埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

BMW 320d のデュアルテールマフラー製作

BMW 320d Sport (F30型) 2013年式です。
マフラー製作のために入庫しました。


左一本出しの純正マフラーを、左右対称の二本出しに改めます。


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製作に先立って設定したコンセプトの要点は、

・ 純正風の外観を保つ
・ 音を大きくしない

この2点に絞り込みました。

320dは、オールアルミニウム製の直噴ディーゼルエンジンをターボチャージャーで過給し、IN/EX 双方のカムシャフトの位相とタービンへの排気経路を運転状況にあわせて変化させることで、1,750rpmという低域から最大トルク380N・m(38.7kgf・m)を発生するモデルです。

マフラー加工によって背圧が大幅に変わるとブルーパフォーマンステクノロジーに影響が出そうなので、パイプの取り廻しや径の選択は純正マフラーの背圧と同等になるように意識して行います。



デュアルテールにするためには、純正バンパーの加工が必要です。
左側と同じマフラー出口を、右側に新たに製作する作業です。


テンプレートで左右対称にカットしただけだと、左側の純正形状と同じにはなりません。
アーチの天井部分がバンパー素材の厚さ分しか残らないので、品質感を損ないます。
ここは是非とも、陰になる部分も含めて同一形状にしたいところ。


上位車種のバンパーを流用することでこの問題をクリアする方法もあります。
しかし、現車のリヤアンダーディフューザーは、320d の専用部品

328i や 330i のバンパーを新たに購入して塗装し、320d のディフューザーを取付けるために更なる加工を施すならば、ほとんど新品と言っていい現車のバンパーに手を加えた方が得策だ、というのが今回の手法を選んだ理由です。

ちなみに、現在量販されている 320d 用のマフラーは、ほとんどがMスポーツのバンパー装着を前提条件としており、純正のディフューザーは取外さなければなりません。


リヤアンダーディフューザーを取外して、純正マフラーの取り回しとフロア形状を確認します。
大排気量のエンジンに共通の床形状で対応するためか、スペースにはゆとりがあります。






純正エキゾーストシステムの素材は、触媒一体式のマニフォールドから最後方のサイレンサーまでがSUS430、サイレンサーとテールパイプがSUS304のようです。新規に製作する部分はすべてSUS304を使用します。


テールパイプ径をイメージするために、工場にあったΦ90を並べてみる。
ワイルドすぎる、ということで即却下!今回の狙いはエレガント路線ですからね。



純正バンパー左側のマフラー出口を、完全左右対称の移置にもう一つ作製する。
できましたよ。…できたんですが、な ん だ か 嫌な予感 。





バッテリー収納部の床形状と右側開口部との関係が、予想より厳しい!
スムースに排気を流すためには、相当きわどいパイピングが要りそうです。


私の指は普通の長さですが、この状態でフロアの角部分に触れています。
何種類か対処方法が思い浮かびますが、エレガント路線なら斜め出しは避けたい。


これは、映り込みを見るために#400 仕上げのフィニッシャーをあてがったところ。
立ち位置から見下ろすと、アーチ天井部分の綺麗な映り込みを確認できます。


右側の開口部を、真後ろから見る。
やはり、今回はここがキーポイントになりそうですね。


アンダーパネルのラップ部分を切除して端面を研磨。



真後ろに向けたフィニッシャーに斜めにつなぐ、ポルシェによくある手法も検討。
しかし、アーチ左下側とパイプが干渉して溶けそうですし、ディフューザーに設ける切欠きが大きくなりすぎる、という理由で却下。



これらの事実を踏まえて量販品をあらためて見ると、気づくことがたくさんあります。
なるほど、そういう事情があったのか、・・・と。




ともあれ、今回はワンオフマフラー製作ですから。
量販品の一理も認めつつ、ワンオフならではの手法で対処します。


左一本出しの純正テールパイプは、Φ60です。
Φ50とΦ60のベンドパイプで、Φ60シングルをΦ50デュアルに分岐させる構成に決定。



ほぼストレートで、レゾネーター構造になっているサイレンサー。非常に軽量です。



右側出口付近のパイピングには、切り曲げを使います。
この小半径の曲げを、断面積を減らさずに取廻す唯一の方法です。


左右の出口から均等に排気されるように、サイレンサー直後で真っ二つにスプリット。
左右同径のパイプでフィニッシャーまで導きます。




右側出口までの方が距離があるので、なるべくストレートな形状を心掛け、左側はそのパイプを避けてなおかつ純正と同じ位置と向きに納まるように取り廻していきます。


組み上がったデュアルエキゾーストを真後ろから見た図。


ディフューザーを取付けるため、サイレンサー前のパイプは純正と同位置に保ちます。


完成したデュアルテールマフラーに、320d 純正ディフューザーを装着。
固定方法は純正とまったく同じ。同じ本数の同じスクリューで、同じ位置に取り付けます。






当初設定したコンセプトである「純正風の仕上げ」が、実現できました。

排気音については、テールパイプの延長が静粛性向上に寄与した結果、純正同等かそれ以下の音量と言ってよく、音質に雑味が混じることもなかったことを付記しておきます。




上が今回製作したマフラーのフィニッシャー。下が純正のもの。
BMWをよく知らない人なら、これがワンオフマフラーとは気づかないかもしれませんね!







今回のおまけ映像は、2013年公開の映画「Now You See Me」(邦題 : グランド・イリュージョン)をもとに製作された、F30系 BMW 3シリーズのプロモーションビデオ。FBI捜査官がサスペンションをフルストロークさせて市街地を駆け回るシーンが印象的です。




VFXには、説得させられることはあっても、感動させられることはありません。
まして自動車は、宇宙船や戦闘機などとは違い、観客が追体験できる乗り物です。

日本車のメーカーも「暴走を助長する」などという妄言に惑わされずに、実車を使って魂に直接響くプロモーションを展開して、BMWと比肩するメーカーとして認知されるように努めてはいかがでしょうか?


橋の上でオーバーテイクされるクルマに、ぜひご注目あれ!