へダース以後のマフラーを製作します。
第二世代のブロンコは、1978年と79年の、たった二年しか生産されなかったモデルです。
マスキー法と第二次オイルショックに多大な影響を受け、この1979年式の排出ガス浄化システムには、触媒(= キャタライザー)と点火時期調整モジュールを含め、乗用車とまったく同じものが奢られています。
V型8気筒エンジンの排気ポートからHEDMANのへダース(= エキゾーストマニフォールド)を経てフロア下に導かれた排気ガスを、MAGNAFLOWのキャタライザー(三元触媒)で浄化し、FLOWMASTERのサイレンサー(= レゾネータ)で制音します。
パワートレインのスペースとの兼ね合いで、センターピースの主要構造物は左右バンクとも一旦右に寄せるレイアウトになります。迂回する左バンクの流路だけが長くならないように、キャタライザー入口で左右のパイプを交差させ、右バンクの排気を左に、左バンクの排気を右に出す構想です。
使用するパイプはφ60.5 t=1.6 のアルスター電縫管。
直管の他に、30~90°のベンドパイプを用意。
フランジは4箇所、ハンガーは最大9箇所を想定して製作に備えます。
最初に、左右バンクの排気が帯びている波動を同調させるHパイプを製作。
狙い通りの性能を出すためには、メインと同径のパイプで左右を繋ぐ必要があります。
溶接後のパイプ内部にバリや目違いが残ると、乱流の発生によって酷い雑音を生じます。従ってHパイプによるイコライザー製作の段取りは、細心の注意を要する作業になります。
今回は、TIG熔接で仮組みしてMIG熔接で組み上げます。
本溶接まで全部TIGで、バックシールドして裏波を出して・・・となると、コストがうなぎ上りになってしまいますから。
へダースを組むと集合部の直後、真正面にクロスメンバーがくることが判明しました。
汎用のベンドパイプでこれを迂回させるのは無理なので、迎角10°の切曲げで対処します。
左右独立のキャタライザーとレゾネータ(= サイレンサー)は、最も重量がかさむ箇所であること、レゾネーターの無用な共振を抑えることを考慮して、ひとつの剛体として溶接で組み立てます。
ちなみに、フローマスターのレゾネータは、このような構造をしています。
通常のサイレンサーと違い、内部に吸音材を持たないことが特徴です。
車体側のステーは、充分な剛性を備えたものを新規に製作します。
フレームの主構造から、サービスホールを利用してボルトナットで装着できる設計になっています。
ラバーハンガーの穴径は、φ11。これに挿すピン径は、φ11.3 です。
左右バンクのキャタライザーは、二重の遮熱板が外側に向き、互いの熱を有効利用しやすいよう接近させて配置します。これは、このユニットをトランスミッションとフレームとの隙間に安全に納めることにも貢献しています。
マフラーハンガーのステーも、すべて新規に製作します。
ハンガーのラバーがマフラーの熱で損なわれないように、かつ走行中の振動でマフラーが車体に接触しないように配慮して位置を決定します。
Hパイプ式イコライザーと左右バンクを交差させるパイプを溶接して、センターピースが完成しました。全体をジンクコートした上で、耐熱塗料で塗装します。
メインフレームに装着した車体側のステー。最初から開いているサービスホールに無加工で装着できます。表面の仕上げはマフラーと同じ。
完成したセンターピースを車体に装着してエンジンを始動。
音、熱、振動、その他、考え得る限りの要素について、不具合がないことを確認します。
比較のために、以前の工程と同じ位置から録音した動画はこちら。
録音のしきい値が自動調整される機材の都合上、音量の比較はできません。
それでも音質の違いは聞き分けて頂けるのではないかと思います。
これから製作する左右のテールピースは、オーナー立会いのもと出口位置を決定し、燃料タンクやギヤキャリア、リーフスプリングを避けて取り回しを決定します。
第二世代までのブロンコは、本格的なクロスカントリービーグルです。
サスペンションのトラベルストロークは、後世に出現するSUVの常識より深くて急です。
古いマフラーは、サスペンションへの配慮が足らなかったせいで、プロペラシャフトと接触した跡がありました。新しいマフラーのテールピースはその点にも十分配慮し、どこにも干渉せず必要最低限の曲げで排気を出口に導くように設計します。
ギヤキャリア(= ホーシング)を越える箇所に、再び切曲げを使いました。
この方法は、「ひねりながら曲げる」という、汎用のベンドパイプでは実現不可能な取り回しを可能にする美点があります。
その一方で、同じ曲げ半径のベンドパイプと比較すると、角部で排気の流れがよどみやすいという欠点もあります。断面積はベンドパイプより切曲げの方が大きくなるので流量が減る心配はないのですが、排気音に影響がでると対策が厄介です。
従って、切曲げには基本的にTIG熔接を用いて迎角は10°以下とし、出口付近では極力使わないよう心掛けてパイプの取回しを決定します。
サスペンションがどのような作動状態になっても、また、フルブレーキングやバンプ越えで車体がどれほど揺さぶられても、必要にして充分なクリアランスを確保することが絶対条件です。
かくして、φ60.5 のフルデュアルマフラーが完成しました。
この仕様は、エンジンパワーが二倍になっても十分対応できる容量をもっています。
クルマ全体の重量バランスとしては、ブロンコに限らずどんなクルマも運転席側が重いので、センターピースを運転席とは逆側の右に寄せる今回のレイアウトは好都合と言えます。
完成したマフラーの音は、オーナーから満点のご評価を頂きました。
安価な機材での録音ですが、ご興味のある方にお聞きいただければ幸いです。
連続3回にわたって紹介した、1979年式 フォード ブロンコ の ワンオフマフラー製作。
ご覧になって、いかがでしたか?
いちいち理屈がクド過ぎる、と思われた人もいるでしょう。
しかし、是非お伝えしておきたいのは、クルマの改造は本質的に危険であるということです。
自動車メーカーが大量生産したクルマでさえリコールが発生するのですから、オーナーが自分の意思で改造したクルマなどには、何が起きても不思議ではありません。
換言すれば、「改造車を乗りこなす」ということは、
リスクを引き受ける覚悟がある
ということです。
かつては、これこそクドいと揶揄される「言うまでもないこと」だったのですが、最近は甘い考えでスタイルだけを模倣したがる人も増えているようです。
いかに経験豊富な自動車整備士が作業にあたろうとも、数台限りのクルマを大量生産のクルマと同じ信頼性にもっていけるはずはありません。
日々の点検整備を怠らず、不具合を発見するたびに「手間」と「時間」と「費用」とを惜しみなく投じ、最善の対策を施してゆく。気の遠くなるような作業を積み重ねるうちに、オーナーの生き様が様式美となって現れる。それこそが人を惹きつける格好良さの本質だろうと、FTECは思います。
このブロンコは、マフラー完成の翌週に所沢自動車検査登録事務所に持ち込んで継続検査を受けました。NALTEC(= 独立行政法人 自動車技術総合機構)の協力を仰ぎ、適用法規の念入りな確認を実施した甲斐あって、スムースに合格させることができました。
ご支援、ご協力いただいたすべての方々に、心より感謝申し上げます。