サリーン S281SC です。
前回の記事で、その生い立ちについて触れました。
今回から、エンジン前方からの金属音を取り除く整備を記事にします。
スパークプラグやエアフィルター等、走行距離で指定されているルーティンメインテナンスを前倒しして実施し、スーパーチャージャーを降ろして専用オイルを交換します。
スパークプラグはハイスレッドタイプ、銘柄は Autolite HT0。
プラグホールを点検。カムカバーからエンジンオイルが滲入することも無く、綺麗です。
全気筒とも写真のような状態でした。
スーパーチャージャーユニットは、スロットルボディを含む上部を先に取外しました。
ファイアウォール付近の横長のスロットがコンプレッサーの吸気側通路、下部に潜ってリショルム式コンプレッサーで前方に送られながら圧縮され、上向きに吐出されます。写真では、上部を覆い尽くすように配置された水冷式インタークーラーが見えています。
インタークーラーを取外すと、コンプレッサーの入口側と出口側の隔壁に設けられた小さなバタフライバルブが見えます。このバルブは、最大過給圧の制御とワイドオープンスロットル時の初期応答性を改善する役目を担っています。
スーパーチャージャーユニットは、上部が無くても人力では降ろせない重量です。
ホイストで慎重に、水平に吊って降ろします。
嵌合面は双方ともに機械仕上げのアルミニウムですから、降ろす際に角当たりすると修繕作業が発生します。プーリーもインジェクターもデリケートな部品ですから、無理な力が加わらないよう細心の注意を払います。
ノーマルは、Vバンク中央のスペースを共鳴管に使用しています。
よくぞこのスペースにスーパーチャージャーを収めたな、と驚かされます。
降ろしたスーパーチャージャーユニットを上下逆に置き、プーリーを手回しします。
インタークーラーを取外す際に漏れた冷却水とPCVから取りこまれたエンジンオイルが、コンプレッサーのローター側から排出されます。
水冷インタークーラーのコア。写真手前の二つのポートが専用冷却水の出入り口。このポートにねじ込まれるホースフィッティングだけでユニット内での位置決めがされています。
固定のために小さな部品を使わなかったのは、サリーンの良心の現れでしょう。ユニット内でビスが緩んで落下したら、コンプレッサーが助かる見込みはありませんから。
リショルム式コンプレッサーのローターを駆動するギヤボックスから、オイルを抜きます。このギヤボックスには、ドレーンプラグがありません。
フィラープラグを開けて、開口部が一番低くなるように傾きを調整して吸い出します。
少しでも多くの汚れとオイルを排出できるように、プーリーを手回ししながら作業します。
過給圧コントロールバルブも分解します。このシャフトの錆を見れば、分解は正解だったと判ります。ここがスムースに動かなければ、エンジンの応答は鈍くなり、出力も出ません。
インテークマニフォールドとシリンダーヘッドのパッキンは全て交換。
写真はサリーン製の嵌合面。フォード純正のパッキンを純正同様の精度で装着できます。
インタークーラーのコアは、中性洗剤で洗浄します。PCVから吸入した油煙はこの場所で液体に戻るので、全体的に油膜で覆われています。
サリーンスーパーチャージャーシリーズⅥの場合、管理の行き届いていないエンジンから取り外したインタークーラーは絶望的に汚れているだろうと思います。
インタークーラーに締め込まれる、専用冷却水のフィッティング。
フィッティング側に1本、インタークーラーコア側に1本、それぞれOリングを使用してスーパーチャージャーユニットのケースを挟み込む仕組みです。
IN / OUT 各2本のOリングの他に、液体パッキンも併用して組まれています。
構造を理解した方はお気づきでしょうが、この場所でユニットの内側に液漏れが起こればエンジンは壊滅的なダメージを被ります。ケースの外側に漏れ出せば一目で分かりますが、内側に漏れ出した場合は相当深刻な事態になるまで気付かないかもしれません。
内外各2本のOリングを新品に交換するのは当然です。併用されていた液体パッキンも塗り直します。古い液体パッキンの残滓は、欠片も残さず除去しなければなりません。
インテークマニフォールド周りのパッキンを観察。
ケミカルで膨潤させると新しいOリングを見誤るので、清掃は拭き上げのみ。
スーパーチャージャーのギヤボックスの、フィラープラグにもOリングが使われています。これも汎用の細いOリングに交換します。
スーパーチャージャーユニットをエンジンから降ろす場合、過給圧コントロールバルブを付帯作業として取外すことになります。スレッドロッカーの残滓が付着していますが、錆がねじ山にも生じています。
錆びて汚れたボルトナットは、清掃研磨して組付けに備えます。
過給圧コントロールバルブのバタフライとシャフト。
周辺のボルトやビスも、もれなく錆が噴出しています。
磨いて整頓。組付けに備えます。
左右シリンダーヘッド前方上部をつなぐ、エンジン冷却水のバランスチューブ。融雪剤を含む水飛沫が、冷却ファンによってふりかかる可能性のある場所です。
アルミダイキャスト製ですが、嵌合面も含め腐食が進んだ状態です。
パッキンは交換、嵌合面は清掃します。
インタークーラー冷却水のポート周りには、フィッティングに塗布されていた液体パッキンの残滓が付着しています。Oリング用の溝内も含めて清掃することが肝要です。
ねじ山の根元に錆が生じたボルト。こういうボルトをこのまま組むと、部品を傷めたり機能が持続しなくなったりします。必ず磨いて組むのがFTECコーポレーションの流儀です。
Oリング用の溝内側も、デブリが付着していてはいけません。
・アルミから噴き出した錆び
・古い液体パッキンの屑
・古いOリングから剥がれた欠片
・古いシリコングリスが取りこんだ埃
等が溝に残っていると、Oリングシールは所定の性能を発揮できないからです。
凸凹の面に液体パッキンを塗りつけて組めば早くて安上がりかもしれませんが、早々に手痛いしっぺ返しを喰らう破目になるでしょう。
付帯作業として取外した部品やボルトナットが、徐々に組付けに相応しい状態に整ってきました。材質がアルミであれ真鍮であれ鋼であれ、酸化して平滑を損なった面をケミカルで誤魔化すことはできないとFTECコーポレーションは信じています。
クルマを永く乗るためには、系ごとに分けての整備が欠かせません。完了した系はその他の整備が一巡するまで持続的に性能を発揮してほしいと願うのが人情だと思います。FTECコーポレーションは、その思いに応えるのが自らに課せられた使命であると認識しています。
次回は、エンジン側の嵌合部の仕上げとスーパーチャージャー用のオイル交換について記事にします。