
もちろん、1Gの状態では間隔ができるのですが。
全作業終了後、車高アップのために狂っていたアライメントを調整しました。
前キャンバーは調整幅を使い切ってメーカー規定値に近づけました。
純正アライメントデータ
前
キャスター : 4°36′±1°
キャンバー : -1°00′±0°30′
トータルトウ : 0±3mm
後
キャンバー : -1°00′±0°30′
トータルトウ : 3±3mm
狙い通り打音はしなくなりましたが、硬いスプリングによる車高アップの弊害として、ブッシュの余命が純正の状態より短くなることは避けられないでしょう。
作業期間中はずっと、「設計通りの車高で、標準の柔らかいスプリングを組んでテストしてみたい」という思いに駆られていました。
しかし、ひと度くみあがった姿を眺めてしまうと、「やっぱりこの高さが格好いいなあ」と思ってしまう。(^^;
「嗜好品としての自動車」には、ありがちな矛盾です。
レースレジェンドをもつクルマの魅力は、理屈じゃないってことでしょうかね!
【追記】
2013年4月、後アッパーアームは左右とも製品廃番になっています。
三菱自動車 お客様相談センターから、「再生産する予定はない」と宣言されました。
アウターボールジョイントの単体供給は、元々されていません。
つまり、修理方法を創出せねばならないということです。
・ 左アッパーアーム MR353013 -> MR491529 (変更)
・ 右アッパーアーム MR353014 -> MR491530 (変更)
充分な強度の代替ボールジョイントを探し、圧入しなおす方法が良さそうです。
しかし、現物合わせで強度検討も同時進行となると、かなり時間がかかりそうな整備です。