埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ユーコンXLデナリのドアミラー変更

GMC ユーコン XLデナリ(2016年式)です。
ドアミラーの仕様変更で入庫しました。


同年式の キャデラック エスカレード のミラーを移植します。

この変更には、

・鏡面の上下寸法が増すことによる後方視界の拡大
・ミラーカバー内蔵のターンシグナルライトによる保安基準への適合

という重要な成果を、美しい外観と同時に入手できるメリットがあります。

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GMCユーコンXLは、全長 5,700mm ホイールベース 3,302mm 全幅 2,045mm 車両総重量 3t の、7人乗りフルサイズSUV。



最新のアクティブフュエルマネージメント Ecotech 3 が制御する 6,200㏄ のV8エンジンは 313kW(420馬力)の出力と628Nm(64kg-m)のトルクを発生し、8速ATとフルオート オンデマンドの2速トランスファーを介した全輪駆動によって、いかなる状況でも交通の流れをリードできる、強力な運動性能を備えています。


特に「デナリ」はGMCのSUVシリーズ最高峰に与えられる称号であり、かつてはユーコンの最高グレードだけにその名が冠されていました。


オーナーと共にGMCの公式サイトで装備と仕様を仔細に調べ、満を持しての新車購入。
唯一気になったのが、ボトムグレードと共通のこのミラーでした。



視界にも機能にも不満は無いものの、ありとあらゆる最新デバイスで満艦飾のデナリ用としては、少しだけ物足りない気もします。



なにより、鏡面のターンシグナルライトは真横から点滅が視認できないため、日本の道路運送車両法の保安基準に適合させるためには、前フェンダーにサイドマーカーを追加しなければなりません。


そこでオーナーが目をとめたのが、キャデラック エスカレードのミラーです。

2016年のフェイスリフトで刷新されたこのミラーなら、カバー側にLEDターンシグナルライトが装備されているため、このまま保安基準に適合します。




早速、エスカレードの装備をキャデラックの公式サイトで確認。
カスタマー向けの情報では、共用部品が多く開発思想に一貫性があることが解るくらい。

2017 ESCALADE ESV 4WD PLATINUM

次に、パーツリストのイラストから部品構成を調査。
この種の情報は、首尾よく移植できたあとにも利用可能な資料となります。


ユーコンとエスカレード、双方の比較ができるメーカー純正のサービスマニュアルを手配。現車の年式より一年古いものですが、これが最新版です。

仲介業者の話によると、FTECの要請で初めて製本されたという代物。本国の正規ディーラーは当然オンラインネットワークで結ばれているから、紙の本は不要なのでしょう。

他メーカーはDVDでpdfを閲覧する仕組みのものを市販しているのですが、まさか紙媒体とは予想外でした。数年待てば、これもデータ化されたものが出回るのでしょうけど…。


今回は新車ベースの改造なので、昔と同じように紙のマニュアルを辿って確認するのが唯一確実な方法です。これによって、すべての機能を活かしたままエスカレードのミラーを移植する目途が立ちました。



ミラーの構造からは盗難防止の思想も伺えます。


ユーコンとエスカレード、双方のドアミラーに含まれる主な機能は以下の通り。

・ミラーコントロール&メモリー
・ミラーフォールディング
・LEDターンシグナルインジケータ
・LEDカーテシーライト
・クロストラフィックアラートインジケータ
・自動防眩ディマー
・防曇ヒーター
・ブラインドスポットモニター用カメラ

日本の道路運送車両法の保安基準に適合させるため、カメラは別のものに組替えます。それにより、直前直右鏡を上回る範囲の視界をモニターで確認できるようになり、フェンダー付近に不格好なミラーを追加する必要はなくなります。


