埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

リンカーン マークⅤのエンジン修理 その4

リンカーン マーク5 (1979年式)のエンジン組立。
今回の記事は、ボルトナットを含む交換部品が主役です。


前回までの記事で、ボルトを再生する様子をお伝えしました。
綺麗なボルトが適正な軸力を発揮するためには、雌ネジも整っていなければなりません。
という訳で、地味なタップかけ作業を延々と続けます

・・・もう飽きちゃいました?

だとしたら、もったいないですね。
どんなことでも、本当の面白さは「うんざりさせられた、その先に」あるのに!





止まり穴も貫通穴もボルト径の大小も一切関係なし。
すべてのねじ山をタップでさらいます。

作業域の制約によって様々なハンドツールを使い分けてタップを回すことになりますが、タップの刃先とねじ山の材質、ねじ山に付着している錆や汚れ、ガスケット片などの種類を考慮しつつ、一か所仕上げるまでに何度でも抜差しして仕上げることが肝要です。




基準面が取れないネジ山の修正は、特に繊細な作業です。

ボルトナットはエンジンの各系統ごとに管理するので、前の記事にあるねじの再生作業は組み立てと並行して行います。


これは、水回りの貫通穴に締めこまれるボルトに付着したシーラント。
浮き錆の無いねじ山は、ここが空気に触れていなかったことを物語っています。
雌ネジも雄ネジも、こういう物の残片が付着していれば適正な締付けは望めません。


イグニッションコイルに使用するナット選び。
今回、ターミナル形状の違うコイルに交換するので、在庫品の中から選定します。


折れたり崩れたりしたボルトは当然交換します。
FTECでは、改造によって行き場を失ったボルト類は捨てません。
今回のプロジェクトでも、60~70年代のサンダーバードやマスタングから取り外したボルトナットが重宝しました。まるで予備役の招集をしたような気分です(^-^)。


結構マメに保管しているつもりでも、適当なネジが見つからないことはあります。
このボルトは5/16インチで、24ピッチの細目。普通の5/16インチは、16ピッチです。


しかも、強烈な剪断力がかかる、クーラーコンプレッサーを固定するボルトです。
コンプレッサーの薄いフランジに直接雌ネジを切ったので、細目になったのでしょう。

穴径を拡大してボルトナットで留めようか?
フランジの厚さが同じなら、3/8-24では山の数が足りないか?
フランジの後方にナットを溶接してはどうか?

など、あれこれ考えましたが、「軽々な改造を慎み純正の仕様を尊重すること」という約束を思い出し、コンプレッサーにもブラケットにも手を加えず、純正と同じ5/16-24のボルトで留めることを決意しました。

こんなに長いものが辛うじてみつかりました。

ダイスの締め代を調整しながら・・・

5/16-24のねじ山を首下まで延長します。

一気に切ると、途中で必ず狂いが生じます。

切粉の排出にも細心の注意を払い・・・

5回位に分け、その都度ダイスを調整して切り上げました。

右 : Before 左 : After 

材料になるボルトにねじ山が切れたら、ダイスを裏表逆にねじ込んだ状態で必要な長さに切断します。

ダイスを裏組みしたボルトをバンドソーで切断。



切断したボルトの先端を削って整え、最後にダイスを抜けば完成です。


拵えたボルトで取り付けられたクーラーコンプレッサー。
エンジン上方の目立つ場所なので、純正風の印象を保つことは重要です。

また、主な部品に改造や加工をしなかったので、将来エアコンのアップグレードを実施したクルマから不要になる純正ボルトを入手できた場合には、それに交換することも可能です。


インテークマニフォールドの組み付けを整列して待つ、ボルトナットと水温スイッチ。


プレナムパンと一体構造の、インテークマニフォールドガスケット。
金属製のビードとゴム製のパッキン、そして液体ガスケットを併用して気密を確保。
超重い鉄のインマニを載せたらやり直しはきかない。一発勝負です。


すべて同じ素材とはいえ一定の温度勾配がありますから、インマニ側のボルト貫通穴には熱膨張を滑らせて逃がすための遊びがあります。

インテークマニフォールド、左右シリンダーヘッド、エンジンブロック上面の4つの部品同士のフィット感を確かめながら、規定トルクまで3回に分けて締め上げていきます。

締める途中で部品がズレるようでは失敗です。潔く取り外して、取付面の清掃からやり直しましょう。ここは液体パッキンを併用しているので文字通りイチからやり直しですが、エンジンを始動後に振りだしに戻るよりは、遥かにましなはずです。


二次空気導入装置のポートとネック。


内側の錆と乾いた煤をカップブラシで除去。
ボルト類と同じようにねじ山を清掃・点検後、耐ガソリンシールテープを巻いて取付け。


新旧キャブレターの比較。型式は、モータークラフト2150
新たに取付けるキャブレターはリビルド品ですが、Autoline の作業品質は一流です。


旧キャブレターの、フュエルインレット。ホースを接続する仕様です。


新キャブレターのインレットは、フレア加工されたパイプを接続する仕様です。
ここは、旧キャブレターの部品を新キャブレターに組替えて使用します。


1/8PT。完全な互換性があります。


新キャブレターのインレットから、シーラントを除去します。
部品を締めこんだとき、ねじの奥にこれが残るとオーバーフローの原因になります。


チョークダイヤフラム用のバキュームポート。
新旧で向きが違います。ここは組み手の勘違いかな。

バキュームホースの取り回し方次第で簡単に対処できるので、この差はこのままで作業を進めます。ただし、この事実をホース配管時に思い出せないと、無駄に悩んで時間をロスする破目になります。



いかがでしょう。無駄な作業はひとつもないと自負してはいても、組立のプロセスに入ると気分が高揚してきます。段取りがきちんとできていると、ときめきもひとしおです。


これは、再使用するフロントカバープレート。
上方の、渦巻き型に見える部分がウォーターポンプの嵌合部。
オイルシールは、クランクプーリーの根元と接する構造です。


裏表両面にこびりついた汚れとガスケット片。
ガスケットリムーバーとスクレイパーで清掃します。


新旧ウォーターポンプの比較。
平面図上の穴位置が同じでも、取付面から座金までの距離が違うケースがあるので、新旧部品の比較と観察は重要です。場合によってはボルトを変えたり、補機類のブラケットを改造するケースもあります。

ちなみに、この部品もすべて鉄鋳物です(汗)。

新部品は8枚羽、旧部品は6枚羽。このへんの違いは、改善と見て良いでしょう。



FTECコーポレーションは、職場における「段取り八分、仕事二分」「計画は八割を以て半ばとす」などの口伝を、日本のものづくりの根底に流れる良心の表れだと思っています。

たぶん大丈夫だろう、あとで何とかできるだろう。そんな態度で多くの工程を積み重ねたら、最後には鉄塊と時間と信用をジャンクヤードに送り出す破目になるでしょう。

この整備の折り返し地点は、まだまだ先です


※ つづく

 リンカーン マークVのエンジン修理 その2