リンカーン ナビゲーター U228 (第2世代、2004年式)です。
エンジン前方から発生した異音を修理するために入庫しました。
アイドリング状態でクルマの前に立つだけで、エンジン回転数に比例した耳障りな高周波を確認できます。深いファンシュラウドを取り除き、全プーリーをステーソスコープで調べたところ、異音がウォーターポンププーリーの回転と同調していることを確認できました。
現車のウォーターポンプは、水漏れこそ生じていないものの交換歴はなく、オーナーからは当分このクルマを楽しみたいという意向も伺っていたので、エンジン補機類ドライブベルト周辺の整備と同時に、交換することに決めました。
ナビゲーターのエンジンは、この2004年式までが DOHC インテック 5.4L V8。
エンジン上方および前方の補機類を外していくと、随所にダイキャスト製のカバーを配した見るからにヘビーデューティなV8エンジンがあらわになります。
ウォーターポンプはこの位置です。
この写真はカメラをエンジン正面に突っ込んで撮影したもの。車載状態ではオルタネーター直下のボルトは目視することができません。
取付け面を損なわないよう、慎重に取り外し。
エンジン側取付け面を観察。
Oリングとシリコンシーラント(液体パッキン)が併用されていたことがわかります。
機械仕上げの取付け面が平滑であることと、古いシーラント等の異物が付着していないこと。どちらも初期不良のリスクを退けるための、絶対はずせない条件です。
新旧ウォーターポンプの比較。
新品のウォーターポンプは、軸部の潤滑を司るクーラントが行き渡るまで、無暗に回してはいけません。重く滑らかに回ることを確認するにとどめます。
作業姿勢が苦しく、取付け面の上半分は目視できないので、勘合部の清掃には細心の注意が必要です。今回はガスケットリムーバーと写真の道具を使って、要所要所で鏡を使いながら仕上げました。
部品の仕上げ面同士が吸い付くようにフィットすることを確認した後、RTVシリコンシーラントを最低限の量だけ塗布してウォーターポンプを取付けます。
プーリーに付着した古いリブベルトの残滓。これも異音の原因になり得る箇所。
スクレイパーで削ぎ落とし、最後にガスケットリムーバーでピカピカに仕上げます。
当然ですが、エンジン補機類のドライブベルトも交換します。
元のベルトが新しくても、油分や水分が付着したものは交換です。
付帯作業として取り外したラジエターアッパーホース。保護チューブの覆う範囲が延長されています。これもついでに交換しました。
ウォーターポンプの同軸で駆動される、ファンカップリング。これもまた異音の発生原因であり、スリップ量過多の状態だったので交換しました。こういう作業は追加工賃がかかりませんので、修理後も長く乗るつもりのオーナーからは、リクエストをいただくこともしばしばです。
クーラント漏れがないことを確認して、修理完了としました。
整備後は乾いたゴムが擦れるような耳障りな低質音が消え、本来のエンジン音に戻りました。リンカーン ナビゲーターは高級SUVの先駆ですから、順調な音で優雅に走り去るのが一番よく似合います。
クルマのステイタスは、所有することより乗りこなすことの方にあるのかもしれません。
FTECの整備が、そういう価値観の人々に相応しい品質でありますように。