ABS警告灯が消えない、という症状で入庫しました。
別の工場で、スピードセンサーのパルス出力と、センサーからABSモジュールまでの配線は確認済みとのこと。ABSモジュールやハイドロリックユニットまで交換する必要があるか?が、入庫時における最大の関心事です。
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これは、正常作動時の動画です。
別の工場で、スピードセンサーのパルス出力と、センサーからABSモジュールまでの配線は確認済みとのこと。ABSモジュールやハイドロリックユニットまで交換する必要があるか?が、入庫時における最大の関心事です。
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スキャンツールでABSワーニングの理由を調べると、
・ スピードセンサー
・ バスコミュニケーションリンク
の2系統を中心に、6つの故障コードが検出されました。
ABSランプは、始動時の自動ランプチェック後、ただちに点灯して消えません。
DTCを一旦消去して再始動しても、状況に変化なし。
スピードセンサー不良コードが停車時に記録される理由は限られています。
ライブデータを記録しながら走行テストを実施、4つあるスピードセンサーの出力信号を点検。
センサーが出力した車速信号は、正しくABSモジュールに届けられているようです。
この状態で、
「イグニッションスイッチをオンにすると同時に、スピードセンサー不良で警告灯をつける」
という動作は、論理破綻しているように思われます。
このABSモジュールは、正常なのか疑わしい。
その疑念を晴らす意味も含め、ABSモジュール周辺に汚らしく束ねられていた配線をばらしてみることに。
見るからに怪しげな配線の処理。
テープの巻き方にも配線の束ね方にも、センスがまるで感じられません。
しかも、ショートによる大電流で配線が溶損している箇所があります。
何らかのアクセサリーのために改造されたと思われる、不要な配線を除去。
損傷したオリジナルの配線を修繕し、ショートの原因を探します。
点検した時点では、アース線に過大電流が流れる原因はありません。
すでに取外されたアクセサリーが原因だったのか?
配線が燃えたから慌ててむしり取ったのか??
*
そうこうしているうちに、衝撃の事実が判明。
このデュランゴのABSシステムには、本国で不具合の対策部品が出ているとのこと。
内容は、
・ ABSモジュール
・ ハイドロリックユニット
・ アイソレーションバルブ
・ ユニットブラケット
の4点。
おいおい、制御系統全部じゃないか・・・。
オーナーには災難ですが、メーカーが対策品を出していて、しかも現品の動作がおかしい以上、交換するしかありません。FTECとしては、配線を含む車体側の不良で新品のABSモジュールが再び破損しないように、点検と準備を進めます。
ABSモジュール変更時には、
・ VINコード
・ タイヤサイズ
・ ファイナルギヤレシオ
等の情報を、旧モジュールから新モジュールへ転送する必要があります。
テスターとクルマとふたつのモジュールが揃わないと起動しない、ということですね。
【参考】 → ダッジのABS修理
ブレーキパイプは、現品に合わせて若干形状を変更する必要があります。
その他の箇所は完全ボルトオンなので交換は容易。
配管、結線、ブレーキオイルの給油、ブレーキラインのエア抜き、そしてDRB-ⅢによるABSモジュールの起動処理、この順番で作業を進めます。
ブレーキシステムが組み上がったところで、DTCがクリアされていることを確認。
バッテリー電源を確保して、イグニッションをオンにします。
冒頭の動画の通り、バルブチェックの後にエンジンを始動。
すると、ABSランプは・・・
ま た 点 灯 。
工 工エエェェェェェェェ((゚Д゚)) ェェェェェエエエ工 工
消えない!
再度スキャナーを接続し、ダイアグノーシスを再点検。
DTCは、「後スピードセンサー不良」を示すコードがひとつだけです。
KOEO (Key On Engine Off) で故障コードの消去を試みると、今度は受付けます。
しかし、始動すると「後スピードセンサー不良」を検出してABSランプをつけてしまう。
つまり、スキャナーを見ずメーターだけを見れば、最初と何も変わっていない!
ということです!!・・・マイッタな、こりゃあ。
第3世代デュランゴ。ああ、なんて素敵なんだ・・・ (現実逃避) |
冷静に状況を整理しましょう。
ABSモジュールを交換したことによって、自己診断装置が正常に機能するようになったことは間違いない。なぜなら、旧モジュールは複数の故障コードがイグニッションスイッチオンと同時にセットされて、一時的な消去すら受け付けなかったのだから。
と、いうことは?
他にどんな可能性があるのか??
後スピードセンサーからABSモジュール間の配線は健全であり、途中に介在する装置はない。そして、スピードセンサーは確かに速度信号を出力しており、ABSモジュールはその信号をもとに車速を計算して数値化できている。
配線とセンサーが正常なのに、それを異常と判断するのはABSモジュールの不良?
・・・いやいや、そこは新品ですから。
車体側にABSモジュールを錯乱させる原因があって、正常なモジュールが誤作動する?
・・・それは、無いとは言い切れない。
ダッジは、インストルメントパネルもひとつのモジュールと見做してバスコミュニケーションリンクを張り巡らせている。ABSモジュールが正常な信号を届けているのに、受け取ったインパネが異常信号と誤認してABSランプを点灯させる可能性はあるか?
