埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

三菱ジープの前アクスル整備(1/2)

三菱ジープ(1956-2001)です。
車検整備の一環として、前アクスルの整備をしました。



前アクスル整備を動機づけた直接的な不具合は、ナックルシールのリテーナーで共締めするダストカバーの破損です。このダストカバーを交換するには、ステアリングとブレーキの構成部品を脱着する必要があります。


車検整備(法定12ヵ月点検)で、最初に行うのはシャシ下周りの観察です。
下の3枚の写真でわかる通り、ダストカバーが破損しています。




これらの破損は、繰返し応力によって生じた単純な破れではありません。
数十年にわたる経年変化によって、ゴムの架橋構造が崩れて粘液状に変質した結果です。

原形を留めている部位も、膨潤して元の形状が判らなくなっています


ステアリングリンケージのボールジョイントに装着されているブーツも、酷い状態。

ボールジョイントにガタはありませんが、付帯作業として分離するついでに中のグリスを詰め替えて、ダストブーツは交換します。


作業領域の、部品構成図を確認。
赤丸印の部品を、交換します。



エンジンとシャシ下周りを、高温高圧洗浄します。
すでに初期診断が済んでいるので、乾燥後はシャシーブラックを施工します。



後アクスルは、今回は分解しません。

□ ブレーキの残量を確認
□ ダストを排出
□ 液漏れの有無を確認
□ ライニング摺動面の性状改善
□ ドラム摺動面の性状改善

四輪ドラムブレーキはブレーキ力のアンバランスが起きやすいので、毎年の車検のたびに必ず分解点検してクリアランスを調整することが大切です。





このドラム摺動面のクロスハッチは、#120のペーパーで手研磨したものです。




後アクスルの12ヵ月点検整備が、完了しました。

いよいよ、前アクスルの整備に取り掛かります。

前ブレーキはAss'y で取り外すので、後ブレーキで行った一連の整備は後回しになります。





ナックルシールのリテーナーを固定するボルト。
粘液化したゴムとグリス、塗布が義務付けられている液体パッキンなどが絡み付いています。


上下のキングピンを取外して、ナックルを分離します。
バーフィールド式ナックル独特の、グリスにパックされたドライブシャフトが現れます。





グリスはすべて除去して、内部の金属表面に異変がないかを確認します。
めねじに付着した古いシーラントは、タップで除去するより他に手がありません。



ダストカバーの内側(デファレンシャル側)の直径は小さく、上下ベアリングを抜き取ったギヤキャリアの開口部を超えて装着できるようには見えません。


一見、無理筋な話でも、やりようによっては圧し通すことが可能です。
今回は、下の写真の方法でダストカバーを取り付けます。



整備の主目的である、ダストカバーが装着できました。

ここから先は、付帯作業で取り外した部品を点検して、再組付けにふさわしい状態に仕上げていく工程になります。

まずは、ハブベアリングから。
グリスは全量、交換します。





金属製のリテーナーと、それをナックルに固定するボルト。
これらは再使用が常道ですが、今回のケースでは交換が正解だったかもしれません。


粘液状に変質したゴムの除去が、困難を極めました。
油汚れ用のケミカルでは、まったく刃が立ちません。

ガスケットリムーバーで表面を溶かすことはできますが、ウエスで拭うと塗り拡げられるばかりで、一向に綺麗になりません。

アセトンに浸したスクレイパーで地道に剥がすのが、結局一番早いと判明。



ハブベアリングは今回の整備の目的から外れるので、検査のうえ再使用。
このベアリングは後日不具合が起きたとしても、比較的少ない工数で交換できます。




洗浄油で繰り返し洗っても、落ちるのは油汚れだけです。

□ 液状化したゴム
□ 古いシーラント

これらはケミカルではなく、ブラシで物理的に除去します。




洗浄油で落とせるだけの汚れを落とした部品たち。
水で洗って乾かします。



この汚れは、古いシーラント(液体パッキン)。


この汚れは、液状化したダストカバーの残滓。




両頭グラインダーのワイヤーホイールに当てて、残った汚れを除去します。

ねじ山の痛みやボルトの伸び、ワッシャーの変形があれば修正します。
もちろん新品に交換できれば、それに越したことはありません。



再組付けにふさわしい状態に整える。
ボルトナットの場合、締付トルクの精度を担保できる状態にするということ。

古いシーラントの残滓の上に新しいシーラントを施工しても、密封することはできません。そればかりか、古いシーラントがねじ部に咬み込んでトルクを読み違えるリスクもあります。


工場の動力で除去しきれなかった汚れは、手作業で除去しましょう。
表面はワイヤーブラシ、穴周りはNOGAバーが便利です。

次回の記事では、組付けの工程を紹介します。