埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

シトロエンの配線修理・1/2

シトロエンC4ピカソII(B785G01型、2013-19)です。

警告が鳴動して運転できない、との症状で入庫しました。

走り出そうとすると「停車せよ」と光と音で警告します。

CITROEN C4 PICASSO 2

現車は2016年式で、走行距離は25,000㎞。

1.6リッターガソリン直噴ターボエンジンEP6-CDT(5G01)とアイシン製6速オートマチックトランスミッションEAT6を組合わせたパワーユニットを、グループPSA(現 ステランティスN.V.)の共通プラットフォームEMP2-V1に搭載しています。

症状は、下の動画の通り。

P → D シフトで第一段階の警告
駐車ブレーキ解除で第二段階の警告

が発報されます。


この警告はかなりけたたましく、とても運転する気にはなれません

.
プライマリーチェック(IPC)の手始めに、故障コードを確認します。


大量のDTCが検出されました。こうした場合には、いま問題視している症状に関連するDTCを選ばねばなりません。

カレントコードとヒストリーコードを別々に記録してから、一旦全消去。

症状を再現して、再び確認します。


全消去後の作動テストで症状を再現、直後の点検で検出されたDTC。電動パワーステアリング領域の故障を表しています。


症状を再現する過程で、ステアリング操作はしていません。

□ ステアリングの中立位置をロストしているのか
□ パークアシスタンスECUとの連携が切れているのか

いずれにせよ、いま問題視している症状との関連が曖昧です。



あらためて、警告が鳴動する様子を観察。
下の動画をよく見ると、運転席側の半ドアを示す表示が消えないことが判ります。


実際には全ドアが閉まっているのに「半ドアのままDレンジにシフトした」と誤認して第一段階の警告を発報、駐車ブレーキの解除で「半ドアのまま走り出そうとしている」と誤認して第二段階の警告を発報。そのように機能しているように見えます。

もしも誤認が原因なら、現車は「警告の発報は当然」と認識しているので、自己診断装置から手掛かりが得られる見込みはありません

この仮説が的を射ているかどうか、確かめるにはどうすれば良いでしょうか??


グループPSAの共通プラットフォームEMPS-V1を使用する、第2世代のシトロエンC4ピカソには、半ドア警告に利用する独立したカーテシスイッチがありません。ドアの状態はロックの施錠/解錠も含めて、すべてドア内のラッチ&アクチュエータで検知しています。


独立したカーテシ―スイッチがあれば、ドアの開閉信号を調べるのは簡単です。テスト用配線で偽信号を割り込ませて、反応を見るのも簡単でしょう。

しかし、現車はそうはなっていません。
その上、部品の最小単位が「ラッチ&アクチュエータAss'y」です。

ドアを開けたままラッチをドア閉じ状態に操作しても、半ドア警告が出続ける状態に変化はありません。助手席側のドアで試すと、助手席側の半ドア警告には反応があります。

また、オーナーからのヒアリングによって、この症状が出たのは「土砂降りの雨の後」だったことが判っています。


これらの事実から、故障の原因はラッチ&アクチュエータAss'y の不良と判断。交換すべく、シトロエンに部品の供給状況を尋ねたところ、

「国内在庫なし」
「納期未定」

という、まことに素敵な回答を頂戴しました。
かくなる上は、現品修理を試みるより他にありません。




サービスマニュアルや配線図を見ても、この部分の配線図はありません。盗難防止装置に関わる部分なので、当然といえば当然です。





2本のワイヤーはそれぞれ、インナーハンドルとアウターハンドルに接続。
右手前の白いボスに、キーシリンダーから伸びるシャフトが連結されます。

ドアロック施錠のままインナーハンドルを操作すると解錠できます。
アウターハンドルの操作では、もちろん解錠できません。



ドア開閉の情報をモジュールに送信できるのは、この部品をおいて他にありません。新しい部品も配線図もありませんが、整備士としての使命を放棄することはできないので、修理に挑みます。



CANやLINで通信する設計なら厄介ですが、繰り返しドア開閉の衝撃に曝される部品にそれほど大きなコストがかかっているとは思えないので、分解して部品構成を調べます。

先にも触れた通り、部品の最小単位は「ラッチ&アクチュエータAss'y」です。
この先の分解修理は、自己責任で行ってください



シリコンシールを切除してポリプロピレン製の外套を剥がすと、内部構造が露わになります。モーターが2つ、マイクロスイッチが3つ。白色の部品がスライドしてマイクロスイッチの接点を開閉する仕組みになっています。



稼働部の構造を仔細に観察。割れや欠けは無さそうですが、華奢であることが気になります。3つのマイクロスイッチの接点は、ストロークが少なく閉じるのに力が要るタイプ。

樹脂製部品の摩耗やしなりによって、マイクロスイッチの開閉が不完全になる可能性はありそうです。念のためマイクロスイッチ単体でテストして、すべて正常に開閉していることを確認します。


ラッチ&アクチュエータAss'y のカプラーには、7本の丸ピン端子があります。

そもそも故障したらアッセンブリー交換するように設計されているうえ、先述の通り盗難防止装置にも関わる部分なので、詳細な配線図はありません。

機能を頭に叩き込んで入出力信号を丹念に測定し、配線図を書き起こします。


出力信号のチェックは、マイクロスイッチを直接操作しないことが重要です。
オーナーがクルマを操作する日常を再現して、信号の正しさを評価します


日常の再現には、風雨や寒暖、振動や衝撃に配慮することも必要です。

交換を前提に設計されている部品を自己責任で修理するなら、狙い通りの性能を持続させるためには気の回し過ぎくらいで丁度良いと心得ましょう。


ラッチ&アクチュエータAss'yをドアに組付けて、作動テストを実施

・ドアロックの施錠と解錠
・ドアラッチの開閉
・メカニカルキーの操作

分解点検済みの部品が、それぞれの正しい信号を車体側に送ります。
運転席のドアが閉じていると認識されれば、修理完了となるでしょう。


あれっ


...え?


ちょ


インストルメントパネルの表示は、ドア開(半ドア)を示したまま。

・何度ドアを開閉させても
・ハーネス部でドア開閉信号の切り替えても

微動だにしません。

運転席ドアが閉じているという現実を、クルマ側ではまだ認識できていないようです。

どうやら、修理完了はまだ先になりそうですね。



送る側が正しく送信したのに、受ける側には届かない。
そこまでは、確かな事実です。

この時点では、

「どこかで配線が途切れているのだろう」

程度にしか、考えていませんでした。


「その見通しは甘過ぎる」


ということに、もう少し早く気づけたかもしれません。


(後編につづく)