埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ブロンコのシャシ整備・8

フォード・ブロンコ(第5世代)です。
前サスペンションのナックルに、新品ボールジョイントを組付けます。
組付けに使用する工具は、OTC製のマスターサービスキット6559です。



この工具は写真の通り、大型のCクランプとアタッチメントで構成されます。

アタッチメントは、車種ごとに購入することもできます。DIYでこの作業を行えるユーザーは、個別に購入したほうがコストパフォーマンスが良いでしょう。


アタッチメントの選択から、分離から圧入までの工具の掛け方まで。
OTCは、至れり尽くせりの情報提供をしています。


とはいえ、現実はそう甘くありません。

年次改良等で部品形状を更新する際に、自動車メーカーが現場を省みることはないのだから、下の写真のような事態が頻繁に起きます。ナックルの形状によって、イラスト通りに工具が掛かりません。

部品も工具も壊さないように、創意工夫をして結果を出すのがFTECの整備士です。


ブロンコは、フォードFシリーズトラックと同じ、車重総重量2.8トンの巨漢です。
当然、ナックルアームのボールジョイントは乗用車用より遥かに大きいサイズ。

それでも適切なアタッチメントを選択すれば、角度が付いていても圧入できます。先にボールジョイントを抜いたナックルの穴に、工具のスピンドルを通しているのが解りますか?



一般的な油圧プレスでこの作業をするには、角度を合わせる段取りに手間がかかります。



このナックルには完全な平面がどこにも無く、水平と垂直の基準もありません。







新しいボールジョイントを、装着できました。

ナックルアームに限らず、再使用する部品はそれにふさわしい状態に仕上がっていることが大前提です。見切り発車的な判断は、工具や部品を破損させる原因になることを肝銘しましょう。





反対側のナックルも、同様に組立てます。

同じノウハウを逆側に流用する時の方が、油断による失敗が起きやすい。
1回目より2回目、3回目の方が作業品質が良くて当然、と意識しましょう。




新品ボールジョイントのフランジが確実に着座しているかを確認。
左右のナックルアームで穴周りの形状が微妙に違うこともあります。



フランジの着座状態を確認するには、浸透性の高い潤滑剤を吹き付ける方法が便利です。
フランジとナックルの接線に沿って潤滑剤が動けば正常、浸透したら圧入不良です。



左右ナックルアームに、上下ボールジョイントが組付けられました。
トラクションビーム側の嵌合部を最終確認して、グリスを塗布します。






ボールジョイントのテーパー部にグリスを塗布するのは、標準作業ではありません。
現車を分解して古いボールジョイントの嵌合部を観察し、塗布が望ましいと判断しました。





新品ボールジョイントの結合時は、決して無駄にボールを回さないこと。
トランスミッションジャッキでテーパー面に圧力をかけて、インパクトレンチで仮止め。



フレキシブルエクステンションを使用しています。
錆びついた古いナットを外すことはできませんが、再組付けにふさわしい状態に仕上がった部品同士の仮組付けには使えます。


前ドライブシャフトも、組付け前に清掃して点検。
クロススパイダーがスムーズに動けば良し、と判断しました。




ワイヤーブラシで浮き錆を落として、防錆黒塗装を施します。
すぐ後の工程でベアリングやグリースを扱うので、瘡蓋状の錆びの欠片とは縁を切りたい。




オイルシールの接線からケース内に挿入される部分に塗装をしてはいけません。





ハブとの嵌合面を最終調整。再組付けにふさわしい状態に仕上がったハブを何度かあてがって、双方が吸い付くように嵌合するイメージを思い描きながら仕上げます。





軸重を頭に入れて走行時にかかる負荷をイメージすることは有益です。
そうすることで、つまらない作業ミスを未然に防ぐことができます。





ABS用のホイールスピードセンサーを挿入します。
将来の取外しに備えて、水と空気が滲入しづらいように嵌合面にグリスを塗布します。


アルミダイキャスト製のホルダーはボルト1本で固定するため、遊び量の調整が効きます。
センサーをスムーズに抜き差しできる位置に合わせて本締めしましょう。



上下ボールジョイントの本締めは長いスピナーハンドルで確実に。
スピードセンサーのクランプは、ナックルを転舵させて位置が正しいか確認します。



ナックルアームとドライブシャフト、スピンドルの組付けが完了。
ハブに新品ベアリングとシールを圧入してブレーキローターと結合します。








ABSセンサー用のトーンホイールはアルミダイキャスト製で脆弱です。
無理に挿入を試みると破損するので、慎重に嵌合面を仕上げて組付けにあたります。




ハブベアリングのアウターレースが奥まで圧入できているかを確認。
ここでも、浸透性の高い潤滑剤を使う方法が役に立ちます。





一般的なマルチパーパスグリースを使用しています。
経年変化を観察するうえで、複数の銘柄のグリースを使い分けるより好都合。





ハブの構成部品は、たったこれだけのナットやリテーナーで固定されています。
これらの部品が設計通りの性能を発揮するには、ハブやスピンドルが再組付けにふさわしい状態に仕上がっていることが条件になります。



DANA44 のハブナットには、SSTが必要です。
FTECが保有しているのは、スピンドルソケット25072です。





緩み止めのリテーナーはマグネットの先に付けて穴位置を探ります。





フリーハブは仮組をしてスプリングロックがかかることを確認し、再度取り外してグリスを詰めます。この手順を逆にすると、奥まで挿入できなかった場合にグリスが邪魔で点検がしにくいので。



ハブキャップを鍋頭の六角穴付きボルト5本で締め付けたら、ハブの整備は完了です。
新しいベアリング、新しいグリス。その感触を手回しで楽しめるのが、整備士の特権です。



フォード ブロンコ のシャシ整備。
第8回目の今回は、比較的綺麗な写真が載っています。

どんな自動車の整備にも、古い部品を再使用する工程があります。新しい部品と古い部品を調和させて本来の性能を発揮させるのが、FTECの整備士の役目です。

FTECでは、そのための下準備を指して「再組付けにふさわしい状態」と呼んでいます。
下準備の質の差が性能差になって表れるのは、ずっと先のことかもしれません。

それでも、整備の都度最善を尽くすことが、オーナーのご期待に応えることだとFTECは信じています。自動車整備士を志す人の心にも、響く何かがあれば幸甚です。