埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

スカイラインのオーディオアンプ取付

日産 スカイライン V37(2014年式)です。
カーオーディオの改造で入庫しました。


メーカーオプションのBOSEパフォーマンスシリーズサウンドシステムを搭載しています。
オーナーのご意向を伺い、パワーアンプを追加することに決めました。
着手に先立ち、オーナーからテスト用の音源を預かります。

音の評価は主観的なものであって、数値や理論が満足度を保証するとは限りません。

・どこに不満を感じているのか
・なぜそう感じるようになったのか
・どのように変えたいと思っているのか

など、ここに至るまでの経緯の聞き取りが最初の仕事と心得ます。

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テスト用音源の楽曲をオーナーの隣で聴いて一定の共感に至ったら、現状のオーディオシステムがどのようなセッティングになっているのかを確かめます。


純正オプションのBOSEシステムは14個のスピーカーを備えており、インフィニティ タッチのパネル操作で表現を変えられる仕組みになっています。

サウンド設定は、基本的にデフォルトの状態でした。

BOSEセンターポイントとオーディオパイロット、ドライバーズオーディオステージは、ON/OFFを聴き比べることでオーナーの好みの傾向を知ることに役立ちます。


BOSEセンターポイントはサラウンド効果を提供し、BOSEオーディオパイロットは周囲の騒音に合わせて音声出力を補正します。


Driver's Audio Stageは、運転席を音場の中心にする設定です。
この写真ではONですが、入庫時はOFFの状態でした。


オーディオアンプを組むにあたり、気になったのがBOSEオーディオパイロットです。
走行中のノイズに対して連続的に出力音声を変化させる、ということは、もし、

アンプで増強された音をノイズと誤認する

と、システムが勝手に音声出力を変化させ、狙い通りの音に調整できなくなる可能性があるからです。サービスマニュアルから抜粋した概念図は、以下の通り。



専用のマイクロフォンで車室内の音を採取していることが解かります。

補正の具体例を見ると、「聞こえない」「聴き取りづらい」というストレスを取り除くのがBOSEオーディオパイロットの趣旨であり、逆位相の信号を音声出力と混ぜてスピーカーから出すノイズキャンセラ―とは別ものであることが判明。

これなら、車体が共振するような大音量でも出さない限り問題なさそうです。



今回追加装着するのは、パイオニア製4チャンネルパワーアンプD7400
PCでセッティングするプロセッサアンプとは別次元の簡便なものです。

出力は

最大 200W x 4ch 4Ω / 600W x 2ch 4Ω
定格 100W x 4ch 4Ω / 150W x 4ch 2Ω / 300W x 2ch 4Ω

で、2ch独立のハイ/ローパスフィルターを備えています。

今回はアンプ追加以外は手を付けない条件なので、純正BOSEシステムのどこに割り込ませるかが思案のしどころになります。日産自動車のサイトに、注目に値する情報がありました。

【引用元】→ https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/skyline/function.html

V37スカイラインのBOSEパフォーマンスシリーズサウンドシステムは、2016年(平成28年)11月のマイナーチェンジでアップグレードされています。

マイナーチェンジ前後の違いは以下の通り。


カタログの情報では、スピーカー数が14から16に増えたことくらいしか掴めませんが、実は広範な変更が施されています。メーカーが何に注目してどこを改善してきたかについては、一考の価値があるとFTECは思います。


オーディオパワーアンプの配置は、別売りの電源ケーブルの仕様などを総合的に判断して、トランクルームの床下に決定。エンジンルームのメインバッテリーから80Aのヒューズを介して電源を取り込みます。


トランクルーム内にアイドリングストップ用のサブバッテリーがあるのですが、簡単接続の誘惑に負けずに定石通りメインバッテリーから配線します。


なお、イグニッションOFF後30秒間は、ディスプレイコントロールユニット、AVコントロールユニットともに作動中なので、バッテリーターミナルを外すことはできません。

サービスマニュアルには、バッテリーターミナルを外した場合の影響が列記されています。内装の脱着手順や配線図などを含め、作業に関連する箇所の完全なサービスマニュアルがあるのなら、手順に明記されていない限りバッテリーターミナルは外さないほうが無難です。さもないと、オーナーに無駄なコストを背負わせる破目になってしまいますから。



ワイパーアームとカウルトップパネルを取り外すと、エンジンルーム内のメインバッテリーにアクセスできます。アンプの電源ケーブルを車内に引き込むには、フロントガラス左下にある純正配線のためのサービスホールを利用します。



