日産 スカイライン GT-R(BNR32) です。
アライメント調整を、サスペンション整備の一環として行いました。
ストリートユースを最重要視した、ノーマルに限りなく近い仕様です。
・ 全体のライドハイトを、約50ミリ下げる
・ 高速走行時のドライバビリティを優先する
・ 走行抵抗の低減とタイヤライフの延命をはかる
これらの条件とともに、オーナーの嗜好と技量を考慮して調整数値を決定します。
このクルマが走行するステージは、公道 : サーキット = 9 : 1 程の割合。
公道走行の内訳は、高速道路 : 一般道 = 3 : 7 程と見るのが妥当です。
この割合を根拠に、高速走行を考慮してセッティングを変えるのは無意味と断じるのは間違いです。なぜなら、オーナーが実感する適切なアライメントの恩恵は、機構的にも精神的にもストレスがかかる局面ほど顕著に表れるからです。
FTECは、ボディやサスペンション等の構造的な健全性を確認したうえで、メーカー基準値に最大限の敬意を払い、新しい調整数値とその影響についての仮説をたて、実証実験を繰り返してセッティングを煮詰めていくことを理想としています。
■ アライメントデータ (メーカー基準値)
角度 下限 基準値 上限
前キャスター 2° 55′ 3° 40′ 4° 25′
左右キャスター公差 0° 30′
前キャンバー
-1° 40′
-0° 55′ -0° 10′
左右キャンバー公差 0° 30′
後キャンバー
-1° 35′
-1° 05′ -0° 35′
前トー(mm) 0.0
0.5 1.0
後トー(mm)
0.0
1.0 2.0
仮想キングピン角
15° 25′
転舵角 38° 00′(内側) 32° 00′(外側)
■ BNR32 のサスペンションに見られる特徴
・ 前より後ろのバネレートが高い
・ 前より後ろのスタビライザー径が太い
物理的な原則として、前にエンジンを積むクルマが直進状態でギャップを通過する場合、前より後ろのサスペンションを柔らかくしたほうが収束性が良くなります。
メーカーが原則に反したセッティングを施した理由は、直列6気筒エンジンとトランスミッション、E-TS(トルクスプリット4WD)用 湿式多板クラッチとトランスファーの全てを前軸よりにレイアウトした結果、後タイヤの限界を下げて回頭性と旋回安定性を確保する必要があったということでしょう。
これは、第2世代GT-R全車種に一貫してあてはまる特徴です。
FIA Gr.A 仕様 (1991年) |
その他、今回のクルマ特有の要因として、
・ S-HICAS(位相反転制御付 後輪操舵システム) を廃止し、完全固定化していること
・ 後デファレンシャルのフリクションプレートを組替え、ロック率を高めていること
これらに配慮し、新しい調整数値を決定しました。
■ アライメントデータ (FTEC設定値)
角度 下限 設定値 上限
前キャスター 2° 55′ 4° 12′ 4° 25′
左右キャスター公差 0° 11′ 0° 30′
前キャンバー -1° 40′ -2° 24′ -0° 10′
左右キャンバー公差 0° 30′
後キャンバー -1° 35′ -2° 07′ -0° 35′
前トー(mm) 0.0 0.1 1.0
後トー(mm) 0.0 2.4 2.0
※ 赤色 + アンダーラインの数値が、メーカー基準値を超えた設定値です。
高速高荷重の条件下における、微量な転舵への応答性を向上させる狙いで前トーとキャンバーを変更、スリップアングルの維持制御に有利でトラクションを掛けやすくする狙いで後トーとキャンバーを変更しています。
いずれの変更も、長い高速コーナーでスロットルオープンの時を耐えて待ち、踏みはじめたら絶対に戻さないオーナーのドライビングスタイルを前提にしています。
このクルマの歩んだ長い道のりの中では、もっと大胆かつ過激なセッティングを試したこともありました。直線の最高速で4速に入るか入らないかというサーキットに狙いを定めるなら、
・ 前キャスターを起こす (下限 2°55' に近づける)
・ 前トーをアウト側に開く
という方向の微調整を加えると、違和感のない回頭性の向上を実現できるでしょう。
一連のセッティングにおける調整数値の変更に、オーナーの嗜好と技量が関わっていることは既に述べたとおりです。したがって、この記事に紹介したセッティングは万人にあてはまる最適解ではありません。
たとえば、長い高速コーナーの保舵力と低中速のSベントを切りかえす際の回頭性は両立しないので、ひとつのコースに含まれる異なる特性のコーナーを、どのような運転操作で駆け抜けていくかオーナー毎に話し合って方向性を定めることが肝要であるとFTECは考えています。
なお、このクルマの車高とバネレートと減衰力の設定については、別の記事にまとめます。
[関連記事]→ スカイラインGT-Rのサスペンション整備
[関連動画]→ レスポンス360°VR試乗
※ 「Sタイヤ」とコメントが出ますが、実際はストリートラジアルを装着しています。