情報が精査できたら、フィッティングに取り掛かりましょう。

ユーコンのミラーを取外して分解し、エスカレードのミラーに移植するブラインドスポットモニター用のカメラを摘出します。



塗装も内装も非常にデリケート。養生は厳重に、作業は慎重に。



カバーとエレメントを外すと、ミラー内のワイヤーハーネスにアクセスできます。



ミラー下面に、カメラとLEDカーテシーライトが仕込まれています。



アルミダイキャストの構造体から、2枚重ねのフィラーを取外します。

取付部の形状に確実にフィットさせるために、ドア側の取付面に密着する方のフィラーは、ユーコン用をエスカレード用ミラーに組替えて再使用します。


エスカレード用ミラー。こちらも当然分解して、前工程で取外したカメラを移植します。





ミラー内のワイヤーハーネスは、殊更慎重に取り扱わねばなりません。

ミラーフォールディング毎に屈曲させられることを念頭に置き、純正と社外双方の配線が末永く健全に保たれるように取り回して確実に固定します。




プリント基板の端子に、直接平ギボシが挿入されています。

防水用のシーラントで固まっていたのでカミソリで慎重に切り離し、組付け時には純正と同じ透明のRTVシリコンシーラントを塗布しました。



ドア側から順に、

1.ユーコン用フィラー
2.エスカレード用フィラー
3.エスカレード用ドアミラーAss'y

という順序で仮組み。
ベース部分とメッキモールの納まりが良く、とても自然に見えます。


今回の作業の主役はドアミラーですが、内装の調整も行いました。

センターコンソールやオーバーヘッドコンソールは、ナビゲーションやオーディオシステムを日本仕様に変更するために分解脱着されがちなところです。

改造のために取外したトリムは、新車の品質に相応しい状態で取付けねばなりません。




オーバーヘッドコンソールは、日本で装着するVICSやETC等の部品を内包しています。




「アメ車は単純だから」と口にする古い人が、日本にはまだたくさんいます。

それは日本車のコマーシャルが刷り込んだ虚構でしかなく、世界標準の自動車技術の大半はアメリカで生まれ育っているのが現実です。


勢いにまかせてあちこち抉って、この美しい内装が維持できるでしょうか?

付けて動かすだけなら誰にでもできます。正規の資料に基づいて作業にあたれば、綺麗で長持ちするセットアップができるとFTECは信じています。


仮組みのあと、塗装と磨きを経て本組付けを待つエスカレード用ドアミラー。
色はもちろん、ユーコン純正のオニキスブラック。


ワイヤーハーネスは、極力純正のルートを通して確実に固定します。


最後に鏡面を露わにして全機能の作動テストを実施。
防水の完全性を検証して、完成です。




かくして、ユーコンXLデナリにエスカレードESVプラチナムのドアミラーが移植されました。押し出しの強い外観にはむしろこのミラーの方が合っているくらいで、新車時にオプションで選べてもいいのでは?と思えるくらい自然です。


よく似たアングルの写真で比較。

▲ エスカレードミラー

▲ 純正ミラー

▲ 純正ミラー

▲ エスカレードミラー

あまりにも自然にフィットしすぎて、諸々の手間をまったく感じさせません。

失った機能は何ひとつなく、日本仕様のブラインドスポットモニターとミラーウインカーも、当初の目論見通りに機能させることができました。



ユーコンにエスカレードのミラーをスワップする企画、いかがだったでしょうか。

完成した姿をあらためて見て、このクルマの美点である伸びやかな外観を損なわずに保安基準に適合させる、最適な選択肢を提案できたと自負しています。

YUKON DENALI with ESCALADE Mirror

All function activated


今回の付録動画には、GMCのプロモーションビデオを3本選びました。

最初の動画は、ユーコンのグレードによる装備の違いを紹介したもの。
デナリには最新のコンフォート&セーフティデバイスが満載されていることが解かります。

(引用元)→ https://youtu.be/Qsyu9BH_d78



2本目の動画は、100年前(1916年式)のGMCトラック、モデル30の紹介です。

GMCの信頼性がいかにして構築されたかを雄弁に語るヘリテイジに自動車メーカーが進んで敬意を表すことで、GMCブランドの格を押し上げていることが分かります。

このクルマで北米大陸を横断して再びホームタウンまで戻ってくるのは、100年後の今を生きる我々には想像を絶する冒険だったに違いありません。





3本目の動画は、2016年に製作されたGMCの企業広告です。
100年の時を経て最新のGMCに受け継がれる血脈を簡潔に表しています。




アメリカンSUVの歴史と伝統に、敬意を。

FTECコーポレーションは、選ばれて慈しまれるクルマとそのオーナーが、誇り高く末永く安全に走り続けることを願ってやみません。