埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ジムニーのデファレンシャル整備

 スズキ ジムニー(JA11型)です。

デファレンシャルギヤの整備で入庫しました。

この記事では、再使用する部品の仕上げ方について解説します。


修理の目的に到達する前の段階で行う分解を、付帯作業と呼びます。
付帯作業で分解した部品は、目視や指触で点検して瑕疵が認められなければ再使用します。

それらの部品を「再使用にふさわしい状態」に仕上げる方法には、明確な規定がありません。再使用不能とサービスマニュアルに明記されている部品は当然交換しますが、それ以外は各整備工場の判断に委ねられているのが現実です。

この記事で紹介するのは、FTECの標準作業です。
年式や車格、国産、外車を問わず、全車この考え方で作業にあたっています。

社外スペーサーにスライディングハンマーは禁忌

ブレーキドラムを脱着。

ライニングの残量、シューとドラムの接触面、ブレーキフルードやデフオイルの浸入が無いことを確認。ばね式の自動調整機構が狂わないように注意して、ダストを排出します。


左右のダストの量を比較する


プロペラシャフトを脱着。

ボルトとナットの傷み具合を確認。表面の錆びを後工程で除去してから再確認。



デフオイルを排出。水分を含んでいます。

どこから水分が滲入したかを考え、必要に応じてオーナーにヒアリングを行います。


デファレンシャルAss'y の取外し。

ドレーンプラグから抜ききれない水分混じりのデフオイルは、ウエスに吸わせて除去します。



デファレンシャルのケースを、治具に据え付けます。

これで、整備の目的であるデファレンシャルギヤのセットを取外せます。





再使用する部品は、漏れなく洗浄します。

表面の汚れを取り除いてから、目視と指触で瑕疵の有無を確認。



オーバートルクで首元が伸びたボルトや、ねじ山に傷や倒れがあるボルトは交換します。


個々の部品が担う役割を考えながら、洗浄します。
下の写真は、ラージギヤ。

歯当たり面、嵌合面、止まり穴。
汚れたまま組むと、不測の事態を招きます。

壊れる瞬間の音や衝撃を想像しながら、洗浄しましょう。



デフケースの嵌合面を仕上げます。

デフケースとホーシングの嵌合面は、液体ガスケットで密封します。
双方の嵌合面は、平滑な機械仕上げ面になっている状態が理想です。


何度も組み直されたことのある嵌合面には、何種類もの液体ガスケットが積層されています。「オイル漏れさえなければよい」と考えれば、厚めに液体ガスケットを塗布してボルトで締めてしまえば済むのかもしれません。

しかしこの嵌合面は、ラージギヤとピニオンの相関に影響する部分でもあります。

嵌合面で密着していた古いガスケットの厚さは、取るに足りない薄さかもしれません。
では、石のように硬化した古いガスケットがめくれて挟まったらどうなるでしょう?


分解整備をきっかけに、デフから異音が出たりオイルが漏れるようになる。
たとえ整備の目的が完璧でも、そうなってしまっては台無しです。

地味な付帯作業の積み重ねが、整備全体の品質を左右する
嵌合面の清掃とギヤセットの組立は、まったく等価だとFTECは信じています。




デフケース側の嵌合面は、下の写真の性状に整えます。



当然、ホーシング側の嵌合面も同様の仕上げにします。







この灰色の液体ガスケットは、最後の整備で使われたと思われます。
オイル漏れが怖かったのか、ボルト穴にも大量に塗布されています。



場所に応じて適切なスクレイパーを選び、金属を削らないように古いガスケットの残滓を削ぎます。ガスケットリムーバーは、使用後の後処理が面倒なので使いません。


勘合部のホーシング側に切られた雌ねじは、貫通しています。
軸付きのワイヤーブラシで清掃し、ガスケットの残滓を取り除きます。

磨いたボルトを指の力だけで奥までねじ込めれば、仕上げとして合格です。



最後にケミカルで脱脂して嵌合面は調整完了

ホーシングにデフケースを結合するボルト。
雄ねじにガスケットの残滓や赤錆が付着しています。

両頭グラインダーのワイヤーホイールでねじ山を清掃。



プロペラシャフトのボルトナットのうち、潰れや伸びが認められたものを交換します。
コンパニオンフランジの嵌合面も、ワイヤーブラシで清掃しました。




再使用する部品の仕上げ方について、今回の解説は以上です。

□ 勘合面は、平滑な機械仕上げ面を最上とする
□ ボルトは、ねじ山の残滓を取り除いて瑕疵の有無を確認する
□ 雌ねじは、手回しでボルトが着座する性状に整える
□ 液体ガスケットは、脱脂した嵌合面に適量を塗布する

こうした付帯作業の品質は、整備の目的を際立たせるだけでなく、性能が持続する期間を延ばす効果もあるとFTECは信じています。


この記事の仕上げ方は、あくまでもFTECの価値観に基づくものです。
この方法が正当で、皆こうすべきなどと言うつもりは毛頭ありません。

整備の目的とは違う場所に長い時間と高い工賃をかける必要はない、という考え方もあるでしょう。実際、FTECでは到底真似のできない短工期で仕上げる整備工場もありますし、FTECはそういう特徴のある整備工場にも、敬意を抱いています。


あのクルマは早く、このクルマは念入りに。
そういうダブルスタンダードを使いこなせるほど、器用にはなれません。

愚図つくクルマをオーナーと共に宥め、時にはうんざりしながらも、励まし合って前進する。狙ってそうしたわけではないのですが、いつの間にかそれがFTECの特徴になりました。

この記事を、オーナーが整備工場を選ぶ際の指標にしていただければ幸甚です。