埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

カプチーノのフロア補強 2/2

スズキ カプチーノ(走行距離 104,000㎞)です。
フロアパネルに補強材を取付けて車体剛性の向上を図ります。


前回策定したコンセプトに基づき、鋼材を溶接で組み立てて補強材を製作します。
完成した補強材は40本のボルトで締結し、取外すことが可能な形状になります。

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溶接して製作した不等辺山形鋼の材料は、リヤメンバー前方に取付けます。


ここにはM12の細目ボルトが4本使われており、極めて強固に結合されています。


ブラケットの材厚は、3.0mmです。


このような形状に整えました。穴まわりは塗装直前にC面を取ります。


4つのブラケットを、リヤメンバー前方のM12細目ボルトで仮止めした様子。


4つのブラケットを整列させ、角パイプに溶接します。全体の形状が決まるまで、最低限の組立て溶接(タック溶接)で組んでいきます。


続いて、サイドシル付近に装着する縦貫材を製作します。

補強材は、最終的に真下に取外せるように製作します。
まずは、フロア形状の突起にあたる部分を切除。






装着状態で垂直になる辺の前後端を、45°で切取ります。


この材料の厚さは4㎜。今回製作する補強材では、いちばん堅牢な部分になります。


こちらは、前サスペンションのロアアーム前方を結合するフレーム部分。

純正は、丸パイプの下面を潰してコの字型のプレートを点付け溶接した構造。
クロスさせた補強材の連結部分を確保するのに邪魔なため、プレートを削除。




サイドシルに並行して取付ける縦貫材は、左右合計16本のM10キャップスクリューで結合します。フランジボルトを溶接した3㎜厚の平鋼で純正のフロアパネルを挟み、均一に締め上げる仕組みです。









サイドシル下に剛結された縦貫材。
じつはこの構造にも、過去の製作で得た改善策が盛り込まれています。

現車は、純正然とした車高とφ50.8 までのエキゾーストパイプで運用することが決まっています。過去に製作したものはφ60.5 の太いエキゾーストパイプを収める必要があったうえ、サイドシル下にLアングルではなく角パイプを使用したため横方向の張り出しが多く、ロードクリアランスに神経をつかう仕様でした。

トレッドの狭い軽自動車は路面のアンジュレーションに敏感なので、こうした改善が高める利便性は普通車以上。オーナーにとってはこれが初めての補強なのでその差が評価されることはありませんが、地味な工夫が実現する普通の使い心地もFTECコーポレーションの個性であると自負しています。


続いて、補強材最前端の車体側連結部を製作します。

写真上側、3本のM10キャップスクリューは、車輌の後方から前方に向かって締め込みます。手前側に見える3本のプラスねじを下から上に向かって締め込む、とも言えますね。


純正のコの字型プレートを削除した場所に、補強材の最前端部を締付けた状態で車体側取付部を溶接。熱が退けるまで拘束を保ちます。

キャップスクリューの面は垂直なので、ボルト6本を解放すれば補強材最前端部は真下に引き抜くことができます

画面手前が車輌の後方。上方の黒い膨らみは、エンジンオイルパンですね。


次に、フロアトンネル下面を閉じる純正アルミプレートの形状に合わせて、Lアングルを加工します。純正ボルトM8に対し、φ8.5の穴で装着できれば最善です。そのためには、仮組みの段階ではφ8.0を堅守する心構えが必要です。