そんなにピンポイントで故障するとは考えにくい。
配線図を見る限り、インパネ不良ならもっと他の症状も一緒に出るはず。
何より、ABSランプ点灯の直接的な原因であるDTCは、ABSモジュールの管理分野だ。
これらの状況から、事態を打開するためにはABSモジュールのカプラーで入出力信号を測定し、誤作動させる原因が車体側にある可能性をつぶしていくしかないと判断します。
仮説を立てたら実証あるのみ。
下の配線図をもとに、片っ端から信号をサンプリングしていきます。
カプラーは2つ、端子は18本。
条件は、KOEO (Key On Engine Off) と KOER (Key On Engine Run) の2種類。
つまり、計測は最低36回。
その結果は ・・・・
すべて 正 常 値
(ノ-_-)ノ~┻┻ ガラガラ・.、,;。 .
どうなってんのコレ。
・ ABSモジュール
・ ワイヤーハーネス
・ スピードセンサー
この3つ以外に、今の症状に結びつく要素はないはずだ。
それ以外の要素、たとえば事故修理などで常識では考えられないような誤配線がなされた可能性や、新品モジュールの初期不良などは、疑い出したらキリがない。
もっとも疑わしい3つの要素については、すでに診断が一巡している。
ということは、絶対にあるはずなのだ。
どこかに、見落としが。
上:右前 中:左前 下:後 |
考えを整理しながら、テスト走行時にサンプリングした車速データを眺めてみる。
このクルマの車速は、4つのセンサーからの信号をもとに計算される。
・ 前右タイヤの回転数
・ 前左タイヤの回転数
・ プロペラシャフトの回転数
・ 後タイヤの回転数
この4つだ。
タイヤの回転数には、右左折や空気圧のばらつきによって生じる誤差がある。
いや、これは結構大きな違いでしょう!
後タイヤの回転数を表すデータが、実際のタイヤ回転数を表現しきれているとは言えない。
後タイヤからの車速信号が途絶えることがある、と見るのが妥当です。
ということは、センサーとトリガーホイールの間に目視できる異常が無ければ、後スピードセンサーは交換すべきと判断できます。DTCが示す通りでもありますしね。
ただスッキリしないのは、エンジンを始動しただけで、つまり走り出す前の段階でABSランプが点灯する、ということ。
ダッジのABSモジュールは、4つのセンサーから入力される車速信号が全部ゼロの状態でも、ひとつのセンサーの不良を検知できるのか?
それを確かめるために、後スピードセンサーのカプラーを外して可変抵抗器を接続。
車速ゼロの疑似信号をABSモジュールに返すテスト回路を製作します。
結論として、今回のABSランプ点灯修理には
雨や雪や、ぬかるみでスリップするたびにABSが効かなくなっては困るのだ。
ゆえに、車速データの整合性は、あって当然の誤差を許容する幅をもって評価される。
ん?
これも、「あって当然の誤差」なのか?
後タイヤの回転数を表すデータが、実際のタイヤ回転数を表現しきれているとは言えない。
後タイヤからの車速信号が途絶えることがある、と見るのが妥当です。
ということは、センサーとトリガーホイールの間に目視できる異常が無ければ、後スピードセンサーは交換すべきと判断できます。DTCが示す通りでもありますしね。
ただスッキリしないのは、エンジンを始動しただけで、つまり走り出す前の段階でABSランプが点灯する、ということ。
ダッジのABSモジュールは、4つのセンサーから入力される車速信号が全部ゼロの状態でも、ひとつのセンサーの不良を検知できるのか?
それを確かめるために、後スピードセンサーのカプラーを外して可変抵抗器を接続。
車速ゼロの疑似信号をABSモジュールに返すテスト回路を製作します。
DTCをクリアしてエンジンを始動させると・・・
正常な機能を回復しました。(´Д`) =3
内部抵抗値に異常があった車速センサー |
結論として、今回のABSランプ点灯修理には
・ ABSモジュール (対策品)
・ ハイドロリックユニット (対策品)
・ ハイドロリックユニット (対策品)
・ アイソレーションバルブ (対策品)
・ ユニットブラケット (対策品)
・ 後スピードセンサー
これらの部品交換と、
・ ABSモジュール付近の配線修理
(新品部品を破損させないため)
が、必要不可欠だったのです。
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【今回の整備の総括】
バスコミュニケーションリンクを含む不自然なDTCが検出された
DTCの消去を受け付けない状態だった
ABS制御系統に対策部品があった
>>> 対策部品にセットで交換
ABSの制御系統を組替えても消えないDTCがひとつだけあった
ABSモジュール付近の配線に焼損箇所があった
まさか新品のモジュールが壊れたか
>>> 車体側の配線を修理し、ABSモジュールの入出力信号をすべて点検
「後スピードセンサーのパルス出力は確認済み」という事前情報があった
その信憑性については、スキャナーのライブデータで確認した
車速信号はセンサーからモジュールに届いていた
>>> 実は、その車速信号には質的な不良が含まれていた
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ABSに限らず、自己診断をつかさどるモジュールの交換をともなう修理では、DTCの信憑性を疑う必要があります。
今回はそれが裏目に出た節があり、診断に多大な時間を取られてしまいました。
もし、ライブデータ観察時に3つのグラフを並べて比較していなかったら、後スピードセンサーからの速度信号だけに質的不良があることに気付くのは、さらに遅れたかもしれません。
「タマゴを立てる方法」と同じで、解ってしまえば簡単なことなんですがね。
今回の診断は内容を精査して、迅速正確な整備につなげる教訓を導き出したい。
そうしなければ、到底間尺に合わない仕事でした。
おまけの動画は、初代デュランゴのデビュー当時のCMと、現行デュランゴのCMです。
「不撓不屈の精神を象徴」ですって (笑)。
そのタフネス、FTECも見習いたい!