BOSCH KEジェトロニックシステムの、フューエルディストリビューターです。
この部品は、メーカーによって分解不可(No service)と定められています。
従って、以下の内容は、正しい整備の範疇を超えたものです。
KEジェトロニックとは、原型の機械式燃料噴射装置(Kジェトロニック)にフィードバック制御を追加したものです。燃焼改善により排気量あたりの出力を向上させ、かつ環境負荷を低下させるというコンセプトが共感を呼び、1990年代初頭までのヨーロッパを中心に、広範な車種に用いられました。
主な採用メーカーは、メルセデスベンツ、BMW、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲン、フェラーリ、ランチア、フィアット、サーブ、ボルボなど。
アッセンブリー交換しか許されていない部品であるにもかかわらず、分解と調整に踏み切った理由は、「内部で何が起きたか」について、確信が持てたからです。
理由を補足すると、このクルマはパワートレインの細部までFTECで整備していたため、エンジン本体はもとより制御系統すべての状態を他のクルマより細かく把握しており、それらの条件と不調の症状とを照らし合わせた結果、分解と調整によって改善が見込めるという例外的な判断に至った、というわけです。
従って、この作業が良好な結果を得たからといって、「故障したフューエルディストリビューターはアッセンブリー交換する」という原則は、揺るがないと考えます。
分解するフューエルディストリビューターは、メルセデスベンツのCIS-E、8気筒用です。
通常のプライマリーチェックに加え、冷間時と温間時のコントロールプレッシャーを測定し、エアフローメーターとフューエルディストリビューターの機能を切りわけていきます。
スイッチやポテンショメーターが完全であることも確認する。 |
過去に分解した形跡がないことを確認する。 |
ローラーフォロアに破損や損耗が無いかを確認する。 |
事前の予想通りの状態です。 |
若干の損耗が見て取れます。 |
パッセージをケミカル洗浄。ノズルの先端は丸めておくこと。 |
ストレナー。ケミカル洗浄の後に低圧でエアブロー。 |
指紋が必要なときはグローブをしません。 |
清掃による改善を確信した瞬間。 |
スプリングに折損が無かったことは救いです。 |
表面がドライなので組み付けには細心の注意が必要。 |
潤滑なしであることを良く頭に入れて単体を見直す。 |
ローラーフォロアとの間隔をエアフローメーター側で調整。 |
ラインおよびコントロールプレッシャーを条件を変えて測定。 |
冷間と温間でアイドル調整した後、レストプレッシャーを確認。 |
繰り返し申し上げますが、この作業はいわば「禁じ手」ですので、装着後の調整もマニュアル通りの内容では不十分と言わざるを得ません。また、ダイヤフラムとピストンに施した処置については職責上の理由によって封印させていただきました。
なお、BOSCHからのインナーパーツ供給が元々無いのですから、オーバーホールの受付などもできかねますので、悪しからずご了承ください。
KEジェトロニックの修理は、まず電気的な動作環境と機械的な調整が正しいことをチェックするのが先決です。諸条件に不備が無く、フューエルディストリビューターの不良によって起こり得る症状が解消しない場合は、潔くアッセンブリー交換してください。
写真を見て「なぜアッセンブリー交換しか選択肢が無いのか」、理解できた方は賢明です。
まあ、見るなと言われれば見たくなるのも、男の性というものですね。