埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

フォードのリンケージ式パワーステアリング修理 (2/2)

FORD車用 リンケージ式パワーステアリングの修理です。
前の記事でリビルドしたコントロールバルブに続いて、ポンプをオーバーホールします。

50年前の大衆車にパワーステアリングをつけて大量生産していたアメリカとフォードに想いを馳せて、設計者の理念に恥じないメインテナンスを施そうと襟を正して臨みます。


今回は、年式違いの他車種用パワーステアリングポンプも、一緒に分解します。


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一般的に、油圧式のパワーステアリングポンプには、

必要な時に必要なだけのオイルをシステムに供給すること

が求められます。

あたりまえだろ、といわれそうですが、エンジンで駆動するポンプの回転数はアイドリングとトップエンドで10~12倍も違います。一方、パワーステアリングシステムが要求するオイルの圧力と流量は転舵に対する負荷で決まり、それ以上には働かせない工夫が必要です。

運転する人間が気ままにステアリングを操作する「その瞬間」に、遅滞なく一定の圧力と流量のオイルで応えること。

このパワステポンプは、電気をいっさい使わず油圧制御でその条件を満足させています


長年立派にお役目を果たしてきた部品ですが、労に報いる整備が施された形跡がない。
一言でいうと、汚いです。・・・本当に気の毒。



ポンプのドライブプーリーは、専用工具で外すべき部品です。

汎用のプーラーをかけたり、ハンマーやらバールやらで挑むと、再生不能に陥ります。
FTECは、この点について目を覆うようなポンプをいくつも見ています。
古い部品に敬意を払える人物だけに触れてほしいと願わずにいられません。



分解・洗浄の後、Oリングとガスケットはすべて交換します。

パワステポンプのオイル通路にもコントロールバルブと同様に、大変狭い箇所があります。
ケーシング外側に堆積した汚れの粒子をオイル通路に侵入させない工夫は不可欠です。




旧車ならではの注意点として、ベルトラインのチェックがあります。

40~50年も経つクルマには、様々な故障修理が施されていて当然です。純正とは違う部品を流用せざるを得ないこともありますし、別のエンジンに交換されているかもしれません。

結果として、補機類をエンジンに取り付けるステーが帳尻合わせをしていることがあります。

・ 補器の支持剛性は充分か
・ ベルトの張り調整は適切か
・ ベルトラインに狂いはないか

これらのことを、逐一確認しながら整備にあたることが肝要です。


オフセットして溶接しなおされたステー

ローラーアッセンブリーとプレッシャープレートを分離。
ふたつのポンプを並べて比較。






クレッセントの形状が明らかに違うので組み替えは不適切と判断。
オリジナル部品の再生に努めます。



見るからに細いオイルパッセージ。
かかる圧も高いので、異物の混入は絶対に避けねばなりません



分解・洗浄の後にオーバーホールシールキットを交換して組上げたポンプ。
最後にオイルストレナーを装着してパワステオイルを給油すれば、この部分は完了です。



最後に、パワーシリンダーとロッドエンドを交換します。

諸事情により、パワーシリンダーは中古品。
明らかに解体車から剥ぐってきましたという見た目がちょっとアレですが、やむなし。

オイル漏れもボールジョイントのガタもなく、現品よりはましか、という判断です。



べロースとジョイントブーツを新品に交換。
動作の滑らかさ、ロッド移置に関わらずオイル漏れの兆候がないこと、外観上の瑕疵がないことを確認し、新品ブッシュを介して車体側に取り付けます。



ロッドエンドは数が多く、僅かな改善から相乗効果を得やすいので全部交換。
部品形状が違うので、ロッドの全長は新たに設定し直す必要があります。

この程度の形状違いは互換性ありと判断するのが一般的なので、交換にともなう調整や点検には惜しみなく時間と手間をかけましょう。

「直進時、転舵時ともに、どこにも干渉しないこと」が条件なのは言うまでもありませんが、サスペンションが伸びきった状態では充分な確認ができないことを心して作業にあたる必要があります。




コントロールバルブとパワーシリンダー間の高圧ホースは、定期交換部品です。

オーバーホールしたパワステポンプとコントロールバルブは当分心配いりませんが、このホースは5~6年で交換することになるでしょう。


パワーステアリングの歴史を紐解くと、自動車に初めて搭載されたのが19世紀末のアメリカであることや、第二次世界大戦以前にはトラック用として試されていたことがわかります。

1950年代になって、未曾有の好景気の波に乗って大衆車にも普及していったパワステ。

当然、老若男女を問わず違和感なく扱え、その新しい機能への支払いを納得させ、期待通りの安全性を保証できるシステムとして売り出されたはず。





「アメ車のステアリングはふわふわで、狙い通りには走れない」
「タイヤからステアリングに、インフォメーションが伝わってこない」

構造と機能を理解すれば、これらの俗説がいかに的外れであるか、すぐにわかります。
もっとも、更にわかりやすい方法が、今はたくさんありますけどね。