埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

旧車のエアコン修理

マーキュリークーガー(1977年式、第4世代)のエアコン整備です。
効かなくなったクーラーをアップデートするために入庫しました。
冷媒(クーラーガス)は、R12からR134aに変更します。


装着されているコンプレッサーは1960~70年代のスタンダード、ヨーク製。
アメ車に限らず、日米欧の幅広い車種に採用されていた名品です。

ヨークのコンプレッサーはオーバーホール可能ですが、クーラーガスとコンプレッサーオイルを新ガス(R134a)用に変更すると保証がつきません。ここに紹介するメニューの方が費用面で有利なので、FTECではコンプレッサー交換を含むアップデートを推奨しています。

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このクルマのエアコンは完全に壊れているのではなく、効きが弱まった状態です。
その原因は、経年劣化によるコンプレッサーの圧縮漏れ。


マニフォールドゲージを接続し、ガス圧を測定。
2,000rpmで測定しても、高圧側が1Mpaまでしか上がりません。


ガスを充填していくと、高圧につられて低圧も上がっていきます。

・ エキスパンションバルブの衰損
・ コンプレッサーの衰損

双方とも認められます。サクション側の圧力を下げる力も不足している状態です。


コンプレッサー自体は異音を発することもなく、クーラーラインに詰まりや漏れが生じていないので、システム全体を刷新する必要はなさそうです。


現状把握のためにエキスパンションバルブを取り外し、異物混入が無いか点検します。



蛍光剤を注入してOリングを交換します。
この作業によって、コンデンサーとエバポレーターの交換を避けられるか判断できます。


プライマリーチェックと現状を把握するための整備を経て、アップデートメニューを決定。
Classic Auto Air にワンオフのための部品一式を手配します。

クラシックオートエアの製品は、品質と価格のバランスが良く、FTECの推奨品です。

彼らのサイトでは詳しいカタログを見ることができます。コンプリートキットとしてラインナップされている車種への装着は、整備の心得のあるオーナーならDIYが可能でしょう。

【クラシックオートエアのサイト】 → http://www.classicautoair.com/

 1977年式のクーガー用は、ワンオフになります。
したがって、現車にあわせてホースをカシメる必要が生じます。
この作業だけが、やり直しの効かない一発勝負ということになります。


日本仕様のカシメは、アメリカ仕様とは違います。
ホースとパイプの肉厚と締め代を最適値に設定し、確実なカシメを実現します。


新しいコンプレッサーは、サンデン製のロータリー式。
ヨーク製レシプロ式より小型軽量で、エンジンにかかる負荷も下がります。
6.6リッター(400CID)のV8エンジンにとっては、大した問題ではありませんが・・・


コンプレッサーベルトのライン調整が容易なように、ブラケット側が長穴になっています。
DIYで取り付けに挑戦される方には、時間を惜しまずに取り組んで頂きたい箇所です。


このクルマのように、EPRが装着されている場合は調整が必要です。
R12とR134aでは潜熱が違うので、充填量の調整だけでは良く冷えません。


このクルマのEPRは、Motorcraft D70H 19D 580 AA という品番です。

調整方法については、正規の手法ではないので記載を控えることにします。
1970年代にはクーラーガスを変更するなんて夢にも思いませんでしたから、マニュアルに調整方法が載っていないのは当然なのですが・・・


クーラーガスの充填量は、マニフォールドゲージの圧力をもとに管理します。
排気量に余裕のあるエンジンは、理想値に近いセッティングが可能です。


システム全体の圧力分布を観察しながら流量を調整します。
この状態ではまだ、ぬるい風しか出てきません。


前述の通り、70年代には想定し得ない調整なので、整備性は良くありません。
何度かトライ&エラーを繰り返して最適なポイントを見出すことになります。


 良いポイントが見つかりました。上の写真との差がわかりますか?
アイシングを起こしている配管の範囲が違いますね。


ダッシュボードの吹き出し口にプローブをセットして、風の温度を測定。
この強烈な効き。アメ車のエアコンはこうでなくてはいけません


FTECでは世界各国のクルマを整備していますが、ことエアコンの能力に関してはアメ車に比肩するクルマなし、と認識しています。

ドイツ車が「運転に適した室内環境」を志向しているのに対し、アメ車は

「暴力的な冷風=快適」

と認識している節があります。


日本の夏は、気温も湿度も(不快指数も)、世界有数の高さでしょう。

「エアコンさえ効けば・・・」

そう思いながら旧車にお乗りの方は、アップデートを検討なさってはいかがでしょうか?

ガスとオイルを変換するだけのレトロフィットもありますが、効き自体は良くなりません。
FTECは、取付けに挑戦したいオーナーのために、キットの取り寄せもしています。

このクルマのようにワンオフの場合は、現車合わせになりますので別途ご相談ください。