埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ファルコンのサスペンションとブレーキの整備

フォード ファルコン スプリント ハードトップ (1964年式)です。
サスペンションとブレーキの、再生と改造のために入庫しました。


サスペンションに関しては、
ブッシュおよびボールジョイントの交換

ブレーキに関しては、
フロント ドラムブレーキのディスク化SSBC A63-1 使用)

と、それらに必要不可欠な、関係各所の調整をご紹介します。

.
1964 Mustang Catalog
フォード ファルコンは、アメリカの小型大衆車として1960年に誕生しました。
このクルマは、1964年と65年に生産された第二世代モデルで、シャシーコンポーネンツの大部分をマスタングと共用しています。

1965 Falcon Catalog

さて、目の前の現実を見ると、あらゆる箇所が酷い有様です。

降雨量の少ない地域で過ごしていたようですが、堆積した土埃に油汚れがしみ込んでいて、地金には錆が吹き出しています。

今整備しなければ、なんとなく乗れなくなって、ほどなく土に還ってしまうでしょう。


ロアアームを取り外し、ロアボールジョイントとインナーブッシュを交換します。


もとはラバーブッシュだった部品ですが、風化した革製品のようになっています。


ロアボールジョイントのダストブーツ。
ゴムがグリスにおかされてガム状になっており、形状を保てない状態です。


長年堆積した汚れをスクレパーで除去。最大厚さは約1㎝。


フォード純正のボールジョイントは、ロアアームと一体で供給されます。
今回は、社外品のボールジョイントを使うために、純正ロアアームを加工します。


ロアアームのインナーブッシュは、プレスで抜いてボアを仕上げてウレタン化。


新しく取付ける、社外品のロアボールジョイント。
コルクのインシュレーターが積層されています。


純正ボールジョイントは、リベット締結×3、スポット溶接×4 でアームに結合されています。リベットはディスクグラインダーとリューターで頭を削り落としてポンチで打ち抜き、スポット溶接は専用のリムーバーでアーム側の溶接個所のみを除去して分離。


純正ロアアームからロアボールジョイントを取り外した状態。
再使用するアーム側にダメージを与えないように、慎重な研削が必要です


1960年代までのアメ車には、鉄細工への執念が感じられます。
この部品にも入念な加工がされていて、実に良い質感です!


取り出したブッシュ。こんな状態でも、走ることはできます。
こんな状態でも、車検には通るんですね・・・。


アームとジョイント、双方の取付面を清掃して仕上げ、まずはボルトナットで仮組み。
純正のリベット穴を利用して位置決めをしていきます。


次に、クランプして溶接。
純正のスポット溶接をはがした穴を利用して、大電流で溶接します。


あとでテンションロッドと干渉しないように、ボルトを入れて加減を調整します。


ロアアームとテンションロッドの嵌合面に、溶接の肉盛部が干渉してはいけません。


こちらも、相当近いです。溶接だけで、ちょうど平らに仕上げるのがベスト。


フロントサスペンションとブレーキ関連の、新たに装着する部品群。

・ ディスクブレーキ用バックプレート
・ アウターハブ一体式ベンチレーテッドディスクローター
・ ドラム→ディスク化用キャリパーサポート
・ 4ポッドブレーキディスクキャリパー
・ ブレーキマスターシリンダー
・ ブレーキバランサー
・ ハブベアリング&シールセット
・ アッパーアーム
・ ブレーキディスクパッド

等が下の写真でご確認いただけます。


テンションロッド、車体側の取付け部は、フォーク状のシムでキャスターを調整します。


ロッドの切溝にシムを足してブッシュを前方に出し、キャスター角を調整する仕組みです。


ブッシュへの荷重は大径の座金を介してロッドから伝わるので、材質が変わっても問題ありません。オーナーの嗜好によって、音振性能を重視するならラバーブッシュ、運動性能を追求するならウレタンブッシュ、そういう選択基準で良いかと思います。



