埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ST162のマフラー修理

トヨタ カリーナED(ST162型)です。

経年劣化で使用不能となった純正マフラーを、ステンレス鋼で製作します。


トヨタ純正の新品マフラーが入手できれば、それに越したことはありません。しかしデビューから40年が経過する今となっては、当然の如く欠品製廃です。

純正部品の性能を、より長く持続させる
そういうコンセプトで、マフラーを製作します。

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はじめに、シャシ下周りを観察し、排気系統全体の部品構成を把握します。

ST162系の兄弟車には、カリーナEDのほか、コロナクーペセリカがあります。フロアパンが共通なので、3S-G搭載車は排気系統も全車共通と思われます。


昭和の時代、クルマのマフラーはスチール製が常識でした。

現車は、エキゾーストマニフォールドから触媒の入口までには、腐食も排気漏れもありません。触媒が高温になることが災いし、触媒の出口からテールエンドまでに顕著な腐食が見て取れます




排気漏れがあると、車検は継続できません
金属テープや断熱帯、マフラーパテなど、ありとあらゆる補修法が試されています。



テールエンドに装着されている純正のマフラーチップは、ステンレス製です。傷や歪みがありますが、あえてこれを再使用することで、クルマ全体の印象を調えられると考えました。


マフラーのハンガーラバーは、トヨタ純正部品を使えるように製作します。
そうすることで、遠い未来で交換する人が迷わずに済むからです。



手当てした傍から別の穴があき、サイレンサー入り口で完全に折れています。
いかにも痛々しい姿ですね。


ガスケットやボルトナットは、当然すべて新品に交換します。ボルトを折損せずに分離できれば、幸運だったと思いましょう。



メインパイプの外径は、Φ48.6。材質はアルスター(溶融アルミニウムメッキ鋼板)です。


デュアルテールの出口は、Φ42.7 x2。
純正マフラーに倣う場合、SUS304丸鋼管の材料としては、

Φ38.0
Φ42.7
Φ48.6
Φ50.8
Φ60.5

このあたりの規格品を使用します。

Φ76.3
Φ89.1
Φ101.6

等の規格品もありますが、余程特殊なクルマでなければ使いません。
純正と同径の材料が無ければオーバーサイズを使いますが、重量増の影響は要検討です。


ST162の排気系統には、サイレンサーがひとつしかありません。
今回のマフラー修理の主旨を、いま一度確認しましょう。

純正部品の性能を、より長く持続させる。

そのためには、外形状だけではなく内部構造も再現する必要があります。





日本の道路運送車両法は、"使用過程車および並行輸入車等の非認証車に備える消音器(マフラー)は、原動機の作動中に加速走行騒音を有効に防止し、 かつ、その性能を損なうおそれのないものでなければならない"と定めています。

また、自動車点検整備推進協議会は、"何人も、自動車を道路運送車両の保安基準に適合しなくなるように改造する行為(不正改造行為)を行ってはならない"と警告しています。

FTECコーポレーションは、自動車整備の一環として、マフラーの修理を行います。
修理の方法は症状によって様々ですが、結果は必ず適法でなければなりません


現場の実情としては、

1. 純正新品マフラーに交換
2. 痛んだ純正マフラーを、保安基準を充たすように修繕
3. 社外新品マフラーに交換(保安基準適合品に限る)
4. 痛んだ社外マフラーを、保安基準を充たすように修繕

1~4を検討して、手詰まりならば、ワンオフ製作となります。

FTECの立場は、上述の通りです。
製作するマフラーの狙いは、

・音量、音質とも、純正新品を最善と心得る
・耐久性は、純正品と同等かそれ以上にする

というものになります。



トヨタ純正部品のサイレンサーには、グラスウールやスチールウール等の吸音材が使われていません。この判断は、長い年月にわたる運用でも排気音が大きく変わらないことを評価した結果でしょう。




膨張室の容積や共鳴管の配置は、トヨタ純正部品を忠実に再現すべく手技を尽くします。
純正部品が試作と改良の繰り返しで生まれることに、敬意を払いましょう。



完成したマフラーを装着した様子。

後サスペンション付近で2分割する構成は、トヨタ純正部品と同じです。
分割部分のフランジの位置や角度も、トヨタ純正部品と同じになっています。






エンジンを始動すると、懐かしい当時の記憶がよみがえってきます。
僅かに増えたマフラーの重量は、制振に効果を発揮します

純正の新品マフラーと数値で音を比較する術はありませんが、今回製作したマフラーより忠実に純正マフラーを再現した例は他に無いはずです。また、端々まで漏れなくSUS304ステンレス鋼で製作したことにより、純正マフラーより長寿命が見込めることは確実です。

これにより、マフラー腐食の悩みを完全に解消できました。


最後に、オーナーのご要望でアレンジした部分について紹介します。

・トヨタ純正のマフラーカッターを、ボルトオンで装着できる。
・市販されている汎用のマフラーチップも、装着できるようにする。

このふたつの条件を両立するためには、デュアルテールの出口パイプを、トヨタ純正部品とは違う構造にする必要があります。具体的には、純正マフラーカッターの取付けステーを、溶接ではなく脱着可能な構造に変更するということです。

新たに製作するステーもフランジボルトも、材質はSUS304です。
異種金属接触腐食を回避するため、SUSと触れ合う金属はすべてSUSで統一する。

そこに拘って製作しました。





ST162型 初代カリーナED(1985-89)の、マフラーを修理する記事は以上です。
純正の当時物に憧憬を抱くオーナーの胸に、響くものがあることを願います。


FTECコーポレーションは、今後も同様のマフラー製作を請け負う所存です。

しかしながら、1ロット1本では採算がまるで合わないのが現実です。
にもかかわらず、オーナーには大きな費用負担が生じています。

つきましては、今後の製作は「1ロット最低5本から」とさせて頂きたいと存じます。
価格と品質を維持するための苦渋の決断ですので、何卒ご理解くださいませ。

親から子へ、子から孫へと、世代を超えて乗り継がれるクルマが増えますように。