ダッシュボード裏をペダル側から見上げた図。


グローブボックスの奥から床面まで導きます。
動く箇所はすべて動かし、助手席の人がどう動いても影響が出ないように固定します。






電源ケーブルの長さは6mに制限されています。エアバッグ満載世代のクルマなので、車室内を前から後ろまで通せるルートはサイドシル内しかありません。



トリムが完全に元通りに組めること、配線との間隔などに配慮して固定。




左サイドシルから後ドア開口部下を通してリヤパーセルシェルフの裏側へ導きます。



リヤシートバックのブラケット部、板金細工でエッジが立っているので要注意

ヒューズがあるとはいえ80Aですから、万一ショートすれば車輌火災になりかねません。
コルゲートチューブで養生して純正ハーネスと抱き合わせてタイラップで固定。



パワーアンプはこのように配置します。トランクルームの床板を水平に支える発泡スチロールの詰め物を、アンプの容積だけ切り取って元通りに組めるようにしています。


配線後に床板を再装着すれば、トランク容積をまったく損なわずに済むことが解かります。アンプ上面の方が発泡スチロールの詰め物より低いので、トランクに積めるものが制限されることもありません。改造は不便にならないようにするのが、基本です。


現車のBOSEシステムが14個のスピーカーを備えていることは前述しました。追加するアンプをどのスピーカーに関与させるかについては、以下の考察に基づいて決めていきます。

まず、マイナーチェンジで変更されたスピーカーは現車のBOSEシステムの弱点を補うものと予想し、その中からフルレンジスピーカーを選び出します。具体的には、

・フロントドアスコーカ―(定格7.6W/最大22.5W 3.6Ω)
・リヤドアスピーカー(定格7.2W/最大21.6W 3.6Ω)

が、それに当たります。ここを補うことは有意義であると見做して良いでしょう。

しかし配線図を確認すると、フロントドアスコーカ―はツイーターと並列に接続されています。この場合、合成インピーダンスを計算し直さなければなりません


フロントドアスコーカ―のインピーダンスは3.6Ω、ツイーターも3.6Ω。
ふたつの抵抗を並列に接続した場合の合成抵抗は「和分の積」で求められますから、

3.6x3.6 / (3.6+3.6) = 12.96 / 7.2 = 1.8Ω

合成インピーダンスは1.8Ωとなり、パイオニアのガイドラインに抵触します。

パイオニアは4~8Ωを条件としています

そこで、前方のスピーカーは

・インストルメントパネル左右のスコーカ―(定格7.6W/最大22.5W 3.6Ω)

を選び、これにパイオニア製のアンプを関与させることに決めました。


配線図と照合しながらBOSEアンプの入出力線をほどいていきます。14個のスピーカーに繋がる12セットの配線は、すべてツイスト線になっています。



新たに製作するスピーカー用の配線には、古河電工のビーメックス線を使用します。架橋ポリエチレン被覆で耐熱温度は120℃、芯線には錫めっきが施されている逸品です。


ビーメックスの被覆の色は、全部で10種類(昔は12色あったのですが…)。
純正の配線の色に合わせて、最小限の長さでスピーカー線を製作します。



パイオニア製アンプの接続部は、端子の穴に配線を通してイモネジで締め込む方式になっています。配線の終端が拡がらないようにハンダで始末しておきます。



BOSEアンプの隣に、新たに端子台を設けます。これによって、接続先を変えたり純正に戻したりといった配線の変更が容易にできるようになります。



最後に、メインバッテリーの+ターミナルにパイオニア製アンプの電源ケーブルを接続し、オーディーシステムの作動テストを実施。

物理的な作業が終わった後は、オーナーのご意見を伺いながら調整作業に着手します。
調整内容は十人十色で、同じセットアップが他の人にあてはまることはないでしょう。


テスト走行を実施して、走行中の音も評価します。BOSEオーディオパイロットのON/OFFを比較して、音に歪みが生じないことを確認。センターポイントは着手時と同じONの設定を継続。ドライバーズオーディオステージは音量次第でON/OFFを切替えると良さそうです。


完成したクルマをお引渡ししてから数日後に、更なる調整を加えました。
音量を上げたときに、オーナーのイメージとのずれが生じていたためです。

その作業中、FTECはステージと向き合って客席に座るイメージで調整していたのですが、実はオーナーはステージに立つ側の人でもあることが判りました。

このことは、冒頭で触れた聞き取りの重要性を再認識する貴重な体験となりました。



V37スカイラインGTのBOSEサウンドシステムにパワーアンプを追加する記事は以上です。

「良い音」の定義は聴き手の数だけ存在し、それぞれに個性があることでしょう。
それでも、オーナーをよく知ることが大切である理由や、クルマ全体の使い勝手に配慮した安全な取付けの手法は、改造に取り組む際の普遍的な要諦であるとFTECは考えています。

お読みいただいた方々にとって、有益な情報が含まれていますように。






今回の動画は、日産スカイラインV37、別名インフィニティQ50のプロモーションビデオ。

グローバル市場で量産車メーカーを比較する際ベンチマークとなるのはこういうクルマですから、日本でミニバンしか売れないからといって開発の手を緩めずに良質のクルマを出し続けていただきたいものです。

スカイラインの伝統よ、永遠なれ!