埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

旧車のトランスミッションメンバー整備

日産フェアレディZ 2by2 (GS31型) 昭和53年式です。
トランスミッションメンバーのブッシュを交換します。


エンジンマウントやトランスミッションマウントは、衰損の目視確認がしやすく破損の影響も分かりやすいので、定期的に交換されているケースが多いのですが、トランスミッションメンバーのブッシュは目視では確認しづらいので放置されがちです。

トランスミッションメンバーのブッシュが衰損すると、パワートレイン後部とボディの結合が緩くなるので、マニュアルミッションの場合はギヤセレクトの正確さが損なわれ、オートマチックトランスミッションの場合はシフトショックが大きくなります。






日産のパーツリストを調べると、かつてはブッシュ単体でも部品供給されていたことが判ります。

しかし、現在は製廃。ならばと、ミッションサポートAss'y (赤矢印) で調べましたが、これも

「製廃、在庫なし、再販予定なし」

と、三拍子そろった状態です。

ブッシュ交換の需要が出てくるのは早くても10年10万キロ以降なのだから、自動車メーカーも事情を酌んでもう少し長い期間販売してくれてもいいのに。あと、部品の価格が軒並み当時の5倍になるってのは、どうなのよ??

この見積り当時はサポートがありました。

諸々の事情を鑑みて、今回はアメリカから部品を取り寄せることに決定。

高度成長の後世代には想像しがたいでしょうが、S30系の時代に日本でスポーツカーを買える人は稀だったので、フェアレディZは生産された55万台のほとんどが輸出されたのです。

それを思うと、日本車の消耗品を海外から輸入する矛盾にも溜飲を下げられる気がします。


さて、今回取り寄せたのはエナジーサスペンションのポリウレタンブッシュ。
スポーツコンパクト用に強化されたブッシュを幅広く販売しており、品質は折り紙つきです。
イメージカラーは赤なのですが現車のイメージにそぐわないので、今回は黒を選択。


トランスミッションマウントを分離してミッションサポートを取外す。


ミッションマウントは交換歴があるようです。ここの健全性は問題無し。


ミッションサポートのブッシュ。
前後のラバーパッドを外すと、完全に切れている様子を目視確認できます。


エナジーのブッシュは、純正ブッシュのアウタースリーブの内径に合わせて削り出されたウレタン製。したがって、装着にあたってまずすべきことは、純正ブッシュのインナーコアをスリーブから抜くことです。プロパントーチでスリーブ側から温めて境界のゴムを沸騰させてやれば、コアは自重で下に抜け落ちます。


純正ブッシュのコアが抜けたら、残ったスリーブの内側をフラップホイールで清掃します。


ウレタンブッシュを真っ直ぐに圧入。最後に中央を縦貫するスリーブを挿入します。
削り出しによるブッシュ外径の精度は優秀で、わずかにオーバーサイズになっているものの、導入を丁寧にすれば九割がた手で組むことができ、奥まで入った後にはびくとも動きません


このクルマのオーナーは純粋なストリートカーとしてZを楽しんでいるので、モータースポーツユースをカバーするウレタンブッシュとの相性について少々気を揉んだのですが、完成後のテスト走行ではシフトアップやダウンの精度向上を喜んでいただけた様子で、FTECとしても胸をなでおろした次第です。
  

日本のクルマは、安くて壊れない。Z-car は、アメリカやヨーロッパでその評判を勝ち得た立役者の一人です。S30系の再後期にあたるこのGS31型 (2by2) は260Zとしてイギリスでもよく売れ、ベルギーのスパ24時間耐久レースにも出走しました。

輝かしいレースレジェンドとは別に地味で堅実な栄誉があるならば、こういうクルマにこそ相応しい。オーナーのライフスタイルに組み込まれたこのクルマが、いつまでも健全でありますように。

FTECはこれからも、健全な自動車を後世に遺すため微力を傾注する所存です。