埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

キャデラックのオートライト取付 2/2

キャデラック エルドラド ツーリングクーペ(ETC)。
トワイライトセンチネルを温存して、素早く点灯するオートライトを取り付ける企画。


前の記事で、ライトスイッチには介入の余地がないことが判明しました。今回はエルドラドの配線図を仔細に調べ、汎用のオートライトキットを介入させられる回路を探します。

.
ヘッドライト専用のリレーがあるということは、その作動信号に介入すれば点灯と消灯をコントロールできるということです。現車のヘッドライトリレーはエンジンコンパートメント内、エアクリーナーケースを取り外した位置に備わっています。


写真右側に、5つのリレー(黒1、灰4)の塊が見えます。
まず、ここに介入できるかを確かめます。




リレーブロックのピンアサインが解れば、配線を分岐させて介入させるだけのスペースはありそうです。


スモール(クリアランス)ライトに介入するために、テールライトの電球側から遡って配線図を調べます。都合の良いことに、この回路にも独立したリレーが存在すると判りました。


現車のスモール(クリアランス)ライトリレーは、後席バックレスト後方の、キャビンとトランクルームの隔壁に備わっています。付近に、ライトコントロールのすべてをつかさどるボディーコントロールモジュール(PZM =Platform Zone Module)が配置されていることが分かります。


次に、ヘッドライトとスモール(クリアランス)ライトのリレーに、PZMがどう関わっているのかを確かめます。すると、リレーを開閉させるソレノイドの電源側と接地側(アース側)の両方をPZMが制御していると判明しました。

汎用オートライトキットでコントロールできるのは、12V電源かアースの1系統だけです。

ソレノイドの12V電源に介入すると、PZM側に逆流して破損させる恐れがあります。PZMの電源出力線にダイオードを組んでその先に介入すれば回避できますが、アースコントロールでON/OFFを管理するには同じ汎用オートライトキットがもう一つ必要になってしまいます。


そこで、汎用オートライトのためだけにヘッドライトリレーを追加して、その開閉をコントロールすることにしました。純正ヘッドライトリレーの開閉に干渉しない回路を作り、汎用オートライトキットでコントロールされたヘッドライトの電源を車体側に返す方法です。


具体的な配線方法は、以下の通りです。

▲ これを

▲ こうします。

これなら、純正ヘッドライトリレーにもPZMにも、設計段階における想定外の負荷をかけずに点灯条件を変えられます。念のため、回路の先がヘッドライトだけであることも確認しておきましょう。


汎用オートライト専用リレーは、動作テストの後で純正のリレーブロックと合わせてケース内に納めます。追加する配線は、なるべく純正と同じ色のものを使用して、将来の整備性を損なわないように配慮します。

▲ 施工途中の様子

続いて、スモール(クリアランス)の回路にも、汎用オートライト専用のリレーを追加します。純正のスモール(クリアランス)リレーはヘッドライトと同じく、作動電源もアースもPZMによってコントロールされています

PZMを含む純正部品に新たな故障リスクを負わせず、本来の信頼性を保全するために、これらに干渉しない回路を設けて汎用オートライト専用リレーを追加し、キットによってコントロールされたスモールの電源を車体側に返します。


具体的な配線方法は、以下の通りです。

▲ これを

▲ こうします。

方針が決まったら、実際に施工しましょう。ダッシュボード下 → ドアウエザーストリップ → サイドステップ → リヤシート の順に分解を進めます。


トランク側からもトリムを外して、スモール(クリアランス)リレーにアクセスします。


作業域が確保できました。


純正のリレーブロック。この中から純正のスモール(クリアランス)リレーを特定してバイパス回路を作り、その途中に汎用オートライト専用のリレーを追加します。


純正色の配線を用いることは、改造の基本です。



作業途中の様子。配線の経路は、純正と同じ場所が一番安全です。


最終的にはこのように、一見すべてが純正であるかのようにまとめます。


ダッシュボードのロアトリム、ニーボルスター最下部に追加するスイッチ。

これは汎用オートライトキットの付属品で、暗い場所で全ライトを消灯させるときに使用します。どんな時にそうするのかはご想像にお任せするとして、「純正の機能はひとつたりとも損なわない」ことに集中して作業にあたります。


要所の部品が配置できたら、汎用オートライトキットの配線図通りに配線を組みます。新たに作製する配線は、可能な限り純正と同じルートを通すこと。それにより、マイナートラブルを回避できます。


汎用オートライトキットのメインユニットには、常時電源とACC電源がそれぞれ必要です。今回は、ヘッドライトリレーがエンジンコンパートメント、スモール(クリアランス)リレーが後席のバックレスト後方ということで、それらの間でメインライトスイッチにも近い、ダッシュボード下側に配置します。


既に装着されているその他のアクセサリーと共に、安全確実な電源を確保。今後別のアクセサリーを追加する場合に不用意に追加工されないように、あらかじめ冗長性を持たせておきます。


配線完了後、汎用オートライトキットの作動テストができたら、内装トリムを組上げます。所望の仕様が実現できたかどうか、汎用オートライトキットが備えている調整機能に最適化の余地があるかは、走行テストを繰り返して確認します。


新しいヘッドライト点灯の条件を、動画で記録しました。

・暗さを検知すると直ちに点灯
・明るさを検知すると暫く点灯した後に消灯
・トワイライトセンチネルの機能に変化なし

これらをご確認いただけます。


こちらは、光センサーの感度とヒステリシスを確認する動画です。

・木漏れ日などで誤作動しないこと
・明るさを検知してもしばらく消灯しないこと

などをご覧いただけます。



こうして、1998年式のキャデラックETCに、今風の

「暗くなった瞬間につくオートライト」

が装着できました。トワイライトセンチネルの機能はそのまま、操作も純正とまったく同じ仕上がりです。同世代のキャデラックと比較できない人が見たら、これが純正のレスポンスだと信じて疑わないでしょう。

なお、このノウハウは同世代の「ドゥビル(第7世代、1994-99)」「コンコース(1994-99)」「セヴィル(第4世代、1992-97)」にも、応用が可能です。

1998 Cadillac Eldorado Touring Coupe

1998 Cadillac Eldorado Touring Coupe

おまけの動画は、エルドラドが現役当時のプロモーションビデオ。

1991年のソビエト崩壊から2001年の同時多発テロまで、延々と続いたアメリカ経済の長期拡大。このキャデラックを新車として購入できたのは、ちょうどその10年間と重なります。

将来、1950年代のように、古き良き日々として語られることになるのかもしれません。