ダッジ ダコタ スポーツ コンバーチブル(1990年式)です。
クーラー修理で入庫しました。
バイク乗りのオーナーいわく、雨天時以外はオープンで走っているとのこと。
しかし、さすがに真夏の炎天下でエアコンなしでは、運転に支障が出そうです。
競技用のオートバイを積載でき、4WDで屋根が開くトラックなんて滅多にありません。
乗り換える気など更々ないオーナーのために、快適なエアコンを復活させます。.
プライマリーチェックで初めに気付いたのは、冷却ファンが改造されていること。
ベルトで駆動するウォーターポンプの軸に、あるべきファンが見当りません。
替りに、汎用の電動ファンが装着されています。
しかし、シュラウドがファンに大きく被さっており、冷却性能を悪化させています。
よく見ると、モーターの高さがウォーターポンププーリーとラジエターのクリアランスに納まらない為、偏芯させて取付けられたことが分かります。シュラウドは他車種の流用かな?と思ったら・・・
なんと、純正のシュラウドを上下逆に装着してあります!
取付けネジの位置が対称だと気付いた作業者、嬉しかっただろうなあ(-"-;)
逆さに装着するとフラップが開きっぱなしになるから、タイラップで固定してあります。
取って捨てられなかっただけ良心的、と気を取り直して修理にかかるとしましょう。
シュラウドのフラップ部を上から見た図 |
エアコン修理にあたり、まずクーラーガスの圧力分布を調べます。
次いで、構成部品を露わにしてクーラーガスの漏れを確認していきます。
現車のクーラー構成部品は、
・ コンプレッサー
・ コンデンサー
・ アキュムレーター(= ドライヤー、リキッドタンク)
・ エキスパンションバルブ
・ プレッシャースイッチ
・ エバポレーター
の六つに大別され、それぞれが
・ 高圧ホース
・ 低圧ホース
の二つの部品で連結されています。
この内、エバポレーターは車室内ダッシュボード奥に仕込まれており、脱着点検の付帯作業が多いうえ、そこに手を付けるならHVAC (=Heater Ventilator & Air Conditioning) 全体の整備が避けられなくなります。エバポレーターを整備してヒーターコアに手を付けない訳にはいきませんし、ヒーターホース一本にしても、後で漏れ始めたらほぼ同じ作業をやり直す破目になりますから。
4 SEASONS のサイト |
オーナーとの綿密な打ち合わせの結果、今回は、
・ コンプレッサー
・ コンデンサー
・ アキュムレーター(= ドライヤー、リキッドタンク)
・ エキスパンションバルブ
・ プレッシャースイッチ
・ 低圧ホース
を交換することに決めました。
これらのパーツは、クライスラー/ダッジ正規ディーラーではほとんどが製廃です。
品質面で信頼できる「4SEASONS(テキサス州)」から、リビルド品を取り寄せます。
コンデンサー(新品)。 |
コンデンサーは、コアピッチを狭くコア厚を薄くして、熱交換効率を高めた仕様。
現車のファンシュラウドに納まる最大径のファンブレードを選択し、取付けます。
古いコンプレッサーのガスケットカラー。 |
エキスパンションバルブとプレッシャースイッチ。
新調するエアコンは、クーラーガスをR12からR134aに変更するものです。現車はここから盛大にクーラーガスが漏れていましたが、ガス圧のセット値を変える必要があるので漏れていなくても交換は必須です。
エキスパンションバルブをエバポレーター側に固定するボルト。
その他、クーラーホースを結合するボルト類は、再使用します。
ねじ山を清掃し、適切な強度のスレッドロッカーを併用。
全ての結合箇所について、ガスケットとОリングを交換します。
OリングはR134a用、コーティングされたグルーブドメタルガスケットは新旧同じ部品。
アキュムレーター。一般的に、アメリカでは「ドライヤー」、日本では「リキッドタンク」と呼ばれる部品。クーラーライン内部の水分を除去する役目を担っています。
クーリングファンを正規の状態に戻し、ファンシュラウドの上下を正しく装着しなおします。
純正は装備や仕向地によって、ファンブレードの大小に種類がありました。
現車のファンシュラウドに納まる最大径のファンブレードを選択し、取付けます。
コンプレッサーの仕様は、書類上は完全ボルトオン可能です。
左 : 新品 右 : 旧品 |
チャージポートの位置、ケースのデザインが微妙に違います。
新品コンプレッサーのケースが、ダコタのエクステンションと干渉。
実は、新品部品をただ組んだだけでは、所望の冷却能力が出ないことはよくあります。
