埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

リンカーン マークⅤのエンジン修理 その2

1979年式(昭和54年式) リンカーン マーク5 です。
エンジンは フォード400クリーブランド

オリジナル状態が良く保たれていたこのエンジンを、補機類の広範な整備によって再生します。まずは各部の気密を確保するために、機械仕上による嵌合面の清掃と点検から。


前の記事でも触れましたが、このエンジンはヘッドもブロックもマニフォールドも、すべて鉄鋳物で出来ています。アメ車のV8でも、乗用車用のガソリンエンジンがここまで徹底的に鉄鋳物で作られていたのは1980年代初頭まで。

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その背景には、排出ガス中の有害物質を減らす取り組みがありました。
開発の「方針」は今と同じですが「方法」からは、昔の常識が変遷していく様が見て取れて、なかなか興味深いです。

現行車のエンジンも、30年後に見れば同じ印象を受けるに違いありません。


鉄鋳物の美点は、過加熱による歪みが残りにくいこと。全部鉄製であれば、金属が膨張と収縮を繰り返したときの嵌合面の滑りを最小限に抑えられます。

吸気温度を高く、燃焼温度を低く、エンジン全体を熱く保つこと。随所にそのための設計が施されています。


フロントカバープレートの取付面から、古いガスケットを取り除きます。
あとは、根気です。


部品同士の嵌合面は、フラットであると同時にクリーンでなければなりません。
冷却水や潤滑油が付着した面は、それが引鉄になってたちまち漏れてしまいます

このエンジンの場合、鋳抜かれたリキッド類の通路をスパッと切り落とすように前面が加工されているので、何日たってもダラダラと水や油が滴ってくるところが悩ましい。


「負圧で吸い出す」「正圧で飛ばす」、どちらも通用しません。

そもそもL.L.C.は真水のように蒸発しませんし、穴の奥はラビリンス状で別の穴と繋がっているうえ、鋳肌がたっぷり水を含んでいますからね。

フロントカバーの締付け時間を考慮すれば、最低5分間は1滴も出てきてほしくない
そこで、紙製のショップタオルでこよりを作り、毛細管現象で水を引き抜くことに。


丸一日放置しても、こんなペースで滴下が続きます。



こちらは、シリンダーヘッド上面とバルブカバーの嵌合面。
古いパッキンの除去にあたり、インテークポートをガムテープで養生しています。
ここには、厚手のコルク製パッキンが使われています。




鋳型のズレによる段差(赤丸印)。
こういう箇所は、液体パッキンを併用します。


続いて、インテークマニフォールドの取付面を清掃します。



セラミックのチップが先端についたスクレイパーで、平滑を確かめながら不純物を除去。この手の作業時には、相手が鉄であることに感謝の気持ちが湧いてきます。


もしアルミ製シリンダーヘッドからこの硬さの不純物を取り除くとしたら、まったく別の段取りが要るでしょう。


全周にわたってスクレイパーを掛けたら、スコッチブライトで浮き錆などの微細な残留物を除去します。パーツクリーナーとホワイトガソリンで拭き上げた後、シャープエッジで指先を痛めないように細心の注意を払いながら嵌合面の仕上がり具合を確認。


これで、エンジン側の取付面が清掃できました。


続いて、先に整えた面に接するインテークマニフォールド側の取付面を清掃します。


ウェットなカーボンが浸潤している箇所は、気密不良の痕跡です。
エンジン冷却水もきちんとシールされてはいなかったようです。
内圧が高まったり温度変化によってシール力が下がった時に、少しずつポート側に滲みだして水が減る症状は、珍しい現象ではありません。

当然、この症状も今回の整備で根絶します。


しつこく繰り返しますが、これは鉄の鋳物です。
大きく重く、端面は鋭いので、ハンドリング中にケガをしないように!





最後にオイルストーンで仕上げ面の状態を確認します。
これは残留物によるフリクションの変化が無いかを「指」と「耳」とで確かめるための作業で、仕上げ面を削ったり磨いたりしているわけではありません。




オイルストーンには、ほとんど圧力を掛けません。
一定のフリクション、一定のノイズになっていることを確認するだけです。


延々とこうした作業を続けるうちにも飛ぶように月日は流れ、輸入部品に関する消費税の請求書が山ほど来たりしますが、組み付けを焦ってはいけません。
ここで手を抜けば、何もかも水の泡です。


内燃機関は、空気と燃料、冷却水と潤滑油が巡る流体機関でもあります。機関全体に張り巡らされたそれらの通路は複数の部品に分割され、様々な方法でシールされています。これらを再び分割して観察すると、そこで何が起きたのか、何故こうなったのか、設計時に予測し得なかったのか、予測したうえであえてこう設計したのか、等、様々な情報を読みとることができます。

それこそが、使用過程車のエンジンを分解整備する作業と、新車の生産ラインでエンジンを組み立てる作業の決定的な違いであると、FTECは考えています。


※ つづく