形状が整ったら、すべてのボルトを規定トルクで本締めして溶接に備えます。
これまでの作業で、

・リヤメンバー前方4か所のブラケット
・サイドシルに並行する縦貫材
・最前端の連結部
・フロアトンネル下面に沿ったブラケット

の準備が整いました。


計画通りの形状になるよう、角パイプを溶接して組み立てます。



熱を逃がしながらタック溶接で組んでいきます。
最終的には全周溶接をして完全に一体化します。




角パイプと同じ幅のマスキングテープは、経路の微妙な調整に重宝します。







必要最低限のタック溶接で組立てを行なうことは、先述した通りです。
取外すことによって寸法や形状に狂いが生じないよう、徐々に溶接線を伸ばしていきます

この写真では、フロントメンバー後方2箇所にブラケットが取付けられ、それらを溶接する角パイプの位置と角度を、マスキングテープで検討していることが分かります。


最後の角パイプを溶接し、熱が退けたら補強材を車体から取り外して本溶接。すべての接合部を全周溶接して隙間なく仕上げます

フロントメンバー後方2箇所のブラケットは、本溶接後に再度車体にセットして、いちばん最後に溶接します。これは、本溶接による熱歪みの影響でブラケットの穴径を拡大せずに済ませるための措置です。




今回製作した補強材を、カプチーノのフロアに取付けるためのボルトナット。

トレイの下側が車輌の前方になります。ここにはフロントメンバー後方の2本が含まれていないので、実際には合計40本で締め付けることが分かります。



本溶接が終わった補強材を、カプチーノの床に再度取付けます。

まだ補強材はむき出しの鋼。全ボルトを本締めしてから、最後に残しておいたフロントメンバー後方のブラケットを、一気に本溶接します。


熱が退けたらまた取外し、補強材の穴まわりにC面を取ります。この際、車体側のネジ山には全部タップ掛けをすると良いでしょう。

フロアトンネル下面のM8ボルト10本はスズキ純正部品を流用するので、後日新品に換えるようオーナーに進言しました。


塗装を済ませて車体に装着した、カプチーノ専用 ワンオフ フロア補強ブレースの全景。

Bracing for Suzuki Cappuccino

This reinforcement is attached to the body with 40 bolts.

エンジンアンダーカバーを装着した状態。

One-off brace for Suzuki Cappuccino manufactured by FTEC

写真左側が車輌の前方。この補強は真っすぐ下に向かって取外せます。


最低地上高は、角パイプの寸法分19㎜下がります。同じ車高にセットしたとき、ロードクリアランスが19㎜減る、ということですね。


補強材を剛結したカプチーノをテスト走行に連れ出すと、歩道から車道に出る段差でも違いを体感できます。現車には1.5wayの機械式LSDが組まれているので、後方に伸ばした補強の恩恵を、オープンデフのカプチーノより多く受けられるでしょう。


余談ですが、現車が装着していたタイヤとホイールの傑出した性能には驚かされました。
補強前の試乗時も好印象でしたが、補強後はさらに美点が際立ちます。

初代インテグラ type R の純正ホイールに ピレリ チントゥラートP1 が組まれており、軽量なカプチーノの小さな接地面圧と素晴らしく良く調和しています。

生産終了から20年を経てベストマッチと確信できるセットが更新されるとは、FTECにとって望外の出来事でした。

Cinturato P1 165/55R-15 75V on Type R's 6.0J Rim

こうして完成した補強済みのカプチーノ。無事オーナーにお引渡しできました。
後日、高速道路で帰宅したオーナーからメールで感激の声が届き、大変嬉しく思いました。

このカプチーノは、オーナーの地元で腐食箇所の鈑金修理をすることが決まっています。
仕上がったら、さらに一段階上の感触を味わわせてくれるに違いありません。

どんなクルマに仕上がるか、想像するだけでも楽しくなってきますね。


おまけの動画は、イギリスの チャンネル5 による、カプチーノを含む3台の特集番組。
中古車としての価格相場を添えて、それぞれの美点を紹介しています。




日本では、古いクルマを維持管理していくには厳しい社会情勢が続いています。
いつまで続くか誰にも分かりませんし、もしかしたら永遠に続くかもしれません。

FTECコーポレーションは、古いクルマを健全な状態に保つことで、そのクルマでしか味わえない感動が、現オーナーのみならず次世代にも受け継がれることを願っています。