エンジンはL24、キャブレターはOER45を3連装しています。
車検整備の一環として、キャブレターの調整を行います。
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OER45は、日本製のサイドドラフト式ツインチョークキャブレター。
同類に属するキャブレターとしては、
・ソレックス(Solex、フランス発祥): 44PHH
・ウェーバー(Weber、イタリア発祥): 45DCOE
・デロルト(Dellorto、イタリア発祥): 45DHLA
などが挙げられます。
機構の詳細や歴史と実績に違いはあれど、エンジン調整の考え方は同じです。
調整方法について「キャブレターのセッティング」で検索すれば、「パワーが上がる」とか「タイムが縮む」という内容の記事がたくさん見つかります。
しかし、「排出ガスレベルの低減」が目的のまともな記事は見当たらなかったので、僭越ながらFTECで行った調整手順を紹介させていただきます。
セッティングの前提条件を列挙します。
1.燃料系統
☐ タンク内面の錆が燃料に混入していないこと
☐ ポンプのストレナーに詰りの無いこと
☐ フィルターカートリッジに詰りの無いこと
☐ 全キャブレターの油面が揃っていること
油面は、OERなら専用スクリューがあるので±1㎜以内に揃えるのも容易です。
また、ガソリンはレギュラー仕様のエンジンでもハイオクを給油しましょう。
2.点火系統
☐ ディストリビューターキャップの点検清掃
☐ ディストリビューターローターの点検清掃
☐ ポイント、ピックアップの点検
☐ ガバナー、バキュームアドバンサの点検
現車には社外品(マロリー)のディストリビューターが装着されています。点検調整の方法はマロリー規定の手順に従います。
日産純正のディストリビューター(日立製または三菱製)であれば、ポイントの点検とコンデンサーの交換を行ないます。
ガバナーやバキュームアドバンサの点検は、点火タイミングがスムーズに変化して元のタイミングに戻り、それを維持できてさえいれば、アイドリング調整には充分です。
3.エンジン本体
☐ インテークマニフォールドの気密を確認
☐ バルブクリアランス(タペットクリアランス)を公差の上限に調整
☐ スパークプラグを純正品と同じ仕様に交換
☐ エアクリーナー、ファンネルの取り外し
タペットは広めに調整します。当然、タペット音は大きくなります。
外したプラグは気筒順に並べ、焼け色と摩耗の状態を把握します。
これらの前提条件は、調整前に不調なく走れているクルマを想定して挙げました。
そもそもエンジンが不調であれば、この記事の続きを読んでも混乱するだけです。エンジン不調の原因を取り除くには別の視点が必要なので、その場合は別途修理を承ります。
【調整開始】
CO : 3.6% HC : 1,800ppm
HCを下げないと、保安審査不適合の状態ですね。ちなみに点火タイミングは
BTDC 20°
でした。
COは4.5%以下に納まっていますが、標準的なL24(E88ヘッド)であれば、多少くたびれていようと、もっと下げられるはずです。理論空燃比 14.6:1よりリッチ側で回っていることは確実なので、COが下がればHCも下がる領域にあると言えます。
まずはアイドリングで供給するガソリンの量を、パイロットスクリューで絞りましょう。
最初に、3機のキャブレターからスロットルリンクを外します。すると、アイドル回転数が50rpm程下がるかもしれません。これから始める調整には、その方が好都合です。もし数秒で止まりそうなほど下がるなら、フローメーターで一番流量の少ないキャブレターを選び、スロットルアジャストスクリューでアイドリングを維持します。いずれにせよ、調整中のアイドル回転数は低めにセットするのが肝心です。
現車のキャブレターはツインチョーク3連装なので、6つのバレルに6本のパイロットスクリューがあります。今の状態で1本を全閉にしても、エンジンが止まることはあり得ません。全閉にしては元の位置に戻す操作を6回繰り返し、パイロットスクリュー6本の戻し量を記録します。パイロットスクリューは真鍮、キャブレターはアルミが素材であることを意識し、決して締付けたりしないよう注意しましょう。この場合の全閉とはガソリンが吹かなくなる状態を指すのだから、指先に抵抗を感じはじめる位置と思っておけば安全です。
次に、スロットルリンクと反対側のパイロットスクリュー3本を、同じ要領で調整します。キャブレターの個体差によってダルかセンシティブかの違いは出ますが、最初の3本とは反応が違うはずです。もしかしたら、全閉にしてもエンジンの振動が始まらないパイロットスクリューがあるかもしれません。今の調整目的は限界まで絞ることですから、全閉になったスクリューを開ける必要はありません。
