埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

C1500のエアコン修理・1/3

シボレー C1500(1991年式)です。
エアコンの修理で入庫しました。


冷房の機能は、すでに完全に失われています。
クーラーのシステム全体を入れ替える方針で、承りました。
この記事では、エンジンルーム側の作業を解説します。

現車のエンジンは、シボレーのスモールブロック(350cid、V8)L05型です。
クーラーガスが循環する経路全体を交換し、R134a仕様に変更します。


現車のクーラーコンプレッサーは、ハリソンR4。

1989年にVベルト駆動からサーペンタイン式に更新された後の仕様で、プーリー径は5インチ。冷媒は、R12(ジクロロジフルオロメタン=CF₂Cl₂)を使用しています。

少なくとも、このコンプレッサーの軸心からは、ガス漏れがありそうです。
ガスと一緒にオイルが漏れ、そこに濡れた埃が付着していますから。


クーラーガスR12は冷却能力に優れた理想の冷媒でしたが、1990年代に環境負荷の大きさが問題になり、モントリオール議定書により1995年の生産終了が宣言されました。それ以降は代替冷媒R134a(テトラフルオロエタン=C₂H₂F₄)に、順次更新された経緯があります。

冒頭で示した通り、この修理によって現車のエアコンはR134a仕様となります。

    R12(ジクロロジフルオロメタン=CF₂Cl₂)
    R134a(テトラフルオロエタン=C₂H₂F₄)

