日産スカイラインGT-R(BNR32型)です。
現車は、平成6年(1994年)式の V-SpecⅡ。
サスペンションは最近の同型他車に比べれば、大人しい仕様です。
主な変更点は、
・ 調整式テンションロッド
・ 全長ねじ式車高調整ストラット
などであり、その他は、テンションロッドと前後アッパーマウント、後ストラット下側のブッシュを、ピロ(スフェリカルベアリング)化しているくらいです。
今回はコーナーウエイトゲージ(インターコンプ社製)を用いて、車高を見直します。
コーナーウエイトゲージは、四輪の接地荷重を測定する整備機器です。
四輪の車高を無段階に調整できるクルマは、荷重分布も調整することができます。
再調整を決めたきっかけは、この動画です。
BNR32がサーキットに現れた当時のレージングドライバーである桂伸一さんが、袖ヶ浦フォレストレースウェイでこのGT-Rを試乗しています。
桂伸一さんがアルティアFALKEN GT-Rで挙げた記録は、JAFのサイトで見られます。
ノーマルのスカイラインGT-Rに精通した乗り手として、申し分のない人物です。
・ 前:直巻き 69N/mm (7kgf/mm) 自由長 250mm
・ 後:直巻き 59N/mm (6kgf/mm) 自由長 200mm
減衰力は、
・ 前:伸側 1,134 N / 縮側 520N
・ 後:伸側 618 N / 縮側 186N
(0.1m/sec. 部品メーカー公表値)
これを元に、前の減衰力を更に締め上げたセットになっていました。
動画で運転操作を仔細に見ると、右コーナーの修正舵が多いことに気付きます。
袖ヶ浦フォレストレースウェイのレイアウトを俯瞰すると、一層気になります。
右コーナーの方が多いことや、タイヤが古いストリートラジアルだったことを考慮しても、インフィールドの大きく左に回り込むコーナーで伝わってくるグリップの余裕が右コーナーでは希薄な印象を受けます。
また、動画前半でウィービングする様子からタイヤの温度や内圧への気遣いが感じられるので、数が少ない左コーナーでペースを落とす理由はなかったと思われます。
これらのことから、左右のターンで乗り手の期待とズレた動きが出ているのではないか、と考えました。
左右の旋回特性のバランスに影響力のあるセッティング要因に、静的荷重分布とクロスウエイト比があります。静的荷重分布は水平に置いたクルマの4つのタイヤが受け持つそれぞれの荷重を、クロスウエイト比はクルマを真上から見て対角線上にある2つのタイヤが受け持つ荷重の合計を比較するための指標です。これらは、コーナーウエイトゲージを用いた車高調性によって変更することができます。
また、動画前半でウィービングする様子からタイヤの温度や内圧への気遣いが感じられるので、数が少ない左コーナーでペースを落とす理由はなかったと思われます。
これらのことから、左右のターンで乗り手の期待とズレた動きが出ているのではないか、と考えました。
左右の旋回特性のバランスに影響力のあるセッティング要因に、静的荷重分布とクロスウエイト比があります。静的荷重分布は水平に置いたクルマの4つのタイヤが受け持つそれぞれの荷重を、クロスウエイト比はクルマを真上から見て対角線上にある2つのタイヤが受け持つ荷重の合計を比較するための指標です。これらは、コーナーウエイトゲージを用いた車高調性によって変更することができます。
動画撮影時のままの状態で、コーナーウエイトを測定した結果がこちらです。
左が空車状態、右がドライバーひとりが乗車した状態です。
左が空車状態、右がドライバーひとりが乗車した状態です。
乗車時における前輪荷重の左右差(左:444.5 右: 473.0 単位 kg)に、改善の余地が認められます。運転席側が重いのは仕方のないことですが、荷重が少ない前左タイヤは右コーナーで緩慢な働きしかできなかったはずであり、そのことは左コーナーで前右タイヤが機能することによって一層強調されていたに違いありません。
なお、測定時の燃料搭載量は、動画が撮影された時よりも少ない量になっています。
