埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

メルセデスベンツM117の整備 (1/2)

メルセデスベンツ 560SEL (W126)のエンジン、M117です。
エンジン不調で、オーバーホールが必要か診てほしいとのこと。

主な症状は、

・ 始動しないことがある
・ アイドル回転数が不整である
・ 走行中エンジンがストールする
・ フルスロットルでも回転が上がらない
・ 排気中に多量の黒煙が含まれている

など。


ユーザーのお話を伺うと、以前の整備工場からは、見捨てられてしまったようです。

途中でさじを投げられたクルマは、自然に不調となったクルマより厄介なのが常です。
今回は、懇意にしているお客様からのご紹介だったので安心してお引き受けできました。

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W126系の560SELといえば、80年代におけるメルセデスベンツの旗艦です。

M117型エンジンは、1969年に 4.5リッター 165kW(225馬力)でデビューしたM116型をもとに、環境保護に関する厳しい条件を満たしながら排気量を次第に増大させ、1987年には 5.6リッター 220kW(300馬力)に到達。その後、1991年のW140系デビューを節目に、第一線を退きました。


プライマリーチェックで判明した事実は以下の通りです。

・ マルチプレクサで ON/OFF比の出力が計れない。
・ 燃料圧力の異常。レストプレッシャーが保てない。
・ インテークマニフォールドの機密不良。
・ EHAの作動信号不良。

など。

その他、完全暖気状態でスパークプラグの点検がてら、コンプレッションを測定。
排出ガスレベルはテスターで測定するまでもなく、オーバーリッチの状態です。


M117の中でも、この型はEGRの還流口の配置が悪く、スロットルボディが汚れ易い傾向があります。


ガソリンで希釈されたオイルが、インテークマニフォールド内に溜まっています。


経年劣化したまま放置された箇所が随所に見られて、閉口させられました。





冷却水の管理も芳しくありません。
見えるところは清掃しますが、エンジン内の冷却水路も心配です。



古いガスケットに液体パッキンを縫って組んだ痕さえありました。



O2センサーを見て絶句。バッサリやられちゃってます。
大昔のチューニングカーじゃあるまいし、いくらなんでも非道すぎる。

これではマルチプレクサからもEHAからも正規の信号が得られなくて当然。
こんな状態でも、残ったリソースでエンジンをかけるKジェトロニックがいとおしく思えます。


エンジン以外にも、あちこちに放置されて久しいダメージが見て取れます。


このようなコンディションのクルマを見ると、暗澹とした気分になります。
看過せない筈の症状を放置し、

「古いベンツなんてこんなもの」

などといって憚らないメカニックが、世の中にはまだいるという事の証左ですから。


この段階でオーナーを交え、根本的な整備計画を練り直しました。

オーバーホール云々の前段階として、エンジン本体を車載したまま、明らかな不具合を手直しし、その後改めて試験運転をすることに。

FTECとしては、信頼を得るための挑戦のつもりで整備に当たることに決めました。