埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

クラウンのブレーキ修理

トヨタクラウン2ドアハードトップ、1978年(昭和53年)式です。
ブレーキの液漏れ修理で入庫しました。


現車は、永い眠りから覚めて3年前に路上復帰した原型車。
入庫時の積算走行距離は、14,800㎞を指しています。

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プライマリーチェックで滴下する場所を確認します。


赤色のブレーキ警告灯が点灯して、ペダルがルーズになったとのこと。
ブレーキフルードがすっかり抜けてしまっています。


3年前の車検整備で、ブレーキディスクキャリパーのオーバーホールをしています。キャリパーやディスクローターの整備は、長い放置期間によって固着していたため実施しました。今回の液漏れは、そのとき手を付けなかったマスターシリンダーが原因です。


配管を分離して、マスターシリンダーAss'y を取外します。マスターバッグ(真空倍力装置)との嵌合部に漏れ出しており、金属面の腐食が進んでいます。


本当はマスターバッグも交換したいところですが、諸事情で断念。
古いガスケット片と浮き錆を落としてから気密を確認、再使用。


純正マスターシリンダーの口径は7/8インチ(47201-30150)。3年前に調べた時から欠品製廃。もちろんシールキット(04493-30080、リヤディスクブレーキ用)も、ありません。

今回は、取り付け部に寸法互換性のある15/16インチのマスターシリンダーに変更することになりました。


マスターシリンダーの口径が変わると、ブレーキペダルの操作感が変わります。
7/8インチは22.225ミリ、15/16インチは23.531ミリ。今回の変更によって、口径が約5.9%拡大されることになります。

口径が大きくなれば、短いペダルストロークで同じ量のブレーキフルードを送り出すことができ、そのための力も小さくて済みます。しかし、同じマスターバッグを使用する場合は、もう少し慎重な検討が要ります。


1960年代以降の国産乗用車には、ブレーキペダルの踏力を補助する真空倍力装置(バキュームブースター)が備わっています。機械式の倍力装置を正常に機能させるためには、ブレーキペダルからのストローク量が設計時の規定範囲内に収まっていなければなりません。

引用元:http://www.agcoauto.com/content/news/p2_articleid/129

ブレーキペダルの感触は、凝るとそれだけでひと仕事です。
FTECが留意する項目としては、

・ブレーキペダルの高さを変えない
・足をペダルに乗せただけではブースターが作動しない

これらは絶対条件と言えます。

その先を追及するなら、

・ペダルの遊び量の終点がわかる
・ペダルを踏みこむと同時にブースターが作動する

ここまでできれば、乗り手が改造を意識することはなくなります。

引用元:https://www.quora.com/How-does-a-Vacuum-Booster-work-and-what-is-the-%E2%80%9Cvacuum%E2%80%9D-in-vacuum-brake-booster

マスターシリンダーが10ミリストロークした時のフルード吐出量を簡単に計算すると、

・7/8インチ:38.8cc
・15/16インチ:44.5㏄

となり、新しい方が14.7%増加することがわかります。

この数値は、ブースターの作動開始点が14.7%奥になることを意味しています。
もし制動に必要な吐出量が同じなら、ストローク量が14.7%短くなるともいえます。

また、作動開始点に達したブースターはサイズアップしたマスターシリンダーを以前と同じ力で補助するのだから、送り出されるブレーキフルードは量圧ともに以前より急激に増えることになります。

その結果、ブレーキペダルの操作感覚が過敏になったり、ブレーキシステムの剛性感が減退することがあるのです。

もしそこが気になるようであれば、対策を講じるために連携を深めて適切な追加措置を施す必要があると、FTECコーポレーションは考えます。


ブレーキパイプの形状は、調節が可能です。フレアナットが締め付け過剰によってラッパ状に開いていると、新しい雌ねじに嵌合しないことがあります。


7/8インチの純正マスターシリンダーを横から見ると、ふたつのリザーブタンクが前傾しているように見えます。

47201-30150

MS105のマスターバッグとマスターシリンダーは、車輛前方で高くなるように角度をつけて装着されます。純正マスターシリンダーのリザーブタンクは前傾しているのではなく、装着状態で真上を向くように設計されている、ということですね。


赤線:リザーブタンクの液面

急制動時にリヤブレーキのロックを防ぐプロポーショニングバルブは、そのまま継続使用します。現車は四輪ディスクブレーキ仕様なので、汎用の調整式プロポーショニングバルブを装着すれば、前後バランスの微調整も容易です。


リザーブタンクがひとつに統合されたため、レベルセンサーがひとつ余りました。余ったカプラーを始末してから新しいレベルセンサーの正常動作を確認し、フルードを注いでエア抜きをすれば修理完了です。


現車と同型のクラウンは、1974~79年(昭和49年~54年)というオイルショックの強い影響下で生産されました。加速する排出ガス規制強化に対応するため、今日では想像もつかない勢いでランニングチェンジが施されています。

今回修理したブレーキに注目すれば、7/8インチのマスターシリンダー(47201-30150)にはリヤドラムブレーキ仕様も合わせて3種類のインナーキット(04493-30080、04493-30060、04493-30070)が在ったこと、1978年(昭和53年)2月のランニングチェンジでディスクキャリパーのピストンが変更(47731-20040 → 47731-30040)されたこと等が解ります。



現車のM-EU型 直列6気筒2,000ccエンジンは、昭和53年自動車排出ガス規制に対処するために、出力を削がれて重量が増しています。かつての軽快さを知るトヨタ自工の開発陣は、さぞ悔しかったことでしょう。しかし、「こうすればもっとよくなる」というアイディアが世に出るまでのスピードは、もしかしたら今よりずっと早かったのかもしれません。

このクラウンがずっと健全であり続け、見る人に考える機会を与え続けることを願います。