埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

エクスプローラーのブレーキ整備・1/2

フォード エクスプローラー(2008年式)です。
現状販売で購入したオーナーの、総合点検で入庫しました。
積算走行距離は、125,000km。



SERVICE RSC NOW の警告が鳴動する状態です。RSC(ロールスタビリティコントロール)とは、重心の高い車両が急カーブや急転舵時に横転するリスクを低減させるシステムです。


けたたましい警告音を数分おきに発するのは、RSCが主にブレーキの制御によって機能するシステムだからです。2000年以降のフォード車には、ドライバーのペダル操作に関わらず四つの車輪に別々のブレーキ圧を掛ける AdvanceTrac が装備されています。

初期の AdvanceTrac は、過大なトルクによる駆動輪のスリップを抑制するTCS(トラクションコントロールシステム)と、オーバーステア時に外側前輪に、アンダーステア時に内側後輪にブレーキをかけて車輛を安定させるECS(エレクトロニックスタビリティコントロール)を包含しています。

AdvanceTrac のデビューイヤーは2000年、RSCは2003年。けたたましい警告音は、「ブレーキが故障したかも!」というクルマからのメッセージと言えます。



IPC(初期診断)で、蓄積されたDTC(故障コード)を調べます。
ABS関連のDTCは、

B1342-20
C1285-20

このふたつ。




スキャナーとABSモジュールの通信不良により、エア抜きの機能が使えません。



外観をチェックして、過去のメンテナンス状況を推察します。


ブレーキフルードの状態から察するに、少なくとも直近3~4年間は碌なメンテナンスをされていないのではないかと思われます。


ハブベアリングの遊び量を確認してから、四輪を取外し。
リヤブレーキの様子が変です。



ブレーキディスクパッドがキャリパーサポートのリテーナーから脱落しています。
何をどうするとこの状態になるのか判りません。



ディスクパッドは、内外でほぼ均一に消耗しています。


ディスクローターを取外したハブ面の様子。
浮き錆はワイヤーブラシで清掃し、錆止めの目的でモリブデングリスを塗布します。ピカピカに磨き上げる意味はありませんが、ローターとの接触面は平滑でなければなりません。


駐車ブレーキのドラム内には、積年のデブリが堆積しています。



現車のブレーキキャリパーは、前後とも樹脂製のピストンを備えています。

樹脂製ピストンの美点は、ブレーキフルードに熱が伝わりにくいため、耐べーパーロック性に優れていること。欠点は、膨潤を起こすとキャリパー内で固着し、ブレーキの引き摺りを起こすことです。



AdvanceTrac にせよ RSC にせよ、繊細なブレーキコントロールのためには、末端のブレーキの整備が行き届いていることが前提条件です。オーナーと相談の結果、現車のブレーキはフルオーバーホールすることに決定。


ブレーキフルードの状態は酷かったものの、ピストンとキャリパーは正常でした。
シールとブーツは交換、樹脂製ピストンは洗浄して再使用。




キャリパーサポートをワイパーブラシで清掃して、モリブデングリースを薄く塗布した上に新しいリテーナーを装着。


キャリパーのスライダーとブーツも交換。スライドピンのグリスは、フリクションの少ない耐熱シリコングリスを使用します。

ブレーキキャリパーのオーバーホールは、ここまで素手で組めることが要諦です。


駐車ブレーキのライニングは、ケミカル洗浄後にペーパーでクロスハッチに仕上げます。




現車のアジャスターの調整は、この段階でしか行えません。ハブベアリングの遊び量が過大だと、接地荷重がかかることで引き摺りを生じるので要注意。


前後ディスクローターとパッド、ハードパーツのキット。
こうしてみると、前後のローター径には殆ど差が無いことが判ります。



新品のディスクローターを、大きなナットをカラー代わりにして、クリップナットで固定。ハブ面に密着させた状態で作業を進めると、整備の確度が向上します。



駐車ブレーキ用のドラム内面は、周方向に製造時のバイト目が残っています。
ケミカルで脱脂してから、#100程度のペーパーでクロスハッチに仕上げます。


外側のパッドと鉄のキャリパーの接触面に、モリブデングリスを極薄塗りしています。目的は、錆びによる浮きや位相のずれを抑制すること。面接触によって外界に露出しない部分なので、ブレーキダストによる汚損の心配はありません。


一方、パッドとリテーナーの接触面はブレーキダストに汚染されます。この接触面にもモリブデングリスを薄塗りしますが、キャリパーを組み上げたら余分なグリスは拭き取ります。



続いて、フロントブレーキのオーバーホールにかかります。
リヤブレーキと、チェックポイントは同じです。


パッドリテーナーが、ブレーキダストに汚損されています。
このリテーナーはハードパーツキットに含まれているので新品に交換するのですが、新しい部品がこうならないようにするにはどんなことに気を付ければ良いかを、考える材料になります。



ハブとローターの嵌合面は、平滑でなければなりません。
異物の付着で密着できないとローターが振れて、反応おくれやジャダーの発生を招きます。



ハブ面を、指の腹でなぞって平滑を確かめます。
凹んでいる部分に構う必要はありません。
リヤハブ同様に、モリブデングリースを極薄塗りしてローターと密着させます。



キャリパーサポートとリテーナーの嵌合面の清掃は、ブレーキ性能を持続させるうえで、外せない工程です。斜めに装着されたリテーナーの上でも、油圧が掛かればブレーキは動作してしまう。引っ掛かりや引き摺りを起こしたり、熱変形によるジャダーが起きたり、ブレーキロックでキャリパー交換になってしまったら大変です。



スライダーのグリス交換。
RSCなどの電子制御デバイスは、新車同様にブレーキが動作する前提でプログラミングされていることを、意識して整備にあたりましょう。



キャリパーサポートのボルト。
ねじ山を磨いて古い緩み止めを除去してから、新しい緩み止めを施工します。


キャリパーサポートの仕上げ面に、新品のリテーナーを組付けます。
ふたつの部品の嵌合面には、モリブデングリスを薄塗りしています。



何度でも言いますが、キャリパーオーバーホールは素手で行うのが基本です。
工具を使わなければバックさせられないピストンには、故障が潜んでいます。
樹脂製ピストンは金属製より、引き摺りのリスクが大きいことを忘れずに。





四輪のブレーキキャリパーから、フルードのエア抜き作業を実施。
ペダルフィールを確かめて、ブレーキオーバーホールは完了です。



一連の整備によって、SERVICE RSC NOW 警告に対処する準備が整いました。
ブレーキの末端が良好な状態になったので、AdvanceTrac や RSC が回復すれば FORD の狙い通りの性能を堪能することができるでしょう。




現状販売で中古車を購入しても、正しい整備を施せば機能を回復させられます。

部品の欠品製廃に悩まされる車種もありますが、フォードなどのアメ車の場合は、自動車の根幹にかかわる部品が20年程度で調達不能になりことはあり得ません。

次回は、RSCのトラブルシューティングに戻り、修理完了するまでを記事にします。

スカイラインGT-Rのエアコン修理

日産 スカイラインGT-R BNR32型(1989-1994)です。
エアコン修理で入庫しました。



FC(フルコールド)モードで、吹き出し口の温度を測定。

環境温度:29.9℃
供給温度:31.6℃


冷房能力が、まったくありません。
むしろ温めた風を供給しています。


BNR32型の純正エアコンは、全年式共通でR12仕様です。
しかし現車のエアコンは、20年程前にR134a仕様に変更しています。