スズキ セルボ SS40型 (1982-88年式)です。
エンジンオイル漏れの修理で入庫しました。
現車は、4ストローク/1サイクル 3気筒 SOHC 543ccの、F5A型 ガソリンエンジンを搭載しています。燃料制御はキャブレター式で、過給器は無し。主要構成部品をアルト、フロンテ、マイティボーイと共用しています。
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はじめに、プライマリーチェックでオイル漏れの発生源を探ります。
典型的な横置きFF車のパワートレイン、全体が積年の汚れに覆われています。稼働部分に触れたり毛細管現象が働かない限り漏れたオイルは下向きに広がるので、オイル漏れの原因探求は下から上に進めていくのが定石です。
オイルプレッシャースイッチに、オイル漏れが認められます。よく観察すると、スイッチそのものから漏れたオイルが平ギボシを濡らして配線に吸われていることが解ります。
要交換。
エンジン前方を下から見上げたところ。オイルパン全体が、漏れたばかりのオイルで漏れて光っています。が、その上方も、少し乾いた真っ黒な油汚れに覆われています。
オイルフィルター交換の際に、エンジンブロック側面が汚れることはあるでしょう。しかし現車のエンジンは、フィルターの上方も汚れていますし、補器類のブラケットも同じ汚れに覆われています。
別の角度からエンジン上方を観察。
バルブカバーのシールパッキンとシリンダーヘッドの合わせ面に、エンジンオイル漏れが認められます。
SS40型のシャシーは、F5Aエンジンを前傾させて搭載しています。従って、バルブカバーパッキンから漏れだしたエンジンオイルは前方からエンジン全体を包み込むように広がっていきます。
この見立ては、シリンダーヘッドガスケットやエキゾーストマニフォールドガスケット周辺の汚れ具合とも矛盾していないので、間違いないでしょう。
ディストリビューター周辺を観察。汚れの付着状況から、バルブカバーパッキン不良は確実と判断。
ディストリビュータ側に漏れているということは、逆サイドのクランクプーリー側にも漏れていると予想できます。
クランクプーリー下側のサポートブラケットは上方に開いたコの字型の断面をしているので、漏れたオイルが溜まって光っているのが見えますね。
オイル漏れとは無関係ですが、前スタビライザーのロアアーム結合部に、変形があります。
オイルパン脱着の付帯作業としてスタビライザーは取り外すので、作業の合間に修正することにしましょう。
オイル漏れの原因と対策を理解したら、プライマリーチェックは完了です。
作業着手にあたり、オイル漏れによる汚濁箇所を専用のケミカルで洗浄します。真っ先に洗浄してしまうと原因箇所を見落とすので、必ずプライマリーチェックの後で洗浄することが肝要です。
エンジンをかけてケミカル洗浄をしているのは、温度が高い方が油汚れの除去に有利だからです。
エンジン横置きの場合、トランスミッションもエンジンと同様に洗浄します。
作業完了後には、改めて高圧洗浄を施し、作動テストと走行テストを経て漏れが無いことを確認しなければなりません。
漏れを無くすことが整備の目的なので、もし清掃の不行き届きによって古い油汚れが滴下するようなことがあれば、たとえ適切な漏れ止め処置が施されていたとしても、この整備は失敗です。
エアクリーナAss'y を取り外して作業域を確保し、エンジンとミッションをハンガーで保持します。写真のバキュームホースとホースバンドは、汎用のシリコンホース&ホースバンドに交換しました。
オルタネーターのブラケット。全面が油汚れでコーティングされています。
クーラーコンプレッサーのブラケット。汚れ具合はほぼ同じ。
エンジン補器とそのブラケットを取外し、右側のエンジンマウントを取り外すと、サポートブラケットを抜き取ることができます。
エンジンハンガーを調節して作業域を拡げると、エンジンオイルパンを抜き取れます。
バルブカバーも取り外し、内部を観察。現オーナーは丁寧なオイル管理をしていますが、長い年月をかけて堆積した汚れが付着しています。
オイル漏れの修理は清掃が要諦であり、再使用する部品は入念に洗浄する必要があります。
なぜなら、修理完了後に行う完成検査の際に「そこが汚れているはずがない」と確信できていれば、整備不良のクルマが公道に流出するリスクを回避できるからです。
今回の整備では、漏れたエンジンオイルで膨潤したエンジンマウントの交換も同時に実施します。SS40型の純正エンジンマウントは欠品製廃済みなので、同じスズキ自動車の純正部品から他車用のエンジンマウントを流用することになります。
次の記事では、エンジンマウントの交換をご紹介し、その次の記事でオイル漏れの修理完了までをご紹介いたします。