高圧ガスを循環させるシステムとして、必ず安全な方に公差を設定しているのではないかと。
当たるところを最小限削り込んで装着。
コンプレッサーには、マグネットクラッチが作動した瞬間に巨大なGがかかるので、ブラケットの剛性は慎重に検討しなければなりません。削った箇所が面接触するように加工すれば安心ですね。
古い資料をひも解くと、1987年から1991年式のダッジ ダコタのエアコンには、44オンス(≒1,247グラム)のクーラーガスR12と、7.25オンス(≒ 206グラム)のミネラルオイルが使用されていたことが分かります。
また、4SEASONS のクーラーコンプレッサーには、ICE32エアコンディショニング トリートメントが使用されていることが分かっています。
旧ガスR12から新ガスR134aに変更する場合、多くのレトロフィットキットが異なるコンプレッサーオイルを推奨していることは、クルマの電装に関わる人にとって周知の事実です。
R12はミネラルオイル( ≒ スニソオイル)、R134aはPAG (= ポリ アルキレン グリコール) の使用が主流で、レトロフィットで今回のように一部の部品を再使用する場合はPOE (= ポリ オール エステル)の使用頻度が高くなります。
ICE32はPAGとエステルの両方に対応していると謳っているので、今回はPOEをコンプレッサーオイルとして採用することに決めました。
コンプレッサー、コンデンサー、アキュムレータにそれぞれ分散して、総量200グラムを注入します。
コンプレッサーの低圧ホース取付面に、嫌な傷を発見。
後々トラブルの種になるので、この手の修繕は有って当然と心得え地道に仕上げていきましょう。
コンプレッサーの据わりを確認します。
ケース形状が微妙に違うことが分かっているのですから、他にあたる箇所が無いとも限りません。
ここまで進めてはたと気づいたのですが、ファンブレードとカップリングを結合するボルトを用意し忘れました。通常ここのボルトは再使用で何ら問題ないのですが、現車は電動ファンに変える代わりに根元から取外されてしまっていたのです。
アルミダイキャストのファンカップリングが要求するボルトは、5/16インチ18ピッチ。
炭素鋼のキャップスクリューを準備して、首下長さを調整して取付けました。
上下が正しく戻されると、シュラウドのフラップも機能を回復します。
まあ、そんなにスピードを出すかどうか(出るかどうか?)は別問題ですが(*^-^*)
低圧側ホースのコンプレッサー側嵌合面。
純正のグルーブドガスケットからOリングシールに変更されています。
好みの問題ですが、FTECとしてはOリング式の方が安心して使用できます。
新旧コンデンサー比較。この写真だとわかりづらいですが、新部品(下)のほうが旧部品(上)よりコアピッチが狭く、厚さが薄くなっています。
ファンとカップリング、シュラウドが能力を回復してさらにコンデンサーを通過する風量が増すわけですから、冷却装置系統全体のキャパシティが上がることは間違いありません。
部品交換完了後、冷却水を入れながらクーラーガスを充填します。
低圧側が下がりませんね・・・ |
この温度では物足りないなー |
実は、新品部品をただ組んだだけでは、所望の冷却能力が出ないことはよくあります。
高圧ガスを循環させるシステムとして、必ず安全な方に公差を設定しているのではないかと。
対処方法にも色々あるのですが、とにかくR12より少ない量のR134aで冷風が出るように圧力を調整しなければなりません。最終的にどこまで冷えたかは、以下の動画をご覧ください。
ちなみにこの日、工場の環境温度は34℃でした∑(=ω=;;)
元々ダッジ&クライスラーは、GMやフォードに比べてエバポレーターの容積が小さいです。
車室内のHVACユニットも含めて完全整備すれば、あるいは真夏の炎天下で一桁の冷風が出たかもしれません。しかし、幌を上げれば他に類例のない小さなキャビンのダコタのことですから、そこまで攻めるのは費用対効果の面で得策ではないとも言えるのではないでしょうか。
完成車を引き渡す夜、オーナーは鮮やかな手際で乗ってきたオートバイを荷台に載せ、週末の競技会場へと旅立っていきました。公私共にオートバイに捧げた人生だと笑っておられましたが、四半世紀にもわたって使い込まれたダコタも、なんだか幸せそうにみえました。
安定した性能を発揮することで、オーナーの人生に彩りを添えられますように。
FTECの技術がお役に立てれば、それは至上の喜びです。