埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ジムニーのサスペンション交換

スズキ ジムニーJB23W型(2005年式)です。
サスペンションまわりの仕様変更のため入庫しました。
走行距離は52,000㎞、用途に合わせた修理と改造を施します。

▲ After

このクルマは東京近郊で高速道路を含む街乗りに利用されており、都合オーバードライブ付4速オートマチックトランスミッションを装備しています。

▲ Before

・車高を2.5インチ(63.5㎜)アップ
・キャスター角を補正
・スタビライザー位置を補正
・タイヤサイズを大径化

これらが今回の仕様変更の概要です。

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JB23型ジムニーのサスペンションは、3リンクリジッドのコイルオーバー式。
最初からコイルスプリングによる懸架を前提に設計されています。

まずは純正のショックとスプリングに続き、リーディングアームを取外します。


リーディングアームは前ギヤキャリア(ホーシング)と、左右各2本の通しボルトで連結されています。4箇所の結合部には、それぞれラバーブッシュが圧入されています。


そのブッシュを油圧プレスで抜き取って・・・


トレーディングアーム側のシリンダー内面を、フラップホイルで仕上げます。
清掃することで瑕疵を発見することもあるので、この作業は必須です。



ブッシュが抜かれたシリンダーの内面には、必ずデブリが残っています。
綺麗に除去することで、傷の見落としが減り、後の工程が円滑になります。




純正ブッシュのかわりに、通し穴の位置を偏芯させた社外品のブッシュを圧入します。
これによって前ギヤキャリアが後傾し、キャスター角を約3°寝かせることができます。


前側一箇所だけを交換した場合の補正角度は1°30'。
供給元のAPIOでは、60~75mmの車高アップで前後使用を勧めています。

今回は2.5インチ(63.5㎜)アップですから、前後二箇所に使用します。



圧入完了。公差を使いきりキャスター角が最大になるようにセットしました。
これは、冒頭に記したこのクルマの用途に合わせるための判断です。

これによって、ステアリングの復元力(セルフアライニングトルク)が増すので、高速道路での進路保持が容易になり、路地での取り回しも楽になります。



リーディングアームの通しボルトは、点検して再使用します。



ワイヤーホイルで清掃し、ダイスでねじ山を整えます。



一本、瑕疵のあるボルトが見つかりました。
スレッドが磨滅しています。このボルトは再使用不可能



新品のボルトを追加手配して、その間にタイヤを交換します。

サイズは185/85R-16。ジムニーの純正ホイールに安全に装着できます。

【引用】→ http://toyotires.jp/catalog/oprt.html

このクルマの場合、タイヤ選びで最重要視したのは重量です。
ばね下重量の軽さは、一般道における乗り心地の良さに直結するからです。

かつては同じトーヨータイヤのトランパスMT(195R16C)が最軽量で一択指名買いできたのですが、残念ながら生産終了となってしまいました。

後継モデルのオープンカントリーR/Tを取り寄せ、たまたま工場にあった超精密重量測定器で計測したところ、1本当たりの重量はおよそ13kg弱と判明。



さて、例のボルトがまだなので、先に後サスペンションを組替えます。
新たに組む社外品と取外した純正品を比較。



ジムニーのサスペンションは3リンクリジッドアクスル式ですから、車高が上がればギヤキャリア全体の位置が左右方向にずれます。これを補正するためには、純正より長く調整できるラテラルロッドが必要です。


社外品のラテラルロッドは、純正品との交換だけで左右のずれを補正できます。
しかし、車高アップによって角度が変わった影響を相殺することはできません。

そこで、接地荷重がかかった状態でラテラルロッドが水平近くにセットされるように、ギヤキャリア側の取付位置を上げるブラケットを装着します。



これでクルマを地面に降ろすと、ラテラルロッドが水平になります。
最終的なラテラルロッドの長さ調整は、テスト走行後の工程ですね。



例のボルトが入荷したので、前サスペンションを組みましょう。


これは、前スタビライザーの車体側取付位置を変えるブラケット
ラテラルロッド同様、 2.5インチ(63.5㎜)アップによって不適切な角度になるスタビライザーを有効な角度に補正します。


スタビライザー角度補正ブラケットの装着状態。
車体側取付位置が後方に移動し、ブラケットの厚さ分下がっていることが分かります。

これによって、スタビライザーとギヤキャリアを両端で結ぶコネクティングロッドの角度が適正化され、純正同等のロール剛性を確保することができます。


クルマの前側に回ったついでに、ヘッドライトをコンバージョンキットでHID化。
それにともない、ポジションライトをレイブリック製のLEDに交換。
フォグライトのバルブも、より白く光るものに交換しました。



さて、先に装着した新しいタイヤのサイズは185/85R-16。
純正タイヤは175/80R-16ですから、直径で約34mmの拡大になります。

このジムニーはJB23の5型なので、フェンダー内のボディーマウントに干渉することが予想されます。据え切りで当たらなくても走行中に当たらないとは限らないので、念のために疑わしい部分は手当てしておきます。



3mm厚の山形鋼をグレード7のボルト3本で締め付けます。
これは仮組みの様子。



仮組みを一旦バラして切断面とボルト穴まわりをタッチアップ。
純正マウント両面と製作したブラケットに白色のチッピングコートを施して本組付け。





車高2.5インチ(63.5㎜)アップの影響を相殺するための細かな処理。
ABS配線(!)とエアロック配管(!!)の位置と角度を上げて対処。


ブレーキホースも、長いものに交換します。
サスペンションのトラベルストロークをイメージして取り回すことが肝要です。


アピオの減衰力調整式ショックアブソーバーは、調整ダイヤルの位置がタイロッドの丁度正面に来るので、ステアリングのロック位置をスペーサーで調整して干渉を防ぎます。



破れたり無くなったりしていた、ブレーキブリーダーのキャップ。
ホース交換のついでにミヤコ製の新品に交換。



バックモニターを付けたいとのご要望を追加でいただきました。
イクリプスの正規オプション品は既にカタログ落ちでしたが、互換性のある現行機種を調べて取付けます。




さすが正規オプション品、画質も使用感も自然でストレスなく使えます。


最後に、トランスミッションとトランスファーのオイルを交換。
このトランスファーは、チェーンをギヤと併用する一般的な方式。旧型のギヤ式と耐久性の面でどう違ってくるのか、今後の経過観察が楽しみです。




完成車お引渡し時にギリギリ納品が間に合ったのがこの部品。
THULE製ルーフキャリアのアルミウイングバーです。
角断面をした標準のバーと違い、風切音を低減することができます。


一連の仕様変更を経て、完成したJB23型ジムニー。

サスペンションで63.5mm、タイヤ外径の二分の一で17mm、合計80.5mm車高が上がったおかげで視界が格段に良くなり、キャスター角の補正によって、社外品のステアリングダンパーの影響で重かったステアリングの戻りが、ノーマルよりも良くなりました。


新しいショックアブソーバーには、前後とも14段の調整機能が備わっています。
この仕様ならきっと、長く楽しくお乗りいただけることでしょう。



今回のおまけ動画は、スズキ自動車によるジムニーのプロモーションビデオ。
クロスカントリー性能を強調しながら、AT車であることに時勢を感じます。




初代スズキジムニーがデビューしたのは1970年(昭和45年)。
次のフルモデルチェンジで50年目を迎えることは確実です。

是非とも稀有な個性を堅持して、ラダーフレームで現れることを願います!