埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

L型エンジンのディストリビューター修理

日産フェアレディ 240Z(HS30)です。年式は1972年(昭和47年)
エンジン不調の修理で入庫しました。


バックファイアとアフターファイアを頻発し、車体全体が振動している状態。
スロットルペダルを離すとストールするため、アイドリングもできません。

自走不可能ということで、オーナー自ら積載車でお持ちいただきました。
これまでの経緯を伺ったところ、自然にセッティングを崩したのではなさそうです。

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L型エンジンの排気量は、4気筒 1,300㏄のL13 から、6気筒 2,800㏄のL28まで。
240ZのL24は、北米で先行販売されていたブルーバード510のL16を6気筒化したもの。
1気筒あたり400㏄で 4気筒なら1,600㏄、6気筒なら2,400㏄、ということですね。


ピストンやコンロッドが共通なので、ブルーバードの4気筒用アフターマーケットパーツがそのまま6気筒にも使えました。これは、北米市場における新興勢力として日産が支持層を拡大する決定的な要因でした。L24が改造されるのは、生来の宿命だったのです。


現車は初入庫のクルマなので、まず根幹が最低限の機能を備えていることを確認します。

最初はバルブクリアランスの調整です。なにしろ40年前のエンジンですから、バルブ周りの摩耗はあって当然。クリアランスを広めにセットして、確実な着座を促します。

テスト用のセット。IN 0.30 EX 0.33 (冷間時)。

スパークプラグ。左から順に、1→6番シリンダーから取り外したもの。
燃焼温度がまるで上がっていないことがわかります。


不調なりに運転温度を上げた後、コンプレッションを測定。
とりあえず、根本的な欠陥によってエンジンをオーバーホールする必要はなさそうです。


ディストリビューター周りから打音が発生しており、点火タイミングが滅茶苦茶です。
分解点検すると、ガバナーウエイトのリターンスプリングが1本欠損しています。
ウエイトがケースを叩いて踊るため、勝手に点火タイミングが狂っていたようです。


日立製のポイント式ディストリビューター。日産部品ではすでに製品廃止扱い。
構成部品のほとんどが入手できず、アッセンブリー供給も不可能とのこと。
さすがにキャップとローター、コンデンサー等はまだ在庫がありましたが・・・。


テンションとストロークの似たスプリングを、MSDディストリビューター用のセッティングパーツから選択して取付けました。アメリカには、進角特性を変更するためのスプリングが何種類も存在しています。また、マロリーからは、240Z用のデュアルポイントディストリビューターが、今も変わらず販売されています。


ディストリビューターを駆動するギヤ周りを点検。
経年による摩耗が認められますが、今回の症状に直結するような不具合はありません。


スピンドルシャフトの同軸上、ドリブンギヤを挟んでディストリビューターの逆側では、オイルポンプを駆動しています。昔、オイルポンプのおかしな改造が流行ったことがあるので、この部分の点検は必須です。オイルが血液ならポンプは心臓ですからね。


組み上げて再始動し、点火タイミングをテスト用のBTDC12度にセット。
勝手にタイミングが変わる症状はなくなりましたが、なんだか嫌な音がします。

日産L型用 ディストリビューター構成図 (日立製)

再度ディストリビューターAss'y を取り外して分解。
今度はノックピンを除去してシャフトを抜き取り、ボアと上下の稼働箇所も点検。

すると・・・

日産L型用 ディストリビューター構成図 (三菱製)


上側のスラストワッシャーが不適切なグリスでシャフトに張り付いており、カラーとワッシャーの順序が逆に組まれています。これでは異音が出て当然です。

洗浄して摩耗状態を確認、エンジンオイルを塗布して組み直しました。


再始動して完全暖機後、バルブクリアランスを IN:0.25 EX:0.30 の規定値に。点火イニシャルタイミングとアイドルミクスチャーを合わせてCO 1.8% HC 150ppm に再調整。結果、良好な始動性と円滑なアイドリングを取り戻しました。



L型エンジンは、1960年代半ばから1986年に至るまで「日産のエンジン」の代名詞でした。その生涯は、日本車が信頼性を世界に示す重要な時期と重なっており、その証明への貢献に着目すれば、「日本の自動車産業を牽引したエンジン」といっても過言ではありません。

我々日本人は、自分たちの成し遂げた事柄に対する総括を怠りがちです。

古いものは悪いもの、新しいほど良いもの、と決めつけてかかる消費は、単なる浪費に過ぎません。失敗も成功も受容し、原理原則を継承せんとする思潮こそ、日本人の自信と勇気の源泉であるとFTECは信じています。




おまけの映像は、スイスのショップが今も走らせている、公道レース用のS30Z。
オリジナルへのリスペクトを感じさせる仕上げに、脱帽です!