埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

CLKのサイドワイヤークランプ交換

メルセデスベンツ CLK350 アバンギャルド(2009年式)です。

「床下から何かが擦れるような音がする」という症状で入庫しました。
同じ症状で入庫した同型モデルが複数あり、これはC209系特有の症状と言えそうです。


走り出してすぐに「シュッ、シュッ」と断続的な音が出始め、40㎞/hになった頃にはかなり耳障りな「ゴーッ」という異音になり、微振動をともなって車内に響きます。

走行距離は3年間で25,000㎞程度。
これはメルセデスの品質を誤解されかねない、由々しき事態です。


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走行テストで確認すると、この異音には次のような特徴が有ることに気づきます。

・ 床面パネルとダッシュボード前面パネルとに、音と振動が伝わっている
・ 音の周期は速度に比例して変化し、ATが何速にシフトしても関係ない
・ タイヤとホイールの回転よりも短い周期で異音が出ている
・ 前進と後進で音の種類がまったく違う

など。

上記の特徴からプロペラシャフト周りの点検が必要と判断し、排気装置系統の遮熱板等を取外してみると、故障の原因と結果をいとも簡単に確認することができました。


サイドブレーキのワイヤーが、プロペラシャフトに干渉しています。


この状況ならば、前進と後退で音質が変わるのも頷けます。


何故、サイドブレーキワイヤーがプロペラシャフトに接触したのか?
それは、サイドブレーキワイヤーをフロアに固定するクランプが破損したからです。


TUCKER P1168

MB P/N 000 995 57 20

FTECで、同型車の同じ故障を何度も修理していることは先に述べたとおりです。もうひとつの見逃せない事実として、それらのクルマはすべて右ハンドルだったことが挙げられます。

何故、右ハンドルのCLKだけがこの故障に見舞われるのか?
FTECは、次のように推察しています。

まず、下の写真はメルセデスベンツが新車を組み立てた時と同じクランプ方法です。

非常に硬く、急には曲げられないサイドワイヤーを、バールでこじってようやくクランプすることができます。赤い矢印の部分が問題のクランプで、サイドワイヤーは赤い線の通り、問題のクランプ部分で急に曲率が変わるように固定されています。

これって、おかしくないですか?


そもそも、素手で取り付けられないほどの苦しいカーブを描いてサイドワイヤーを固定する必要はありません。そして、このクランプが苦しい取付けのストレスに耐えるように設計されているとも思えません。問題の箇所以外のクランプは、ワイヤーの重量を支える役目がほとんどで、真っ直ぐに戻ろうとする硬いワイヤーを曲げて固定する役目は担っていないのです。

そこで、FTECでは新しいクランプの向きを約180°反転させることにしました。

そうすることによって、赤い線の形状に固定されていたワイヤーが、オレンジ色の線の形状に固定されるようになります。


たったこれだけの事で、破損したクランプにかかるストレスが大幅に減少します。
サイドワイヤーは、フロアトンネル上面に沿って自然なカーブを描いて固定されます。



この故障が右ハンドルのクルマにしか起こらない理由は、以下のように推察します。

フロアトンネル内におけるサイドブレーキワイヤーの取り回しは、基本的に左ハンドルも右ハンドルも共通である。そして、サイドブレーキを作動させるペダルも同じく一番左に配置される。故に、ペダルとフロアトンネルの距離は左ハンドルより右ハンドルの方が近く、右ハンドルのワイヤーは急カーブを描かざるを得ない。これを共通部品でクランプしたので、強い曲率変化のストレスにさらされる右ハンドルのクランプだけが破損する。

いかがでしょう?

FTECは、この判断に確信を持っています。
少なくとも、今後の3年間あるいは25,000㎞を経ても、再び破損することは無いでしょう。




FTECの提言する「正しい整備」とは、自動車の設計を尊重することを大前提とするものです。この記事にはFTECの独断が含まれていますが、

「正当な推察に基づいて採るべき手法を変えることは、正しい整備の理念に適う」

という思想を、少しでもお感じいただければ幸いに存じます。