埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ダッジ ダコタのエアコン修理

ダッジ ダコタ (第二世代 1997-2004年式) です。
エンジンは、5.2L(318cid) マグナム V8。
クーラーの効きが悪いとのことで、入庫しました。


余所の業者でガスを補充しながら騙しだまし乗っていたものの、連日の猛暑で我慢の限界に達し、ついに修理を決意したという次第。なお3年ほど前に、クーラーコンプレッサーを交換したことがあるとのこと。さて、どの程度の整備が要るのでしょうか。

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入庫時は、コンプレッサーのマグネットクラッチが頻繁にON-OFFを繰り返す状態。
プレッシャースイッチのハンチングによるもので、典型的なガス不足の症状です。


ゲージマニフォールドを接続し、蛍光剤入りのリークテスターを注入。
故障診断を開始します。


外気温は35℃

中央吹き出し口に温度プローブをセット

Hi 17.0  Lo 3.3 (bar)

外気温35℃なら、R134a用に設計されたエアコンシステムの場合、チャージ側(高圧)は20bar以上になるのが普通です。サクション側(低圧)は2bar代が理想なのですが、この段階では良否判定はできかねます。もっと根本的な「効かない原因」がないとは言い切れませんから。

この時の吹き出し口の温度は、24℃。

ぬるい風が・・・

湿度が高いので、低圧側の配管はすぐにこんな状態に。

コンデンサーを冷やしてみます。雨の日や走行中のガス圧力を再現します。

エンジン回転数は1000~1500rpm。

高圧が一気に10.5barに低下、低圧は2.2bar。

Hi 10.5  Lo 2.2 (bar)

その時、吹き出し口の温度は31℃に。(-_-;;)

許しがたい温風です!

エンジンルーム内の部品を中心に、目視できるガス漏れ箇所を探します。

・ クーラーコンプレッサー本体
・ クーラーホース
・ コンデンサー
・ アキュムレータ(= ドライヤー、リキッドタンク)
・ オリフィスチューブ(= エキスパンションバルブ)
・ プレッシャースイッチ

の6部品と、それぞれの連結箇所を点検。
長年漏れていた箇所は、ガスと一緒に漏れ出したオイルが汚れを吸着しているので判断を助ける材料になります。

最初のテストから24時間経過以降は、蛍光剤入りリークテスターが信頼に足る役割を果たしてくれます。これは、車室内のHVAC(= Heater Ventilator and Air Conditioning)ユニット奥に仕込まれたエバポレーターなどについても、照射さえできれば良否判定ができるので便利です。

車載バッテリーを電源に利用

コンプレッサーとホースの連結部

青緑色の部分が滲みだした蛍光剤です

診断の結果、エンジンルーム内のクーラー構成部品に2カ所の漏れが見つかりました。

・ コンプレッサーとホースの嵌合面
・ 高圧側チャージバルブの内部

です。

シールリングガスケットとバルブコアを新品に交換。





現車のコンプレッサーは、SANDEN MODEL 4788。
いくつかあるサンデンSDコンプレッサーの属性のうち、7H15にあたる製品です。

仕様の概要は以下の通り。詳細はサンデンUSAのサイトから検索できます。

■ サンデン 4788 コンプレッサー

コンプレッサー属性: SD7H15
スタイル: HD
マウントタイプ: SD7 Direct T300
EAR ID: T127 B115
クーラーガス: R134a
回転方向: 時計回り
オイル量: 約240cc
etc.


ガスケット嵌合面は清掃して平滑に仕上げます

クーラーラインの分離脱着をともなう整備の際には、コンプレッサーオイルの点検と補充が欠かせません。新品のオイルは透明なのですが、3つ上の写真(ガスケット付きの嵌合面が映っているもの)に、滴下しようとしている飴色に変色したコンプレッサーオイルが映っています。

サンデン4788コンプレッサーの純正指定オイルは、SP-20。
ISO 100 のPAGオイルです。

同じサンデンのR134aシステム用PAGタイプコンプレッサーオイルでも、SP-20とSP-10では粘度特性がまるで違うので十分な注意が必要です。


先日の整備のように、ガス種や指定オイル種が違う機器を混在させるシステムではないので、ここは迷うことなく純正オイルを注入します。

指定オイルの品番を確認して注油

左 : 新品 右 : 旧品

クーラーラインを再び結合したら、小一時間をかけてガッチリと真空引き。
ポンプ停止後1時間程放置して、ゲージの指し示す数値が微動だにしないことを確認。

何度でもチャージ前には真空引きを必ず行う

未発見の漏れ箇所はゲージが教えてくれます

幸運にも、車室内ユニット側にガス漏れは発生していませんでした。

現車のシステムは、クーラーガスR134aを32オンス(≒ 907g)と、コンプレッサーオイルPAG100(SANDEN SP-20)を7.75オンス(≒ 220g)要求します。

・ ガス漏れを起こしたまま運行した期間
・ ガス漏れの進行速度
・ ガス充填の回数

などの情報をヒアリングし、システム内に残留しているオイル量を予測して補充します


メーカー純正のエアコンシステムなので、サービスデータ通りにガスとオイルを補充できれば所定の性能を発揮します。

診断の初期段階で低圧側の数値が気持ち高めでしたが、37℃の環境温度で9℃の冷風を供給できれば、これ以上深追いする必要はないでしょう。

このままでも夜の走行中には、凍結防止の機能が働くくらいですからね。

外気温度 37℃

中央吹き出し口温度 9℃


オリフィスチューブ(= エキスパンションバルブ)とドライヤー(= アキュムレータ、リキッドタンク)を交換したうえでHVACを降ろし、エバポレータを清掃したりエアディストリビューションを改善したりすれば、冷凍器と見紛うようなクーラーも実現できるでしょう。

総じて、今回はガス漏れ箇所の修理と、メーカーがサービスマニュアルに記載しているデータに忠実な整備を施しただけの内容で完了としました。その割には能書きが多い・・・



ところで、気付きましたか?

コンプレッサーオイルの量に、一見矛盾があるようですね。

サンデン4788のスペックシートは240㏄、ダッジのサービスデータは220㏄です。
この記事をここまで読まれた方なら「誤差の内じゃん?」とは、ならないはず。

FTECの判断はこうです。

・ システムが要求するオイルは総量220cc
・ サンデンのスペックシートにある240ccは他車種を含む平均的な目安
・ クーラー作動中オイルはガスと共に気化してサイクル内を循環する
・ ダコタのクーラーラインは同じコンプレッサーを使う他車種より短い可能性がある

つまり、コンプレッサーオイルの量はクーラーガスの量に比例するので、クーラーガスの量が併記されている資料の方が実態により近いコンプレッサーオイルの量を表している、という見解です。



アイドリング放置で常時10℃の風を供給

カーエアコンの冷媒ガスは、環境負荷の低減要求を受けて時代ごとに変化します。
かつてのR12は消滅し、現在主流のR134aはまもなくR1234yfに取って代わられるでしょう。

・ CFC-12
・ HFC-134a
・ HFO-1234yf





時代の要請が自動車メーカーの姿勢を変えても、オーナーが愛車を慈しむ気持ちは変わりません。手間と時間をかけて互いの距離を縮めていく、そういうオーナーに巡り逢えたクルマは幸せです。

正しい整備の恩恵は、オーナーだけでなく社会全体が享受し得る。
FTECコーポレーションはそう確信しています。

快適な運転環境を回復したことで、ダコタのある生活がより愉しくなりますように!