消耗したラバーブッシュと新品のウレタンブッシュの高さを比較。
これだけ差があると、ステアリングの操作感も大幅に変わってきます。


新旧アッパーアーム。こちらも手前のシムでアライメント調整をしています。



今回は取外す前の状態を維持して組付けましたが、クルマ全体の精度が上がった暁には、きちんと適正値を求めてアライメント調整をしたいものです。


ドラムブレーキAss'y を、ナックルスピンドルから取り外します。


浮錆を丹念に落として、キャリパーサポートとの嵌合面を調えます。


仮組みしてキャリパーサポートの据わりを確認。


同じく、ディスクブレーキ用バックプレートの据わりを確認。


4ポッドキャリパーを仮組みして、バックプレートの干渉箇所を切除します。


この状態で、ブレーキホースの取り回しに無理がないかを確認します。

ホイールのトラベルストロークとステアリングの切れ角を考慮して、捩れや干渉が起こらないように固定しなければなりません。これについては、作業完了後にリフトから降ろして静的確認を行い、走行テスト後にも再度確認をする必要があります。



つづいて、ハブベアリングを交換します。
ここのインナーレースとスピンドルは、ドライ状態で吸い付くような嵌合が望ましい。


ハブとアウターレースも同様に確認。


新品なのでハブ側の溝に空気が噛まないよう、十分な量のグリスを詰め込みます。


グリスパッカーで給脂したベアリングをセットした後、ハブシールを打ち込み。


ハブを何度も手で回しながらナットを調整。
ここもブレークイン(=慣らし運転)の後で再調整が望ましいところです。


あらためてキャリパーを確認。摺動箇所に耐熱グリスを塗布して組立てます。


効きそうな雰囲気が出たかな?

各部のクリアランス設定は非常にタイト。

フロントサスペンションまわりの、残りの部品群。

新旧コイルスプリングとショックアブソーバー、ピボットブラケット、スタビライザー。
スプリングの自由長の差が大きい。跳ねなければ良いが・・・。


新しいスプリングは、太くて短いプロフィール。


スタビライザー径も、だいぶ太くなっています。
ブッシュはすべてウレタン製。


組み上がったフロントサスペンションと、新たに装着したディスクブレーキ。


つづいて、リヤサスペンションのブッシュを交換します。

ファルコンのリヤはリーフリジッド式なので、ギヤキャリアを保持してリーフスプリングを取外します。ここのブッシュもすべて、ラバーからウレタンへと変更しました。


車体側のブッシュもすべて交換します。


新旧ブッシュを比較。


エキゾーストパイプを取外しているので、作業域が広く確保されています。


潤滑油を注油して、プレスでリーフスプリングからブッシュを抜き取ります。


抜き取り後、ボア内面を綺麗に仕上げないと、ウレタンブッシュは装着できません。
無理に圧入したりすると、装着できなくなる恐れがあります。
基本的に、取付けは素手でできるくらいの下地が必要です。 


リーフ側の錆は推察してください。(撮影漏れでした・・・)


ブレーキラインに、プロポーショニングバルブ(=バランサー)を割り込ませます。

ドラムブレーキのディスク化を行った場合は、この作業は不可欠です。
ドラム式は、ペダルを離せばリターンスプリングでライニングを戻しますが、ディスク式に戻し機構はありません。大型のマスターシリンダーに交換した場合は、リヤのブレーキ圧力を大幅に絞ってやらないと、リヤが先にロックする危険なクルマになってしまいます


ナットセッターでフレームに取付箇所を作製。


ブレーキパイプを作製してプロポーショニングバルブを取付け。
リヤのブレーキ圧力がフロントの50%程度になるようにバランスを調整。


リヤブレーキはドラムのままですが、当然整備と調整を行います。
要整備の状態ではセッティングができませんので。


ホイールシリンダーは、同径のものに交換。
ブレーキバランスの確認は、上述のように何度も繰り返して実施しました。



フォード ファルコンは、1950年代末期のアメリカで路上を席巻していた「歴史上類例のない巨大なクルマ」に嫌気がさしてきたユーザーを狙って開発されました。

大きくて高価なクルマに興味を示さないカスタマーが、VW等の輸入車に惹かれるようになっていたため、フォードをはじめとするアメリカの自動車メーカーは、より小さくてヨーロッパ車に見劣りしないクルマを市場に送り出す必要があったのです。

コンパクトなパッケージながら抜かりのない設計であることを証明するために、モータースポーツにも積極的に参加し、オンロードでもオフロードでも、ポルシェやアルピーヌ、ロータスと伍して競ったことが知られています。

下の写真は、セブリング(アメリカ)とスパ(ベルギー)で近年撮影されたもの。
動画は、ディジョン(フランス)で撮影されたものです。





奮戦の残像は半世紀が経った今も、ファンの心を掴んで離さないようですね!