BMW Z3(E36/7型 1996-2002)です。
運転席のシートが前後にガタつく症状を修理します。
「乗員の体重で後方に留まっていたシートが、減速Gによって前方に動いてしまう」。
6年間にわたるモデルライフで様々なエンジンを搭載したZ3ですが、これは全車に起こり得る症状です。BMW正規ディーラーではシートレールアッセンブリーを交換していましたが、Z3の生産終了から20年が経った今となっては、レールの再調達も困難になっています。
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モータースポーツ志向の強いオーナーなら、シートとレールをセットで社外品に交換するのも一興でしょう。BMW純正を尊重したいオーナーは「現品修理の一択」ということになります。
まず、シートアッセンブリーを取り外します。パワーシートを動かしながらの作業となるので、電源を分離するのは降ろす直前にしましょう。
シートを下方向から見て、シートレールの構造を確認します。
現車のレールは、前後スライドと座面の高さを調整できる仕組み。
Z3のシートレールには年式による品番の違いもあるのですが、前後スライドの方向にガタを生じる問題は、終ぞ改善されませんでした。
なお、この状態でも前後にスライドさせられるようにパワーシートの延長ハーネスを製作すると、作業の品質が向上します。
シートレールから、前後スライドをつかさどる送りねじを取り外します。
この部品には、左右対称の台形ねじが使われています。
必ず元の位置に復元できるよう、マーキングをしながら分解しましょう。
ここが、ガタつきの原因箇所です。
指でつまんでいる枡形の中に四角ナットが納められ、そこに台形ねじが貫通していますね。
この四角ナットと枡形のハウジングの寸法には、台形ねじの送り方向に10ミリ(1.0ミリではない)程の余裕があり、その余裕分を樹脂製のスペーサーで埋める設計になっています。
台形ねじと四角ナットを円滑に機能させるために塗布されたグリスが、樹脂製のスペーサーを侵して摩滅させたことにより、走行中の前後Gでシートが10ミリ程もガタつく結果となったのです。
構造と機能を理解したら、修理の方法を考えましょう。
BMW純正を尊重するという観点から、スペーサーを製作することにします。素材は当初、グリスの影響を考慮して金属製を検討しましたが、新たな問題を惹起する可能性を排除できなかったため、中止しました。人間の感性は無自覚のうちにも鋭敏で、10ミリのガタが1ミリに変わっても「治った」とは言えないものです。もし打音が出るような事態にでもなれば、「悪化した」と認識しかねません。
以上の考察から、
□ 素材はNBRゴムシート
□ 厚さはオーバーサイズ
□ 貫通穴は大きめ
という仕様のスペーサーを製作し、枡形ハウジングと四角ナットの前後に圧入しました。
NBRを素材に選んだ理由は、「FTECに在庫がある耐油性のゴム板だったから」。従って、物性として最適という判断ではありません。もし、この記事を読んだオーナーが、費用に糸目をつけずに素材を集めて硬度に見合う寸法を導き出したら、より優れた性能のスペーサーを製作することができるはずです。
製作するスペーサーは、台形ねじの送り方向(スラスト方向)に応力がかかるので、外形状を桝の内面と同じにすることが肝要です。
組立てにあたり、洗浄した送りねじに再びグリスを塗布します。
□ スペーサーはNBR製、とはいえ悪影響が皆無ではないこと
□ グリスには、砂埃や毛髪を粘着する特性もあること
などを考慮して、円滑な機能を長期間持続できるように塗布しましょう。
車内を清掃してシートアッセンブリーを組みつけ、パワーシートの動作テストを行います。
すべて正常なら走行テストを実施し、完治を確認できたら修理完了です。
ブレーキングでシートごと身体が前に出て驚くことは、もうありません。
BMW Z3の、シートが前後にガタつく故障の修理は、以上です。
洗浄や給脂に用いるケミカルの選び方、素材に見合った圧入代の見極めなどに多少の違いは出るでしょうが、DIYでより優れた修理をできる余地が残されていることは、本文中でも触れた通りです。
現オーナーや将来オーナーになられる方におかれましては、是非、ご自分で修理に挑戦してプロの整備士に一泡吹かせていただきたいと思います。