埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

クライスラー300CのPCM診断

クライスラー300C 5.7L V8 (2006年式) です。
MIL (Malfunction Indicator Lamp)、チェックエンジンライト点灯で入庫しました。


スキャンツールで故障コードを消去しても、しばらく走行するとまた点いてしまいます。
走行中に体感できる不調はなく、強いて言うなら少しパワーが無いかな、という感じ。

ただし、時折アイドリング回転数が低くなり、ひどい場合はストールするとのこと。
300Cの場合、エンジンが止まるというのは余程深刻な事態です。

.

FTECのスキャンツールGenisysを接続して、故障コードを点検します。
検出されたDTC (Diagnostic Trouble Code)は、


 ・ P0300 Multiple Misfire Detected
 ・ P0032 O2 Sensor B1S1 Heater Circuit High
 ・ P0058 O2 Sensor B2S2 Heater Circuit High
 ・ P0038 O2 Sensor B1S2 Heater Circuit High
 ・ P0052 O2 Sensor B2S1 Heater Circuit High
 ・ P0710 Trans Temp Sensor Circuit Mulfunction
 ・ U0019 Controller Area Network B Bus Err.
 ・ B2105 Ignition Run / ST Control Circuit High
 ・ U1107 Engine Control Unit in Single Wire Mode


以上の9項目。

このうち、確認されたエンジン不調との直接的な因果関係があるのは、O2センサー関連の故障コードです。O2センサーの故障によってアイドリング不良となったのか、あるいはエンジンが止まるほどの燃焼状態の異常をO2センサーの故障として記録したのか?




データストリーミングを繰り返し、チェックエンジンが点灯する瞬間のO2センサー出力波形を捉えます。そのとき、全部で4本装着されているO2センサーのすべてが0.02~0.06Vの極めて鈍いフィードバックしかしていないことが判明。

しかし、これで「O2センサーのヒーター回路異常」の故障コードが出るとは解せません。

クライスラー300Cの自己診断装置は、厳格なOBDⅡ規格に則り

 ・ O2センサーの暖機が遅い
 ・ O2センサーの反応が鈍い
 ・ O2センサーの出力値が髙過ぎる、または低すぎる

これらの異常に、個別の故障コードを割り当てて監視をしています。

4系統のヒーター回路が同時に故障する。そんなことがあり得るのでしょうか?




配線図を参照し、O2センサーのヒーターコントロールがPCM (Powertrain Control Module) の独立したターミナルから直接4本のセンサーに分配されていることを確認。

そして、4本全てのO2センサーが正常な波形を示すことがあり、かつ不調時は4本すべてのO2センサーの波形が等しくフラットになるという事実。

これらを鑑みて、故障の原因はPCMである と判断しました。


取外したPCM

アップデート履歴を示すステッカーが見えます。

PCM交換後、正常で円滑なアイドリングの回復を確認し、走行テストを実施。燃調改善の効果が常用域のエンジンパワーですぐに体感できたことは、予想以上の収穫でした。

オンボードダイアグノーシス(自己診断装置)は、故障診断の効率を飛躍的に高めます。

しかし今回のケースのように診断を司る大元が故障する可能性が常に存在すること、その故障の影響がどこにどのように現れるかの見通しを立てるのも診断のスペシャリストたる整備士の役目と心得ること。機能の恩恵を受けるためにこれらの心構えが不可欠であるという事実は、あわせて覚えておいた方が良いでしょう。

サービスマニュアルのテスト手順に従うのは基本中の基本ですが、どの段階でも柔軟な発想で診断にあたる心構えが、想定外の故障原因を早期に見極める鍵になることがある。

今回の整備は、それを再認識させてくれる内容でした。





おまけの動画は、クライスラー300CのTVCM。上がアメリカ、下がイタリア版です。

クライスラー300Cは2011年以降、欧州市場でランチアテーマとしても販売されています。

同じクルマなのに期待されるイメージが全然違うところが興味深い。

あなたのクライスラーのイメージに近いのは、どちらでしょうか?