この状態で6つのバレルにフローメーターを当てると、流量が10~20%も違うバレルが見つかります。ひとつのキャブレターの左右のバレルで流量が違う場合は、調整で解決することはできません。神経質にならず、公差を拡げてスロットルアジャストスクリューで改善を図りましょう。流量が極端に少ないバレルがあるなら、そのバレルの流量を増やすのではなく、もう一方のバレルの流量を他のキャブレターより心持ち増やすと良いでしょう。
パイロットスクリューでガソリンを絞っていくと、「パン、パン」「クシュン」とキャブレター側に吹き返す、バックファイアが現れます。クルマによっては、マフラー側にアフターファイアが現れることもあります。混合気が薄すぎるとバックファイア、濃すぎるとアフターファイアが現れるというのが一般論ですが、薄さの限界を探る過程でアフターファイアが現れることも、実際にはあるのです。
特にこの年式のマフラーは触媒が無いので、それぞれの兆候が顕著に現れます。
このとき現れるバックファイアやアフターファイアは、パイロットスクリューでガソリンを絞り、混合気を薄くしたことが原因です。当然ですね?他には何も変えていないのだから。
混合気が薄くなると燃焼時間が短くなり火炎伝播が速くなるので、バックファイアもアフターファイアも出ないように吸排気バルブが閉じた燃焼室からもれなく実効圧力を得るには、点火タイミングの見直しが有効になります。
混合気が薄いがために、「短く」「速く」そして「弱く」燃えていることを念頭に、点火タイミングを調整します。吸気側にバックファイアを起こしていれば点火タイミングを遅らせ、排気側にアフターファイアを起こしていれば点火タイミングを進めます。この要領で、バックファイアもアフターファイアも治まる点火タイミングが必ず見つかります。
これにより、現車の点火タイミングは、
BTDC 20° → 10°
になりました。
整備要領書とは全然違う数値になっても、気にすることはありません。これは新車のエンジンではないのだから、タイミングチェーンが伸びてバルブタイミングがずれているかもしれないし、プーリー横のタイミングインジケーターも合っているとは限りませんから。
この状態で排出ガスレベルを測定すると、
CO : 1.5% HC : 1,050ppm
という数値が得られました。
既に保安審査適合レベルまで下がっていますがアイドリングは円滑で、まだ下げる余地が残されていそうです。念のため、更に良好な結果を求めて調整を続けます。
点火タイミングは現状を維持し、パイロットスクリューでガソリンを絞る手順をより細密に実施します。具体的には「1/4回転締めては3秒待つ」を「1/8回転」で行い、「1/16回転」で仕上げる要領です。終盤には3秒待つまでもなくエンジンが即応するようになります。
これを実施した結果、スロットルリンクと反対側に位置する3本のパイロットスクリューを、3本とも全閉にすることができました。
この状態における排出ガスレベルは、
CO : 0.5% HC : 600ppm
となりました。
スロットルリンクに近い3本のパイロットスクリューのうち、どれか1本でも1/16回転緩めると、即座にエンジンが喜ぶのが解かります。それを確認したうえで元の位置まで締め込み、調整は終了とします。
エンジンを停止させ、最初に外した3本のスロットルリンクのうち1本をキャブレターに接続し、スロットルペダルを全開位置に固定します。キャブレター内でスロットルバタフライが全開になっていることが確認できたら、ペダルの固定を外します。残り2本のスロットルリンクをシャフトからフリーにしてキャブレターに接続し、最後にリンクとシャフトを締め付ければ完了です。
FTECコーポレーションは、車検のたびに現車を陸事(自動車検査登録事務所)の検査ラインに持ち込む認証工場です。点検整備の効果を確認するためのテスト走行を兼ねて、往復20~30㎞は必ず実走します。
このクルマは、途中で大渋滞にはまりながらも一度も調子を崩すことなく、検査に合格できました。最近のエコカーと比べれば途方もない燃料消費量ですが、L型エンジンのデビューイヤーが1965年(昭和40年)であることを想えば、十分納得できるのではないでしょうか。
240Z(HS30型)は、日本国内で登録された台数より海外へ輸出された台数の方が遥かに多いクルマです。自由奔放な改造で目を楽しませてくれるオーナーが世界中にいますが、近年はオリジナルの日本仕様に特別な価値を見出す人もいるようです。
生きて走り続けるクルマは、美点も欠点も明け透けに次世代に伝えます。民族や宗教や国境を越えて世界中で愛される日本車があることを、FTECコーポレーションは誇りに思います。