埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

セリカのオイル漏れ修理

トヨタ セリカ T200系 SS-III(1997-99)です。

エンジンはVVT-i 付 BEAMS 3S-GE、NA200馬力仕様。
エンジン下周りの「水漏れ」「油漏れ」を修理します。


同時に行った「ドライブシャフトブーツからのグリス漏れ」修理は、前の投稿をご参照ください。

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アンダーカバーを外して下周りを観察。IPCを実施します。
エンジン前方に漏れ出したオイルに、土埃が付着しているのが見えます。



クロスメンバーの上面全体が油汚れで覆われています。
この様子では、昨日今日の発症ではなさそう。


漏れたオイルは、エンジンブロックの壁面を伝って下周りを汚しています。
汚れ具合の新しい部分に着目して、下から上に観察して原因を探します。




ST202型の3S-Gエンジンは、後傾して横向きに搭載されています。

エンジンブロックのオイルパン結合部をケミカル洗浄しながら観察すると、液状になった汚れが前から後ろに流れる様子を確認できます。

このオイル漏れの原因は、エンジン前方のオイルリターンホースにあるようです。



リターンホースとエンジンブロック側の接続口を外してみると・・・



ラバーホースが、まるで陶器のように変質しています。
まったく柔軟性が無く、力を加えると砕けます。


下の写真には、砕けたホースの上方に「遮熱材」が映っています。
装着箇所の熱環境を考慮すれば、役不足は明白。


車両前方左寄りから、ホースの装着場所(ロケーション)を見てみましょう。


赤いヘッドカバーの前方に、排気マニフォールドの遮熱カバーが見えます。
自然吸気のBEAMS VVT-i は、ステンレスパイプの排気マニフォールドを採用しています。


4本の排気管はエンジン前方で2本に集合され、エンジンの下をくぐって後方へ。
問題のオイルホースは、エンジンブロックと排気マニフォールドにはさまれた空間にあります。

こんな過酷な熱環境にラバーホースを曝しては、短命に終わっても仕方がありません。


オイルホースの接続口は、OリングでシールしてM8のボルト一本で固定する仕組み。
ここのOリングも、ホース同様に硬化して機能を失っています。


エンジンブロック側の嵌合面とOリングの当たり面は、組み付けの前に入念に清掃し、仕上げ面を指触確認します。組み付けの過程で新品Oリングを傷害するようなことが、あってはなりません。


オイルホース接続口のOリングは、純正部品が欠品製廃です。
内径と線径の合うNBR製のOリングの中から、選択して使用します。


古いOリングは、30年前の物です。当然、新品と同じ寸法ではありません
替わりのOリングを選ぶ場合、接続口の溝から割り出した内径(I.D.= Internal Diameter)が同じであること、線径が古いOリングより大きいことを条件にします。


太くなった新品Oリングを傷害しないために、最小限のシリコングリスを塗布します。この際、エンジンブロック側の指触確認も再度行います。

この接続口はボルト一本留めですから、傾かないように嵌合させるには手先の工夫を要します。Oリングがエンジンブロック側に均一に当たったことを、組付け後に確認する方法はありません。少しでも手先に違和感を感じたら、何度でもやり直すことが肝要です。


下側の接続口とオイルホース、ホースクリップを取付けました。
あらためて、ステンレス製の排気マニフォールドとの位置関係を観察しましょう。


このホースも、純正部品は欠品製廃です。

FTECでは、純正より優れた性能を備えた汎用品を使っています。しかしこのままでは、いずれ同じ不具合が確実に起こります。古い純正ホースは遮熱スリーブを併用していましたが、過酷な熱環境に対して役不足であることは明らかです。

もう少し、詳しく見てみましょう。


純正の遮熱スリーブには、上下にクリップを逃がす切り欠きがあります。これは新車の生産ラインで素早く組付けるための工夫ですが、ラバーホースを排気マニフォールドの輻射熱から長期間守り続けるには、有害です


