埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

三菱ジープの前アクスル整備(2/2)

三菱ジープの、前アクスル整備。
バーフィールド式のホーシングの両端に着く、ダストカバーの交換が主目的です。


前回までの記事で、ダストカバー交換の準備が整いました。
今回は、組み立ての工程を記事にします。

駆動系に使用するボルトは、グレードの高いものが選ばれています。
純正部品を再調達できないからといって、安易に汎用品に換えるのは危険です。

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再使用するボルトナットは、洗浄して残滓を取り払います。


ねじ部に古いシーラントの残滓が残っていると、締付トルクを見誤ります。
雄ねじも雌ねじも綺麗に磨き上げて、着座まで手回しできるように仕上げるのが基本です。


作業域をおさらいしましょう。

下図#22 ダストカバーの交換が、整備の目的です。
付帯作業として分解するついでに、赤丸印の部品群も交換します。


ナックル周辺の部品群は、グリスを詰めて密封するために液体パッキンを使用します。
三菱純正のサービスマニュアルには、ヘルメシールという商品名で記載されています。

オイルパンの嵌合面に用いる汎用の液体パッキンで代用できますが、どんな高性能な商品でも、グリスが付着したままでは狙い通りの性能が出ません。

洗浄と脱脂を、念入りにすることが肝要です。


ハブベアリングは、交換を推奨します。
#8と#9のナットは、再使用が可能です。

この作業域にも、グリスと液体パッキンの両方を使う部品があります。
洗浄と脱脂を厳として、所定の性能を確保しましょう。


片方の作業域に使用する部品群。
再組付けにふさわしい状態に、仕上がっています。




金色のクロメートめっきが施された2分割の部品は、ナックルリテーナ―。
今回の修理のように、粘液状に変質したダストカバーの残滓が付着している場合には、交換したほうが早く美しく仕上がります。




上下のキングピンを仮留めしたら、合わせ面を下にしてシールリングを嵌合させます。
キングピンは、後工程でナックルの起動トルクを計りながらシムの厚さを調整します。
この段階では液体パッキンも塗布せず、規定の締め付けトルクも掛けません。


新しいダストカバーを、再組付けにふさわしい状態に仕上げたリテーナーとボルトで締め付けます。ハブナットを調整してロックワッシャーを折り、ロックナットを締め付けて逆方向にロックワッシャーを折ります。

キングピンのベアリング上下のキャップを、ボルト4本ずつ34Nmで締め付け、その都度転舵方向にナックルを動かして起動トルクが重くなることを確認します。





上下のキングピンを、ボルト8本で均一に締付けます。締付トルクは、34Nm。

8本とも34Nmで締め付け、遊びがない状態に組み上げたら、ナックルの起動トルクを測定します。三菱純正のサービスマニュアルは、ナックルのタイロッド結合部における起動トルクを、26~39Nmと規定しています。



ドライブシャフトにスナップリングを掛けて、グリスを詰めたハブキャップを嵌め込めば、ダストカバーの交換は完了です。三菱ジープのハブは左右でほぼ同じ構造をしているので、反対側の解説は不要だと思っていましたが、、、



そうは問屋が卸しませんでした。


反対側のハブには水の浸入が認められ、構成部品に赤錆が発生しています
ハブとドライブシャフトも固着していたので、プーラーを使って分離しました。


被害範囲は、ロックナット、ロックワッシャー、ハブナット、ドライブフランジ。
費用対効果の面に着目すれば、交換が最善といえます。
今回は、ロックワッシャーのみ新品交換。残りは再生して再使用します。


粘液状に変質したダストカバーが、リテーナーの緩み止めワッシャーに絡み付いています。


ドライブシャフトを抜いて内部を確認。
この領域には、水漏れの痕跡はありません。


キングピンベアリングは、洗浄と脱脂の後に瑕疵を検査します。
ひとつでも掌の上でフリクションの異常を感じたら、4個すべて交換しましょう。


ドライブシャフト末端のセレーションに、赤錆が喰い込んでいます。
ここは、ドライブフランジと固着していた部分。



残骸を俯瞰して、取り忘れがないかを確認します。
千切れたダストカバーの一部が、ホーシング側に残っていますね。




グリスが異物を巻き込まないように、ホーシング側を拭きあげます。
ダストカバーの内面にエンジンオイルを薄く塗り、反対側と同じ要領で装着。





この程度にまで仕上げれば、再組付けにふさわしい状態と呼べるでしょう。
繰り返しますが、新品に交換するのが最善です。


ボルトナットは、三菱純正部品だけを使用します。
社外品による置換は、FTECでは非推奨です。




反対側のハブの構成部品。
指触で正常を確かめながら、組付けていきます。








最後に、ダストカバーの内側をホースバンドで締め付けて完成。



先にシャシーブラックを施工しておいたことが奏功して、新しいバンドが映えますね。


続いて、ステアリングリンケージのボールジョイントブーツを交換します。
古いブーツを取外したら、古いグリスの性状に注目します。

もし、水分や錆の浸入が認められたら、ボールジョイントの交換を検討しましょう。









タイロッドを結合したら、前ブレーキの整備に取り掛かります。
ライニングの角は、下の写真の形状に削って丸めます。
摺動面のクロスハッチ仕上げは、後ブレーキと同じ。




ブレーキフルードを交換して、配管のエア抜きを行います。



クラッチフォークのダストブーツも、ご覧の有様です。
破れているだけでなくゴムが膨潤して変形しているため、新旧を並べても同じ部品とは信じられないほど見た目が違います。





レリーズシリンダー周辺をついでに清掃して、新しいクラッチフォークブーツを組付けました。今度の部品も、43年間働いてくれると良いのですが。



三菱ジープの前アクスルを整備する記事は、以上です。
防錆塗装を施工したサスペンション周辺の様子は、蒸気機関車風でもあります。

この程度に仕上がると、検査ラインで整備の成果を披露するのが楽しみになります。
オーナーも、これまで以上に自信をもって走らせることができるでしょう。




ジープは元々、戦時体制下のアメリカでウイリス社が製造していた「軍用車」です。
第二次世界大戦後にウイリス社は、9カ国と技術提携や製造契約を締結しました。

1.日本
2.フランス
3.イタリア
4.オランダ
5.インド
6.ブラジル
7.アルゼンチン
8.スペイン
9.イスラエル

大東亜戦争終結後の日本で、紆余曲折の末に完全国産化を果たしたのが三菱重工業。昭和31年(1956)の出来事です。製造と販売、両方の権利を認められたのは、9カ国のうち日本だけです。


9カ国のうち日本だけが特例であり、他の国は組み立てや部品供給だけの限定的な契約に過ぎませんでした。これらの事実は今日、戦後日本の経済復興支援や日米の特別な同盟関係を背景にした措置だった、と理解されています。

三菱ジープの成功は、日米の深い信頼と技術協力の象徴として、永遠に語り継がれていくでしょう。