埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

BMWのオイル漏れ修理

BMW 525i (E60型 2004年式)です。
数種のオイル漏れ修理で入庫しました。
エンジンはM54、直列6気筒のガソリンです。


入庫時は、ボンネットフードを開けるとアンダーカバーに漏れたオイルの池が光って見え、排気系統に付着したオイルの焼ける異臭が鼻を突く、という状態でした。

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アンダーカバーを取外すと想像以上の惨状で、オイル漏れの発生源は複数個所に及び、漏れているオイルも一種類ではなさそうです。


これほど酷いオイル漏れだと、着手前にすべての発生源を特定して正確な見積りを立てるのは無理ですから、まず付帯作業が重複する系統毎に作業手順を洗い出していきます。

エンジンを降ろし、硬化したシールやパッキン、変形した樹脂製のカバー類を全て交換するというなら概算見積りが立ちますが、このクルマの場合漏れているのはエンジンオイルだけではなさそうなので、ご予算とも相談し症状の重い箇所から修理することに決めました。


まず最初にチェックしたのは、アクティブステアリングのギヤボックスからパワーステアリングオイルが漏れているか?ということです。ここの部分が全体の修理費用に与える影響は非常に大きく、やるとやらないとの差は正規ディーラーの見積りで60万円以上になります。

幸いなことに現車のラックは、上方から漏れて伝わってきたオイルにまみれているだけで、分解整備は必要ありませんでした。

エンジンオイルパンとクロスメンバーに到達したオイル漏れ。

ラバーホースの委縮・硬化部からの滲みだし。

ATFクーラーホースのカシメ部からのオイル漏れ。

アクティブステアリングラックのバンジョー部からのオイル漏れ。

左エンジンマウント下に到達したエンジンオイル漏れ。

左エンジンマウント周辺を後方下から観察。

左エンジンマウントを後方から観察。

傾斜搭載されたエンジンのオイルパン前端。

左ラックブーツ付近に到達したオイル漏れ。

インテークマニフォールド下部のPCVコネクター。

PCVチューブのコネクター部。

ATトランスミッション後方からのATF漏れ。

AT上部後方から漏れたATFが回り込んでいます。

AT右後方の集中コネクター。ここからもATFが漏れています。

排気システム(触媒)に到達したオイル漏れ。

触媒(= キャタライザー)上方から滴下したオイルが回り込んでいます。

シリンダーヘッド後部上方から触媒に滴下しています。

結局、漏れていたのは

・ エンジンオイル(BMW LL-01
・ パワーステアリングオイル(CHF11S
・ ATF(BMW 83220142516)

の三種類。

各系統ごとに、油圧と流量と流速をイメージしながら修理作業を進めます。

カウルトップ周辺を分解。
ATF (ZF 6HP26 用) 排出。
オイルパン脱着&パッキンキット交換。
ATハーネスコネクター分離・点検。
茶色のOリングより左側 (外側) に、オイル漏れの痕跡が見えます。

ZF 6HP26型 ATミッションは、このコネクタースリーブを介して車体側とユニット側が結線されます。コネクタースリーブのシールリングは、配線の通路とミッションケース内の基盤をATFから隔絶する役目を担っています。

シールリング背後のATFは、油量こそ多いものの油圧はかかっていません

つまり、ケースの外にATFが漏れだしているということは、ケース内のATFから隔絶されていなければならない箇所(今回の場合はミッションケース内の基盤)の状態確認も不可欠である、ということになります。

ミラーを使って基盤側にオイルが回っていないことを確認。
スリーブ挿入用に急造した治具。
10万キロ/10年走行後のオイルパン。

ZFは、ATF交換不要を謳っていますが、素直に実践する人は稀です。

経験上、10年以上も走りを楽しむなら定期的に交換することをお奨めします。
6HP26型 ATトランスミッションは専用オイルを要求するので注意が要ります。
BMW純正ATF、83 22 0 142 516 は0.1L毎の量り売りで、リッター5,000円超。



M-1375.4 規格を満たす社外品も存在しますが、使用の前にはディーラーにご相談を

ATオイルクーラーラインの嵌合部。
IN/OUT 共通のOリングを交換します。
ATオイルクーラーチューブ。
ラバーホースのカシメからオイル漏れのため、セットで交換。
洗浄したアンダーカバーと組付けを待つ部品群。

エンジンオイル漏れは、その量から推察しても、油圧がかかっている箇所から漏れていることが明らかでした。

ラジエターファンシュラウドを分解してサーペンタイン式のエンジン補機類ドライブベルトを取外し、エンジン左側の補機類を降ろすとエンジンブロックのエクステンダーが現れます。

アルミダイキャスト製のブロックは、オルタネーター、パワーステアリングポンプ、ベルトテンショナーのブラケットと、エンジンオイルフィルターのエレメントベースを兼ねる設計です。

エレメントケースはエンジンオイルラインのなかでも高い油圧がかかる箇所なので、ブロックのオイルシールが萎縮硬化すると忽ち四方八方に漏れだします。

ベルトトレーンと補機類を脱着。
豪快に漏れだしています。
ベルトテンショナーとパワステポンプのブラケットを兼ねています。
ブロック面のオイルシール。まったく柔軟性がありません。

ブローバイガスを冷却してエンジンオイルパンに戻すチューブにも漏れの症状がありました。一旦ガス状になったエンジンオイルは空気中の水分を多く含むので、漏れたオイルを子細に観察すればPCV系統の不具合を発見することも可能です。

新旧PCVチューブ。

最後に、カムカバーパッキンを交換します。
エンジン上部の配線配管類を除去し、6個のイグニッションコイルを脱着のついでに点検。

カバー裏側。オイル管理の計画を再考する必要がありそうです。
エキマニの遮熱板に、漏れたオイルが焼付いた痕跡が。
カムカバーは、熱変形があれば再使用不可。
新品のシールグロメットと、洗浄点検したボルトナット。

オイル漏れの発生源周辺は、後で清掃するのが困難な場合も多いので、組立前の清掃を入念に行います。今回の場合は特に、最初の診断時に高圧洗浄をしたうえでどこから漏れ出しているか調べたので、汚れが残っていた箇所は組立後に清掃できないとみて間違いありません。



外観の綺麗さと修理の品質は、本質的には無関係ですが、気分はだいぶ違います。
前向きな気持ちで接すればクルマの異変に敏感になれると、FTECは信じています。

ちなみにこちらがBefore。

おまけの動画は、E60型 BMW 5シリーズのプロモーションビデオ。
デビュー当時こそ代々受け継がれてきた外観上の特徴をバッサリと切り捨てた革新的なエクステリアが物議を醸しましたが、新境地を拓いたことによって保守的な選択をした直接のライバルメーカーからシェアを奪い取った力量は、BMWの面目躍如といえるでしょう。




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