金属製のクリップはゴム製のホースより熱伝導率が高いので、ホースだけを遮熱スリーブで覆っても、クリップが露出していれば効果は期待できません。

熱橋(= Heat Bridge)によって、ホースの両端が傷害されて再びオイル漏れを起こします


改善のために、水道管の凍結防止用スリーブを買ってきました。断熱材は、グラスウールを使用しています。プロパントーチの火炎で直接炙って、燃えないことを確認済みです。


ホースの曲りに合わせてカッターで加工して、上下のクリップごと完全に覆います。
これなら、同じ原因によるオイル漏れは防げるでしょう。



あとは、この対策が別の問題を惹起しないようにまとめることです。

グラスウールむき出しでは飛散のリスクがあるので、周囲をアルミテープで養生してステンレスワイヤーで拘束しました。



グラスウールの上下をアルミテープで閉じなかったのは、水分を含んだ時の備えです。

ここはエンジンブロックと排気マニフォールドに挟まれた位置で、常時高温になります。
何らかの事情で吸湿しても、上下が開いていればグラスウールは乾燥状態に保たれます。





オイル漏れの次は、冷却水漏れを修理します。
ラジエターホースとバイパスホースの一部は、純正部品がありました。




アルミ製のウォーターネックには、ほとんど腐食がありません。
流石はトヨタの品質です。


このホースは、純正部品が欠品製廃でした。
汎用のシリコンホースに交換します。



ホースの端部が硬化して、放射状に亀裂が走っています。
その周囲には、滲み出た冷却水が乾いて付着しています。


純正ホースの形状には、当然ながら意味があります。
汎用ホースに置き換える場合は、振動や熱の影響に配慮しましょう。

ホース単体ではなく、中を水で満たしたときの重量で検討することが肝心です。



これは、ブレーキマスターバッグのバキュームホース。
真空倍力式のマスターバッグに、吸気の負圧を分配しています。

硬化して表面もヒビだらけですが、純正部品は欠品製廃。
この形状は、ストレートのホースでは再現できません。




シリコンバキュームホースの材料強度に、疑いを挟む余地はありません。
新しいルートは、曲げれば流路が狭くなることを意識して決める必要があります。


また、両端の位置関係が走行中に変わることにも、配慮が必要です。

インテークマニフォールドはエンジンに、マスターバッグはバルクヘッドに付いているので、エンジンマウントが許容する揺動は、ホースの中間部で吸収しなければなりません

ホースが金属部分に当たっていれば、繰り返し応力によってその部分で裂ける可能性があります。もしそうなれば、このセリカは制動力を大きく削がれる結果になります。



端部を1㎝切り詰めるだけでも、周囲の干渉を避けられることがあります。
きちんと時間をかけて、多角的な検討をするのが整備士の役割だとFTECは思います。




エンジンを再始動して暖機し、液漏れの修理完了を確認します。
過去のオイル漏れによって付着した汚れを洗浄したら、アンダーカバーを取付けます。










旧車のアンダーカバーは、車齢相応に傷んでいます。
素性のわからないスクリューで不適切に取付けられていることも、多いのが実状です。

すべてを純正で揃える必要はありませんが、なるべく純正と同じ方法で、同じ強度で固定できるように修繕したいとFTECは思っています。










ST200系 セリカ SS-III の液漏れ修理は、以上です。
下周りはアンダーカバーを含め、入念に洗浄済み。
これなら、不測の事態にも素早く対処できるでしょう。



ST200系セリカには、それ以前のセリカような華々しい「レースレジェンド」がありません。それでも、旧モデルで信頼性を得たコンポーネントを手堅くまとめた設計が奏功し、30年近くが経過した今もクラブレースを彩っています。



日本の公道を25万キロ走破した今回のセリカには、示唆に富む情報がたくさん詰まっています。今のトヨタのものづくりにどの程度フィードバックされているかは、30年後に明らかになるでしょう。

市井の自動車整備士も、クルマの声を聞きながら対策を講じたいものです。

いつまでも健全に、走り続けられますように!