日産フェアレディZ (HS30) 1972年式です。
ガソリンタンク内部の錆を除去し、コーティングを施しました。
新品のタンクが入手できるなら迷わず交換するところですが、生憎これは日本にもアメリカにもありません。錆におかされたタンクを再生せざるを得ないとき、FTECでよく選択されるのが POR-15 フューエルタンクリペアキットによる、化学的な処理方法です。
現車はすでにフューエルライン全体に錆がまわっており、抜本的な修理が必要な状態。
ポンプ前に付いていた燃料フィルター |
これはセッティング以前の問題です |
フュエルレベルゲージのユニットを取外し、まずはタンク内の様子を確認。
錆落とし用のマリンクリーンと、ポットで沸かした同量のお湯を投入します。
場所によって錆の程度は違います。
常に燃料に浸かっていたタンク底部の錆は、比較的軽微。
側壁や天井部は、ほとんど空気に触れているので重傷になりがちです。
下側に燃料が描いた水平線が見えます |
あらためて、POR-15 フュエルタンクリペアキットの内容を整理すると、
・ 錆落とし用の「マリンクリーン」
・ 下地調整用の「メタルレーディ」
・ コーティングのための「タンクシーラー」
・ 最初の給油時に燃料に添加する「スタビライザー」
これら4種類のケミカルがセットになっています。
今回は追加で、
も購入しました。
手肌に付着した時や、道具の手入れ時に使います。
POR-15 は一般的なシンナーでは溶けず、希釈もできません。
DIYでやる方には、手元に置いておくことをお奨めします。
タンクから外せる部品をすべて外し、穴という穴を全て目張りします。
布テープで充分ですが、タンク表面の脱脂が不十分だと途中で漏れだして厄介です。
コーティングの境界付近は特に念入りに脱脂して、少々シツコイ位に貼りこみましょう。
目張りが済んだら、ケミカルを投入する一か所だけテープを剥がして漏斗をセット。
基本的には、3つのケミカルとも同じやり方で大丈夫です。
でも、この写真の漏斗は、シーラーの投入時には使いません。
漏斗に付着したシーラーを除去することは、大変難しいからです。
下地調整用のケミカルは金属の漏斗で大丈夫 |
話が前後しますが、FTECではこの作業を始める前に、大量のお湯でタンク内を洗浄します。
あらかじめタンクそのものの温度を高めておくことで、ケミカルの反応を促進させるためです。
予熱の効果を最大限利用するために、投入後20~30分は休まず回し続けます。
これを水流で洗い出し、同様の手順で下地調整用のメタルレーディを投入。
この時、お湯は混ぜません。
下地調整後、内部を再確認。
床部はほとんど錆が無く、側壁や天井の錆は茶色いシミのようになっています。
ひどく錆びていた天井部の鉄板は、まるでサンゴのような硬さです!
念入りにドライエアーを送り込み、向きを変えながら放置すること3日。
メタルレーディも、全面に行き渡るように細心の注意を払って転がします。
全面が30分程度メタルレーディに浸かれば良いので、上手くやればその日のうちに排出できます。FTECでは、念のため一晩おいて排出しました。
下地調整後、内部を再確認。
床部はほとんど錆が無く、側壁や天井の錆は茶色いシミのようになっています。
ひどく錆びていた天井部の鉄板は、まるでサンゴのような硬さです!
