埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

チェイサーの車検整備

トヨタ チェイサー アバンテ (GX81型)1989年式です。
車検(法定24か月点検)整備で入庫しました。


エンジンは1G-G型 2,000cc 直6 DOHC
登坂時に出力不足となる症状があり、マフラーに穴が開いていることが分かっています。
ユーザー車検で生き延びてきたこの車輌、どんな整備が要るのでしょうか?


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まずは定石通り、フィルターや油脂類等の消耗品の状態を確認。


エアクリーナーのフィルターは交換しましょう。


スパークプラグはイリジウムに交換されています。1Gには適さないので交換します。


ディストリビュータ。シグナルジェネレータまわりの汚損を清掃、シャフトのガタつきを点検。
キャップとローターはセットで交換したいのですが、キャップは既に製廃&欠品。


ブレーキディスクパッドの残量は充分。大分埃をかぶっているのは比較的走行距離が少ないせいか?キャリパーの固着などによる偏摩耗を起こしていないか、全輪のパッドとローターを点検。


ダブルウイッシュボーンサスペンション全景。ブッシュ、ボールジョイントともガタつきは皆無。


シャシー下まわりに吹き出した錆びは、27年の歳月を伺わせます。




エンジンオイルとそのフィルター、冷却水、ブレーキフルード、クラッチフルードを交換。
そう、現車は5速マニュアルトランスミッション搭載車です。

クラッチはブレーキより作動頻度が高いのでFTECでは必ず交換します。ペダルの応答性が改善し、マスターシリンダーとオペレーティングシリンダーの延命にも寄与します。



クラッチマスターシリンダーのリザーブタンク。フルード交換前の色。


クラッチフルード交換後。オペレーティングシリンダーをフルストロークさせてブリーダーを開放し、全量を交換してからエア抜きを実施。


綺麗なフルードで満たされたクラッチマスターシリンダー。


ブレーキマスターシリンダーのリザーブタンク。交換前の色。


全輪のブリーダープラグをマスターシリンダーの遠方から順に解放してブレーキフルード全量を交換。新しいブレーキフルードで満たされたブレーキマスターシリンダー。


最初に交換を決めたエアクリーナーエレメント。


アンダーカバーのファスナーに欠落があります。再装着時に新品で補完。


汚れてはいてもオイル漏れひとつ起こしていないエンジン。贅沢でゆとりある設計もさることながら、現車に堅実な整備が施されていた証しでもあります。


エンジンルーム、シャシ下周りを高圧洗浄。




オーナーのご要望をうけ、下周りにシャシーブラックを施工。




エンジン冷却水のサーモスタット。水温上昇の推移に異常が見られたため点検すると、半開きのまま閉じられない状態でした。低負荷で走行中に水温が下がるとECUが低水温時の制御に移り、円滑な運転を妨げることがあります。1989年当時の自己診断機能では、この不具合は検出できません

サーモスタットケースの嵌合面を清掃して平滑に整え、パッキンとサーモスタットをセットで交換。




エンジン冷却水のリザーブタンク。取外して高圧洗浄し、沈殿したデブリを除去します。




エンジンアンダーカバーも高圧洗浄。
欠落していたボルトとファスナーを適切な部品で補完して再取付け。



腐食して穴だらけになったリヤマフラー。オーナーが持ち込んだ中古良品に交換。



マフラーガスケットやフランジボルトは、トヨタ純正の新品に交換。






二次電圧がリークしてミスファイアを起こしていたハイテンションコード(=プラグコード)は、トヨタ純正部品がすでに製廃。今回は永井電子の製品を取付けます。


純正同様に養生することで、持続的な性能の発揮を促します。


スパークプラグは純正指定のプラチナプラグに戻します。



ディストリビューターのローター。キャップとセットで交換したかったのですが、ディストリビューターキャップもすでに製廃です。このあたりの部品供給は、製造者の責任として自動車メーカーに何とかしてもらいたいところ。近い将来キャップ交換の必要に迫られたら、海外市場にリプロ品を探すことになるでしょうが、品質を見極めるまでに無駄な買い物を余儀なくされるかもしれません。



適切な点火と安定した水温によって、円滑さを取り戻した1G-G型エンジン。
ヤマハ製ツインカムヘッドを載せた当時のトヨタエンジンに共通するカバーデザインが懐かしい。

2,000ccで直列6気筒+DOHC24バルブヘッドという組み合わせは、これから現れる新車には決して採用されないでしょう。現車は30年も昔の設計ながら、今日失われた美点を数多く備えています。

一般的な消耗部品が順次製廃となり、トヨタ純正部品で正統を維持していくことが困難になりつつある今、FTECの提唱する正しい整備も時流を受容れて見直さざるを得ないと度々実感させられます。

健全な自動車が不意に与えてくれる共感を伝承するために、クルマとオーナーの要請に応え続けること。それが正しい整備の方向性を表す指針であると、FTECは確信しています。




おまけの動画は、X80系 チェイサーのTVコマーシャル。

合成も早回しもない、現場と現物の画づくりがかえって新鮮です。

当時はこんな気持ちで振り返ることになろうとは、思ってもいませんでしたね。