シボレー アストロ (1997年式) です。
今回は、エンジン冷却水の漏れを修理します。
コンクリート床の駐車場に2~3日停めておくと、直径5㎝程の水たまりができます。補充の履歴があるにもかかわらずリザーブタンク内のクーラントは基準線を下回っており、冷却水が減っていることは明らかです。さて、どこから水が漏れているのでしょうか?
まず、駐車場の床にできる水たまりとクルマとの位置関係を頭にいれます。
これで漏れたクーラントが滴になって落ちる場所に見当がつきますが、
・ 雨どいのように、遠くから伝わって滴下している可能性
・ 冷却ファンに煽られて、自然にはありえない経路を伝わっている可能性
等にも配慮することが肝要です。
現車の場合、エンジン前方のメンバーを伝わって滴下しています。また、水平に這っている配線のコルゲートチューブも、クーラントで濡れていることが分かります。
下から順に漏れたクーラントの痕跡をさかのぼっていく。
すると、赤い矢印の部分に、滴になったクーラントが。
同じ場所を、エンジン前方右下から見た図。
画面中央、下半分に写っているのはクランクプーリー。
上の図を、少し引いてみたところ。
どうやら漏れの原因は、ウォーターポンプの衰損のようです。
ウォーターポンプより上方に水漏れの痕跡がないことを確認し、交換に着手します。
アストロの場合、冷却水排出後の作業は、すべて上方からのアクセスに。
インテークエアダクト、エアクリーナーケース、MAFセンサー等を取り外し、ファンシュラウドを分割。シュラウドは、ファンカップリングとベルトトレーンの分解後に下側も取外す。
下側のファンシュラウドも外す理由は、後述します。
ウォーターポンプアッセンブリーが取外された、エンジン正面の図。
この写真はカメラをエンジンルーム内に突っ込んで撮影したものです。
実際の作業者目線では、向かって左の取付け部は陰になり、目視できません。
新旧ウォーターポンプの比較。
さて、整備の品質を左右する工程はここからです。
アストロに限らず、GM製エンジンの多くが採用しているウォーターポンプのこの設計。サーペンタインのベルトラインを保証しているのは、エンジン、ポンプ共にダイキャストに機械仕上げを施して得た「取付面の精度」です。
新品のウォーターポンプを組付けるにあたり、取付面の精度を確保すること。
この基本的要領を念入りに執り行うことで、別のトラブルを誘発したり、部品の寿命を縮めたりといったツマラナイ事態を遠ざけることができます。
下側のシュラウドを取外すのは、作業域を広く取り周囲の清掃を容易にするためです。
紙パッキンの残りをガスケットリムーバーで剥離。
同時に、ウォーターポンプ取付ボルトの状態を確認。
生産ラインで組んだきり一度もバラされていないようなら、大抵は再使用可能です。
このボルト達も、伸びや痩せ、崩れなどは皆無。仕上げて再使用することに。
1996年あたりの年式だと、まだメートルとインチが共存しています。
このボルトは、1インチ当たり16ピッチ。
両頭グラインダーに取り付けたステンワイヤーホイールでねじ山を清掃。
異物が除去されたこの段階で、再度ネジ山に腐食や崩れがないことを確認します。
ダイスでボルトのねじ山をさらに清掃。
抜くときは、どこにも引っ掛かりが無くダイスハンドルがスムースに回ること。
これで、ボルト側の準備が整いました。
次に、ボルトに使用したダイスと同じ仕様のタップを準備。
ガスケットリムーバーとスクレパーで平滑に仕上げた取付面(写真省略)。
先に用意したタップで、雌ネジ側を清掃します。
その後、エンジン側、ポンプ側の両面を脱脂して、新部品装着の準備完了です。
双方の仕上げ面がパッキンを介してピタリと吸い付くようにポンプを保持し、4本のボルトを均一に規定トルクまで締付ければ装着は完了。僅かでも感触に疑いを抱くようなら、躊躇わず勇気をもってやり直しましょう。
基本的に分解と逆の手順で組立てますが、その際、プーリーを清掃したり、ベアリングの流れを点検したり、作業箇所と直接関連のない箇所についても付帯作業として対処可能な範囲は点検を行うことが、いつまで快適に使えるかという結果に大きく影響するとFTECは信じています。
シボレー アストロのデビューは、1987年(昭和62年)。
最終モデルは、2005年(平成17年)です。その長いモデルライフが日本のバブル景気をすっぽりと包含するだけあって、単一車種としては類例のない莫大な輸入台数を記録しました。
FTECも一時は、朝から晩まで毎日アストロの修理をしていたくらいです。
クルマの程度の差は甚大で、玉石混交とはこのことかと痛感する日々でした。
デビュー時(1987年) |
最終モデル(2005年) |
一時の熱に浮かされて「乗ってみたかっただけの人」の中には、故障で嫌な思いをされた方もおいででしょう。しかし、大流行から20年、生産終了から10年を経て、狂瀾の熱から醒め今なお乗り続けたいと願う人々には、商用車ならではの部品供給の良さと莫大な生産台数によって、永く乗るための環境は決して悪くないという事実を是非、お伝えしておきたい。
「他人が何と言おうと、私はコレがいい」。
そういう人々の期待に応えるために、今日もFTECは部品を磨きつづけています。