車高の見直しにあたり、まず左右のスプリングシート(ライドハイトアジャスター)位置が、完全に揃っていることを確認します。
通常、全長ねじ式ストラットの車高調整は、スプリングシートではなくロアブラケットで行います。どちらを動かしても車高が変わってしまうので、事前に位置を揃えておかなければ減衰力特性がアンバランスなまま車高だけは揃ってしまうことになりかねず、調整の目的が果たせなくなってしまうので、この確認は必須工程です。
寸法を揃える方法に決まりはありません。作業スペースごとに、パスやスケール、ノギスなどを使いながら、左右差1㎜以下に揃えられれば充分です。
左右のストラット寸法を完全に揃えた状態で、再びコーナーウエイトを測定します。
どのクルマにもあてはまることですが、ステアリングコラムやペダルボックスの重量が嵩むので、運転席の有る側の前方が重くなっています。この状態では、もともとの重量配分に由来するクルマの傾きは補正されないので、全体の姿勢は右に傾いています。
一方、乗車時の前輪荷重の左右差(左:447.5 右: 466.0 単位 kg)は、入庫時より若干改善しています。空車時で6㎏軽くなっているのは、燃料消費の影響です。
前右の重量に釣られて全体が右に傾いている姿勢を改善し、尚且つ静的重量分布とクロスウェイト比を整えるには、どのように車高を調整すれば良いでしょうか?
コーナーウエイトゲージの数値を見ながら最大5㎜の範囲で調整を繰り返せば、現車の特性を把握できます。当然ながら、必ず基準位置に戻せるように調整しなければなりません。
現車の車高調整式ストラットは、ねじのピッチが1.5㎜。ということは、1/3回転(60°)で0.5㎜、2/3回転(120°)で1.0㎜ストラット長が変わります。
BNR32型 スカイラインGT-Rが備えるマルチリンクサスペンションの、ストラットとハブセンターのレバー比は 前:1.03 / 後:1.12。故に、ストラット長の変更値は 前 3% / 後 12% 増幅されて車高に影響することを計算に入れて調整することが肝要です。
測定と調整を繰り返した結果、最終的な到達点としたコーナーウエイトは以下の通り。
現車固有の特性を理解し、クルマ全体の右への傾きに配慮した結果、
・前左のストラット長を2㎜短く
・後右のストラット長を3㎜長く
調整しました。これにより、前輪荷重の左右差を更に改善(左:450.0 右: 463.0 単位 kg)することができました。また、クロスウエイト比は 50.32:49.68 (%)となり、入庫時の 50.83:49.17 (%)より、僅かながら改善しています。
全体の重量が17㎏増えているのは、燃料補給の影響です。この17㎏が静的重量分布に与える影響を見れば、満タンで走り出して給油するまでに起こる変化にも予想がつきます。
BNR32型 スカイラインGT-Rの燃料タンクは、リヤオーバーハング右寄りに配置されています。従って、搭載する燃料の重量は、後右の接地荷重を増加させます。
燃料タンクが右寄りに配置されている理由は、エキゾーストパイプとサイレンサーを通すためです。現車が装着しているマフラーは大口径で軽量化されたもの。もし後輪荷重の左右差だけに着目するなら、純正の重いマフラーにも良いところがあると言えそうですね。
こうして、BNR32型スカイラインGT-Rの車高が、コーナーウエイトと共に整いました。
機会があれば、条件を揃えて同じコースで評価したいものです。
・・面白かったですか?
こんなことまでして得るものはあるのか?
違いが体感できるのか??
という人が多いかもしれませんね。
しかしながら「自動車設計のはじめの一歩は重量計画とタイヤサイズである」という見方を否定するエンジニアに出合ったことがないのは、紛れもない事実です。
走行性能向上を目指して車体に変更を加えるなら、定期的なコーナーウエイトの確認は正しい方向性を見定める助けになると、FTECコーポレーションは考えています。
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