埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

燃料タンクのコーティング施工

錆におかされた金属製のフュエルセル(燃料タンク)を、ケミカルで補修します。
使用するケミカルは、POR-15 のフュエルタンクリペアキット

これは1973年式のフォードのタンクですが、車種が何であっても作業内容は同じです。

乗用車にプラスチック製タンクが用いられるようになったのは、90年代以降のことです。

本来、錆びた燃料タンクは交換すべき部品です。しかし、一般的にレストアの対象と見なされていないクルマを、限られた予算と時間のもとで再生する場合には、元の部品を使わざるを得ないことが間々あります。ここに紹介するケミカルによる補修は、選択肢として検討する価値があるとFTECは考えています。

今回修理するタンクは10年近く放置されていた不動車のもので、状態は最悪の部類。
ケミカルで補修できる限界と思ってご覧ください。

より一般的な作業例はこちら → S30Zの燃料タンク修理
さらに詳しく解説した例はこちら → ユーノスコスモの燃料タンク修理 (全3回)


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まず、車載状態でフュエルレベルのゲージユニットを取り外します。

いきなりグロテスクなものが




内容物は、腐敗したガソリン臭をともなった錆び水です。
タンク内を覗いてみると、隅々まで錆におかされている事がわかります。



燃料タンクを構成する鋼板の板厚を、どこまで侵食しているかが問題です。
率直に言って、これは「ダメで元々、他に方法が無いからやってみよう」というレベル。




大量の水と中性洗剤で、燃料タンク内外を覆っていた不純物を洗い流します。

この後、フュエルタンクリペアキットに含まれる

・ マリンクリーン(燃料タンク内特有の汚れを除去)
・ メタルレーディ(錆を除去して亜鉛リン酸塩の下地をコーティング)
・ タンクシーラー(防錆を担う高強度のシール剤)

の順序で施工していきます。

下準備として、ケミカルの注入に使用する穴だけを残し、その他の穴を塞ぎます。
薬剤を隅々まで行き渡らせるため、タンクを揺すったり転がしたりするので、布テープで念入りに目張りをしました。


マリンクリーン1リットルと、同量のお湯を投入し、タンクの隅々まで行き渡らせます。


24時間経過後、タンク内部に残っていた錆を薬剤とともに排出。


最初の洗浄であらかた取り除けた気になっていると、出てきたものを見て驚きます。
内部の錆が予想より酷かったため、マリンクリーンの工程は繰り返し行いました。


取扱説明書によると、薬剤の温度が高いほうが効率が良いとのこと。
50℃程度に燗して投入、直後の薬剤の反応は穏やかでした。


薬剤の温度特性だけを考慮すれば、夏場に作業した方が有利かもしれません。
しかし、湿度が低いほうが乾燥が早いので、その意味では冬場が有利といえるかも。

高温かつ低湿度の環境は空調で作るしかない、日本の気候は厳しい。



マリンクリーンの工程が終わったら、次はメタルレーディを投入します。
前出の取扱説明書曰く、メタルレーディは水で洗い流すことが可能です。




ようやく地金が顔を出してきました。

メタルレーディの施工時間は、正味30分から1時間。
ここまでで、すでに3日間が経過。忍耐力と持続力が試されます。



大量の錆を除去したせいで、ピンホールがあいてしまいました。
この程度のピンホールは後の工程で修理できるので、気にせず先に進みます。


ケミカルで取れる錆を徹底的に落としたら、ひたすら乾燥させます
燃料タンク内部を徹底的に乾燥させることが、失敗と成功の分水嶺です。


暇さえあれば圧縮エアを送り込み、まる3日経った後のタンクの内部。
スクレーパーで削り取ることができないくらい根深い錆が、まだ全面を覆っています。
徹底的に乾燥させることに注力して、ここはこれで良しとする。
他に、手の施しようがありません。

いよいよ、タンクシーラーを投入します。




成分が分離しているので、念入りに撹拌して燃料タンクに投入します。


ギヤオイルくらいの粘度をイメージしながら、燃料タンク内部の隅々まで行き渡るように動かします。「転がす」という方が表現として適切かも。


さて、タンク内の様子は?


タンクシーラーが柔らかいうちに、何度も確認しながら全面コーティングを目指します。


燃料タンク内の隅々まで行き渡ったことが確認できたら、余分な薬剤を排出します。


燃料蒸発ガスの通気口やフュエルホースの接続口には、シーラーが乾かないうちに圧縮エアーを通します。チューブ内でシーラーが硬化してしまうと取り返しがつきません

また、ゲージユニットの嵌合部も、良く磨いてから極薄くシーラーを塗るよう心掛けないと、燃料漏れの原因となるので注意が必要です。

とにかく、

余計なところに付着したタンクシーラーを硬化後に取り除くことはできない

これを常に念頭に置いておくことが、一番大事です。


ピンホールが開いた場所からは、外側にタンクシーラーが漏れ出します。
内側のシーラー硬化後に外側から同じシーラーを刷毛塗りすれば、穴は塞がります。


ピンホール対策と同じ理屈で、ゲージユニットのフロートも修理できます。


中に滲みこんだ液体を排出し、ワイヤで吊って上下交互にコーティングします。



時間を惜しんで全体をつけてしまうと、硬化後にワイヤを取り外せなくなります。


最後に外側を塗装して完成です。


記事にしてしまうと簡単に見えますが、一連の作業には季節を問わず最低2~3週間が必要です。このクルマの場合、ストレナー&フィルター類は勿論、ラバーホース、デリバリーパイプの全てを使用できる状態に戻すまでに、さらに数日を費やしています。

アマチュアレストアラーから信頼を勝ち得ている POR-15。
プロショップで敬遠されがちなのは、

・ 硬化時間が非常に長い
・ 専用溶剤しか使えない
・ 硬化後に修正が効かない

等の、ハンドリングの悪さに原因があるのかもしれません。

とはいえ、

・ ガソリンにおかされずタンク内を半永久的にコーティングできる

という性能は本物です。

自分で挑戦しようという気合の入ったオーナーには、工夫を凝らして良いものを仕上げて頂きたいと思います。

下地処理、特に内部の乾燥が成否のカギなので、排水の処理設備がある場所で水分除去のためにアルコール洗浄をすると、作業時間を短縮できるかもしれませんね。


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