ふたつのクーラーガスは、組成がまったく違う物質であることを、肝銘してください。


エンジン補器のドライブトレーンは、1989年式以降のサーペンタイン式。
このまま継続使用するのは、クランクシャフトとオルタネータのプーリーだけ。

それ以外はすべて新品に交換します。

整備前点検で圧力スイッチを短絡させて、コンプレッサーのマグネットクラッチのカプラーに、作動電源が供給されることを確認します。


社外品のファントムグリルを外して、コンデンサー周辺を観察。



コンデンサーのコアには、経年変化ではない損傷があります。


レゾネーターの下を通る黄色い配線は、キャビン内のサブウーファーの電源です。
高圧側のエアコン配管に、タイラップで留められています。


大電流を流せる配線が、板金仕上げのステーの端部に接しています。
漏電は火災の元なので、後ほど絶縁処理をすることに。




FTECでは、このようなタイラップの始末は厳禁です。
素手で触ると皮膚が切れますので。



純正品ではないアクセサリー類の配線には、作業者のスキルがあらわれます。

ジョブリストに載っていなくても修繕するのが、FTECの整備士です。

リスクに気付きながら何もしないのは、モラルの観点で受け入れられません。


温度スイッチで作動する、アディショナルファンを追加します。
これは、交通渋滞によるコンデンサーの冷却不足とR134aの特性に配慮した措置です。

こと冷やす能力に限っては、R134a は R12 に劣ります。
システムの効率を上げる工夫は、漏れなくやっておきましょう。


アディショナルファンの追加は、装着スペースの確保が最初の課題になります。
位置は、コンデンサーのコアに密着しているほど冷却効率が高まります。

ステーの加工は、旧コンデンサーを装着した状態で行っています。
これは、新コンデンサーのコアを無用なリスクに曝さないための段取りです。

コアとファンの隙間が最小になる位置に決まったら、再度分解して組み替えます。


エンジンフードのキャッチも、付帯作業で取り外します。
汚れて固まりかけていたので、洗浄して楽に動くように仕上げます。


アルミのユニオンが、完全に固着していました。
両方とも再使用不可能であることは、一目瞭然。


コアサポートの補強が、腐食してちぎれています。
下側の接合部は形状が定まらず、まるで紙のよう。

新品コンデンサーのコアを叩いて損傷するリスクがあるため、この補強は撤去します。



反対側は、まだ原形を留めていました。
浮き錆を落とし、シャシーブラックを塗布して、先に進みます。



新旧コンデンサーの比較。

社外品とはいえ、35年前のクルマの新品コンデンサーが入手できる。
国産車では到底望めない、市場の豊かさが羨ましい。






エンジン補器類のドライブトレーンを再確認。
ベルト、テンショナー、アイドラー、コンプレッサーを新品に交換します。


アキュムレータ(レシーバー=ドライヤー)も、当然交換。
ここのユニオンも双方アルミ製で、酷く固着していました。
すべて新品に交換します。





高圧側のパイプと車室内のエバポレータを結合しているユニオン。
ここのパイプは細くて脆弱なので、ユニオンだけに力が加えられるよう段取ります。



アキュムレータ(レシーバー=ドライヤー)のステーは、再使用。
形状を調整して浮き錆を落とし、簡単な防錆黒塗装を施します。




アキュムレータのサービスバルブに装着する、ロープレッシャースイッチ。
クーラーガスR134aの、専用品です。


コンプレッサーとホースが加締められた配管を、結合する部分。
この部分には、現物確認でしか知り得ない形状の違いがあります。

実は、下の写真の組み方では所定の性能が出ませんでした
コンプレッサー側の取付面と、ホース配管側の取付面の組み合わせが違うのです。


コンプレッサー後方の、ホース配管部の取付面を、再度確認してみましょう。

サクション側とディスチャージ側で、ポート周辺の座繰りの深さに差があります。
この座繰りの有る無し、座繰りの大小が違うコンプレッサーが存在するのです。

このコンプレッサーは、R134a専用の新品です。
その他の部品をVINコードで揃えてしまうと、形状の違いを見落とすリスクがあります。

組み合わせが間違っていても、組めてしまう。

そんな馬鹿な…!と思うでしょうが、現実です。


しかも現車の場合、古いコンプレッサ―も新車時に装着された部品ではありませんでした。
これは、現車の古い部品を純正と同形状だと誤認するリスクがある、ということです。

下の写真の緑色のOリングが、純正形状の結合部に用いるシールリング。
R134a用の部品である点は、間違いありません。

つまり、このOリングは、「コンプレッサーもホース配管も純正形状のまま」「クーラーガスをR12からR134aに変換する」、レトロフィット用のシールリングだったのです!


下の写真が、新コンプレッサーと新ホース配管の結合部に用いる、正しいシールキット。
厚さの違う3種類のシールワッシャーと、高さの違う2種類のスリーブという構成です。


ディスチャージ側の座繰りの深さは、4.0ミリ。
サクション側の座繰りの深さは、1.8ミリ。

ここに結合させるホース配管側のフランジは、3.9ミリの高さです。
このままでは、ディスチャージ側のポートとセンターが揃いません。



厚さの違う3種類のシールワッシャーは、座繰りの内径にぴったりと納まります。
サクション側とディスチャージ側の、不陸が最小になる組み合わせを選びましょう。




アルミのスリーブは、ディスチャージ側だけに装着します。
下の写真では、座繰りの奥のポート内径とスリーブの外径の遊び量を確認しています。


アールズ製の、アルミフィッティング用アッセンブルルブリカントを塗布。


ホース配管の、ディスチャージ側のポートに圧入します。
素手だけでは奥まで入らないタイトな嵌合なので、適切な工具で圧入しましょう。




この形状なら、ディスチャージ側のポート同士の中心が揃います。

ディスチャージ側のポートとセンターのボルトで位置決めできれば、サクション側は自動的に位置決めされます。サクション側の嵌合代は、

フランジ高さ3.9 -(座繰り1.8 +シールワッシャーの厚さ t)

の式で求められるので、t≦2.1 のワッシャーを使えば3箇所で位置決めできます。
この方法なら、サクション側のスリーブが脱落するリスクも完全に排除できます。

なお、ディスチャージ側のシールワッシャーは、ラバーシールのリップ部がスリーブ圧入部の線にかかっていないかを入念に調べましょう。

センターのボルトを締め付けた状態で、ボルト周りに隙間ができていれば正常です。





これで、エンジンルーム側のエアコン構成部品を、総入れ替えできました。
チャージポートを変換する際は、バルブコアの交換を忘れずに。








エンジンルーム側の作業は、以上です。

次の記事では、キャビン側の作業を解説します。


1996年以降、R12の流通量が激減してクーラーガスの価格が暴騰し、ボルボなどの自動車メーカーが率先して「レトロフィット」を提供しました。当時の「レトロフィット」は、専用の洗浄液でクーラーガスの流路を洗浄し、R134aが要求する圧力とオイルに変更する内容でした。費用が12~15万円に抑えられていたため、いまでもその記憶が残っている世代の人もいるでしょう。

平成7~8年(1995~96)は、バブル景気がピークアウトしたばかりの頃です。

為替相場の最高値 1USD=79円75銭 を記録したのは、平成7年(1995)4月19日。
当時の最低賃金は全国平均で 時給611円 。消費税は3% でした。


今日の修理費用が当時とまったく違うことは、言うまでもありません。