埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

トゥインゴのフロア補強

ルノー トゥインゴ ゴルディーニ RS(2011-) です。
シャシー下まわりの補強を承りました。


現車はルーフをカットしてベバスト製のキャンバストップを装着しています。オーナーが手に入れた他車用の補強ブレースを加工して、フロア側を補強します。


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持ち込まれた補強ブレースは、1.2リッターSOHCターボエンジン搭載のクープ・デ・ザルプ用。ゴルディーニRSは、1.6リッターDOHC NAエンジンを搭載しています。



アンダーカバーを外してシャシー下周りを観察。現車の積算走行距離は9万キロを超えていますが、油滲みひとつありません。


車輌前方から、1番と2番の補強ブレースを仮合わせします。1番のブレースとトランスミッションとのクリアランスは約5㎜。これではパワートレインの支持剛性次第で走行中に当たりそう。2番のブレースとマフラーサイレンサーとの間に適切なクリアランスを確保するためには、最低でも30㎜程のオフセットが要りそうです。


仮合わせに用いたスペーサー。2番の補強ブレース全体を27㎜下方にオフセットしています。この状態でも、サイレンサーとのクリアランスは5㎜にしかなりません。


現車のサスペンションはオリジナルの状態に保たれており、オフセット量を30㎜以上としても保安基準には適合します。しかし、サイレンサーの一点を避けるためだけに最低地上高を大きく下げるのは躊躇われるところです。



走行中のパワートレインが、どこを軸にどの程度振れるのかを、動画で確認しました。事前の予想よりソフトにマウントされており、当たる可能性を下方へのオフセットだけで排除するのは難しそうです。


各部の寸法を検討した結果、2番のブレースのオフセット量は27㎜として、サイレンサーとのクリアランスが10㎜以上となるように、ブレース側に逃げを設けることに決めました。



2番のブレースはアンダーカバーのブラケットも使用するので、カバーの一部を切除します。高速走行時の風圧で変形しないよう、断面形状を考慮しながら切除範囲を決めます。


組込ボルトとフランジナット。大径のワッシャーは新たに製作するブラケットと溶接して、純正の補強板同士の連結部に使用します。


前サスペンション後方に、3本のボルトで装着されている純正の補強板。その1本を利用して、左右を補強ブレースで連結します。今回使用する車体側の取付け箇所としては、ここが最も剛性が高いポイントです。


オフセット分だけ長い丸鋼管を切り出して、大径ワッシャーと溶接します。結合部の面積はできるだけ広くし、延長によって強度が下がらないよう厚さも増しています。


溶接で組み立てた丸鋼管のブラケットを純正の補強板に共締め。27㎜オフセットした位置に固定したクープ・デ・ザルプ用の補強ブレースと接合します。


丸鋼管のブラケットと補強ブレースは、5㎜の平鋼板から切り出したガセットで溶接します。このガセットの厚さも、元のそれより増しています。


丸鋼管のブラケットにかかる応力を考慮すれば、ブレースと連結する位置は車体との結合面に近いほど有利になるので、ガセットはブレースの上面に溶接します。


2番のブレース全体を27㎜下方にオフセットするためのブラケットは、5㎜厚の等辺山形鋼から切り出します。


元のブラケットは垂直面の一枚を残して切除して、新たに切り出したブラケットに重ねて全周溶接します。


補強バーとブラケットの接合部は重ねて溶接されているので、他の部分より強固です。


M8の組込ボルトで車体に固定できるよう、ブラケットに穴開け加工を施します。量産して市販されている物は大抵10㎜+の穴開けがされていますが、これは一応ワンオフなので、一番重要な丸鋼管のブラケットはΦ8、その他はΦ9で決まるように製作します。


つづいて、3番の補強ブレースを加工します。
装着箇所がホイールベース中央に近いので、下方へのオフセット量は最小限にとどめたい。元のブラケットを利用して、バーを作りかえることに決めました。


元のバーは、内側に錆が発生していました。溶接不良の原因になるので廃棄。


ブラケットの溶接面を整えます。


この面に、新しいバーを溶接します。


触媒との干渉を避けるため、左右を連結するバーを100㎜前方に、20㎜下方にオフセットします。バーの材料は40X20の角鋼管、これをコの字型に組んで溶接します。


繰り返し応力でクラック等が入らないよう、断面形状に配慮しながら全周溶接。


バーの内側に雨水が滲入しないよう、最後に開口部を溶接で閉じます。


これで、車体側に手を加えずに触媒を避けることができました。ロードクリアランスの面でも、2番の補強ブレースより有利になっています。


1番、2番、3番の補強ブレースを、車輌中央から見上げた様子。


この状態で走行テストを行い、2番のX字形の部分とサイレンサーの干渉箇所を見極め、アセチレントーチを使って10㎜の逃げを作りました。


パワートレインがソフトにマウントされていることは動画で確認した通りですが、ゴルディーニRSはマニュアルトランスミッションなので、振れ幅は多めに見積る必要があります。


最後に、脆弱さが気になる車体側の一部に溶接を足しました。ここは元々アンダーカバーを固定するブラケットなので、補強ブレースからの繰り返し応力によって線状の溶接部にクラックが生じる恐れがあります。点付けでも、やるとやらないとで後々差が出るのではないかとFTECは思います。


アンダーカバーは全体が良い形状なので、切除は最小限の範囲にします。



4番の補強ブレースは、ラゲッジルーム最後方に無加工でボルトオンできました。車体側の取付け部はロープフック用のサービスホールのようで、当て板付きの強固な雌ねじが最初から在ります。


こうして、クープ・デ・ザルプ用の補強ブレースを装着したゴルディーニRSを、路上に送り出す事が出来ました。走り出したオーナーが開口一番、「サスペンションが柔らかく感じる」と言われたのが、とても印象的でした。


おまけの動画は、トゥインゴ ゴルディーニRSの動力性能評価の様子(2:35~)
入念に造り込まれたシャシーとブレーキ、日本車では絶滅して久しいFF+テンロク+MTというキャラクターが、非常に高い評価を受けています。


少数でもこういうクルマが永く生き延びて、次の世代に良い経験を残してくれますように。FTECがその一助になれたら、この上ない喜びです。