タンクシーラーの前に使用する、2種類のケミカルによる作業が完了しました。
下地調整の最終工程は、タンク内面の乾燥させる作業です。
燃料タンクのコーティングが成功するか失敗するかは、この乾燥次第。
そういっても過言ではない、極めて重要な工程です。
FTECでは、熱湯を10Lほど投入して、開口部から遠いところまで念入りに温めた後で排出し、圧縮空気で水蒸気を追い出す方法を採っています。
水滴の状態でタンク内に残った水分が、自然に乾燥することは期待できません。
今回は、初夏の日差しの下で作業できました。
日本の夏は高温ですが多湿です。この時期なら、強い陽射しを利用したいところ。
少しでも乾燥を促進させるために、タンク外側の黒ペイントをやり直して風通しの良い場所に放置します。
真冬にタンクをコーティングするなら、大気中の湿度が低いぶん有利です。
熱風を送り込んで触れないほどタンクを温めてやれば完璧。
しかし、屋外に放置して結露させてしまうと台無しですから注意しましょう。
タンクの温度は、どの工程でも高く保つのがポイント |
念入りにドライエアーを送り込み、向きを変えながら放置すること3日。
そろそろ下地が整った様子です。
乾燥の過程でうっすらと錆色が出ます。もちろんこれも無いに越したことはありませんが、そんなことよりも完全に乾燥させることの方がずっと重要です。
FTECは、信頼性を回復した旧車を一台でも多く日本に残したいと願いつづけています。
乾燥の過程でうっすらと錆色が出ます。もちろんこれも無いに越したことはありませんが、そんなことよりも完全に乾燥させることの方がずっと重要です。
布テープの目張りをしなおし、いよいよタンクシーラーを投入します。
漏斗は使い捨てることになるので廃材を利用。
投入前に、シーラーが均一になるように撹拌します。
缶の底部に水あめ状に固まっているので、ある程度剛性のあるものでかき混ぜます。
少々見づらいですが、液面付近の棒先にダマになってついています。
全量が滑らかに均一になるまで、ひたすら撹拌を続けます。
マーブル模様がなくなるまで念入りに撹拌する |
撹拌が済んだらタンクシーラーを投入します。
高価なシーラーですが、惜しみなく全量を使うことが成功への近道です。
投入口を再び目張りして、下地調整の時と同じ要領でタンクを回します。
タンクシーラーは粘度が高いので、全面に行き渡るようにコントロールするにはゆっくり回す方がよいでしょう。一枚板のバッフルプレートの両面を完璧にコーティングするためには、タンク内でシーラーがどう動いていくのかを把握しておく必要があります。
この種の作業は、作業者のイマジネーションが成否にかかわるところ。
下の動画は、タンク内を流動するシーラーの様子を少しだけ撮影したものです。
DIYで挑戦する方の参考になれば幸いです。
シーラー投入後、タンクを回す時間は夏場で30~40分、真冬で1時間ほどです。
シーラー排出後に、フューエルラインや燃料蒸発ガスの通路が塞がらないようにエアーを送り込みますが、シーラーがまだやわらかい状態だと一旦エアーで確保された通路が再び閉塞される可能性があるので、タイミングが重要です。
チューブ、パイプ状の通路がタンクシーラーで詰まったら、回復は不可能です。
ゲージユニットの取付け部は、Oリングで確実にシールできるように平滑に。
タンクシーラーが溜まったまま固まると、取付けできなくなったりガソリンが漏れたりします。
通路確保のために送り込むエアーの圧力は、200kpa(=2bar、2.04kg/cm2)程度。
圧力が髙過ぎると、エアーがタンク内に出た先で対面する壁のシーラーを破壊します。
S30系のタンクにはドレーンプラグがあります。
ここもねじ山がタンクシーラーで固着すると、二度とはずせません。
夏場の作業だと2~3時間は柔らかい状態ですが、除去できるのは排出直後のみ。
くどいくらい念入りに、POR-15 専用うすめ液を使いながら余計なシーラーを除去します。
シーラーの完全硬化までに要する時間は、96時間(4日間)。
これは、大気中の湿度やタンクの構造によって変わってくるとみるのが妥当です。
FTECでは、毎日2回通気して一週間は放置します。
電極のカシメ部からガソリンが滲みだしていたゲージユニットは、新品を入手できました!
再生した燃料タンクを車体に取り付け、最初の燃料注入時にスタビライザーを添加します。
ガソリン12Lに対して1オンス(=28.3g)なので、このケミカルは余ります。
POR-15 フューエルタンクリペアキットによるタンク内のコーティングは、一般的な塗装の常識とは比較にならないほど固く、堅牢です。
燃料タンク内の錆は、流動して気まぐれなエンジン不調を引き起こします。
調子がいい時とわるい時の差が大きくて再現性がないとか、順調にアイドリングしていたエンジンが急に止まるとか。そんな故障が頻発すると、どんなに惚れ込んだ旧車が相手でも気持ちが萎えてくるものです。
旧車乗りを悩みから解放するために、こうした懸念は早めに取り除いたほうが得策です。
セッティングの前に、「綺麗が当然」のタンク内部は綺麗にしてしまいましょう。FTECは、信頼性を回復した旧車を一台でも多く日本に残したいと願いつづけています。