埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

スカイラインGT‐Rのサスペンション整備

日産スカイラインGT‐R(BNR32型)V-SPECⅡ、1994年式です。
積算走行距離は、150,372㎞。

ロングドライブ志向のオーナーが7,000㎞台で購入して以来、一貫して純正同等サイズのストリートタイヤだけを装着している車輌です。



ショックアブソーバーを交換するにあたり、サスペンション全体の整備を実施しました。
主な作業内容は、

・ 全長ネジ式 車高調整ストラットへの交換
・ 全ラバーブッシュの交換

です。

アライメントについては別の記事にまとめることにします。
ここでは主に、ブッシュ関連の作業をご覧いただきましょう。

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今回の作業で取外すショックアブソーバーには、

・ 7段階の減衰力調整
・ Cリング式の車高調整

の機能が備わっていました。


限られた調整範囲内で、オーナーはFTECと共に、

・ 運転感覚や運動性能への影響
・ タイヤや車体構造への負荷

等について、ストリートカーならではの長い時間をかけて試行した経緯があります。
尚、試験的要素の強い変更の成否判定には、クローズドコースを利用しています。


疲労困憊したブッシュ。後ナックルのショックアブソーバー取付部。
ハブベアリングAss’y 取付部。双方の嵌合面を修正
後マルチリンクサスペンションの、主要構成部品。

摩耗して失われたインシュレーターと、崩れたアッパーマウントブッシュ。
偏芯した前ショックアブソーバー下側ブッシュ。
ナックルアームブッシュ。破断が認められる。
ボアとスリーブの傾斜。

オーナーの嗜好に合わせて、以下の点を重視して仕様変更します。

・ 回頭性より進路保持性を重視する
・ 後輪のトラクションをより多く引き出す
・ 大きい旋回半径、長い旋回姿勢に適応させる

なお、このクルマの前サスペンションは、

・ スパンの短い社外品のアッパーリンク

を採用しているため、前側にはコンプライアンスブッシュが存在しません。
したがって、以下の作業は後サスペンションが主体となることをご承知ください。

鋼板製のアームからブッシュを抜出す。 
スリーブのかじりによる損傷がないことを確認する。
ボア側の異物を除去し、♯400程度まで研磨する。
ニスモ製ブッシュのアウタースリーブも研磨する。
今回使用する、唯一のピロボール(スフェリカルベアリング)。 
新品のスタビライザーブッシュにシリコングリスを塗布。
すべてプーラーとドリフトで入れ替える。打撃は厳禁。
アルミはかじりやすいのでボア側の仕上げが重要。
♯400以上の仕上げが最低水準です。
抜くときの工具をインサーターに変えて挿入。
ピロボールカラーの圧入代を調整。面一を確認。

ブッシュはすべて、ニスモオプション品を使用しています。

余談ですが、このクルマのナックルアームはアルミダイキャスト製です。鋼板製より柔らかくてかじり易いうえ、狂いや破損を生じやすいので、打撃系の作業は厳禁です。

ナックルアームが狂った車は、静的なアライメントが正確でも、真っ直ぐには走れません。


汚れ放題だったバックプレートを洗浄。
鋼板製アーム類は浮き錆を落として防錆塗装。
新たに装着するストラットユニット。
組付け開始前に、部品構成を確認。 
サイドブレーキ等、付帯作業の重複する箇所はすべて整備を実行。
1Gのアーム角度で締付けた後、90°戻す。
アーム内外とも90°戻した状態。 
最終的な車高に調整した後、アーム角度を再現して本締め。

このクルマのアライメント数値は、前述の改造に加え、

LSDのロッキングファクター変更

による影響があるため、メーカー指定の数値とは異なるものになっています。

FTECは、オーナーの嗜好(スタイルやスキル、ステージ等)によって、最適解が変わるのは当然のことだと考えています。違和感があるのに、「正常値に収まっています」とだけ言われて困惑している人は、先入観や既成概念を棄ててかかる必要があるのではないでしょうか。

協力:ジェイクロス
BNR32型スカイラインGT-Rは、非常に前よりの偏荷重でバランスしています。
2柱リフトにセットするなら、ドアミラーの鏡面が丁度センターに入るくらい。

したがって、高速高荷重の長い旋回姿勢をとり続けると、前側に強い軋轢が生じます。
その特性を受入れ、理想の挙動に近づける方法は、

・ オーナーが期待するクルマの応答
・ オーナーが希求するドライビングの作法

等によって、様々なバリエーションの中から選択する必要があります。
FTECにとって、オーナーと協調して唯一無二の成果を得ることは至上の喜びです。


このクルマは、今回の整備で運転操作に対する応答性が大きく変わりました。

一般的なスキルの乗り手には、最初の戸惑いが大きすぎるかもしれません。
しかしこのオーナーなら、瞬く間に乗りこなしてしまうでしょう。