埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

ブロンコのシャシ整備・5

フォード・ブロンコの、後アクスルとブレーキを整備します。
サイドシールからブレーキドラム内に、デフオイルが滲入する症状があります。
元々ブレーキ力には余裕が無いので、今回の整備を機に構成部品を刷新します。

ショートホイールベースに注目

ブレーキ力に余裕が無いとは、日本の保安基準に照らした場合のことです。
後輪がロックしてスピン状態に陥らないよう配慮した設計が、影響しています。



アクスルシャフトのオイルシールが衰損して、ブレーキ側にデフオイルが少しずつ漏れています。ギヤキャリア(= ホーシング)はデフオイルで満たされているわけではなく、仮にこのオイルシールのリップ高さまでデフオイルが減少したとしても、デファレンシャルギヤやベアリングを破損するリスクはありません。



以前の継続検査では、ブレーキ全体を徹底的に洗浄・脱脂して、ドラムとライニングの摺動面の表層を布ペーパーで削除しました。これによって摩擦力の回復をはかり、保安基準に適合させたのです。





しかし、この整備の直後でも、日本の保安基準を満たすには心許ないブレーキ力であることが判明しました。現車の後軸重は1トンを超えており、検査ではその10%のブレーキ力をテスター上で発揮することが求められます。しかも、32インチに大径化されたタイヤで達成しなければなりません。



【タイヤサイズ比較】

標準 : P265/75R-15SL(外径777~779ミリ)
現車 : 32x11.50R-15LT(外径813ミリ、34~36ミリ増)

この要素だけで、ブレーキ力は 4.4%低下 します。


1年経過したドラム内の様子を観察して、原因の根絶を決意しました。
まずは純正のブレーキシステムから100%の能力を引き出すことに注力し、それでも足りなければプロポーショニングバルブに手を入れてブレーキの液圧を変更する方針にします。




現車の後ブレーキはBendix製、ドラム径は10インチです。
このブレーキは、1994年当時のフォード製トラックに共通の装備です。
日本車と違って、消耗部品の調達に困ることはありません。



問題のオイルシールを交換するには、アクスルシャフトを抜く必要があります。
アクスルシャフトは、デファレンシャルギヤセットにU字型のワッシャー(= リテーナー)で保持されています。


アクスルシャフトを抜くということは、デファレンシャルカバーを取外すということです。このカバーは交換後間もない取外しになりますが、取付け時にした配慮の経過を確かめられる貴重な機会と捉えて作業にあたります。



後ブレーキを構成する部品のうち、新品に交換するのは次の部品です。
ドラム、ライニング、リテーナーセット、スプリングセット、ホイールシリンダー、ブレーキホース、ダストシール&グロメット。その他の構成部品は、再組付けにふさわしい状態に仕上げてから、消耗の程度を見極めて再使用します。



新たに装着するライニングをよく観察すると、左右対称ではないことが判ります。
下の2枚の写真で、画面右のブレーキシューの方が長く厚いのが見えますか?




シューの台は共通なので、どちら向きにも組めてしまいます。

FTECではトレーディング側に、長いシューのライニングを組みます。
これは駐車ブレーキの操作時に、主体となって動作するライニングだからです。

事業所によっては、別の考え方があるかもしれません。
いずれにせよ、長短セットで左右対称に組むことを厳守しましょう。




再使用する部品は、洗浄してから磨いて表面を調えます
こうすることで、傷や亀裂を見落とすことがなくなります。
組付け前に塗布する油の馴染みも良くなるので、性能の持続性にも寄与します。






アルミダイキャストの冷却フィン付きデフカバーから、マグネット付きのドレンプラグを取外しました。磁石に付着していた金属粉の量は、走行距離から予想していた量より多めです。



オイルの総量が増えて冷却が楽になったにもかかわらず、金属粉が出続けるとは。
今回は、よりハイグレードなデファレンシャルオイルに変えた方が良いかもしれません。



ピニオンシャフトを抜いて、U字型のリテーナーを取外します。
アクスルシャフトの抜け止めは、U字型のリテーナーだけが担っています。



ロックボルトを外して、ピニオンシャフトを抜きます。



シャフトを抜いたら、ピニオンギヤは抑えが効かなくなります。
抜いてからラージギヤを動かすと、ピニオンギヤが脱落するリスクがあります。

U字型のリテーナーを取外すための作業域は、ピニオンシャフトを抜く前に確保しましょう。


U字型のリテーナーの取外し。これで、アクスルシャフトを抜き取れます。




アクスルシャフトを抜くと、オイルシールにアクセスできます。
シールだけでなくベアリングも交換するのは、車輪の回転と同期した異音の発生原因となり得る要素を取り除くためです。





バックプレートに付着している古いグリスに由来する汚れを、ケミカルで徹底的に取り除きます。新しいライニングを円滑に摺動させるために、バックプレート表面を調えます。







アクスルシャフトの挿入時に新しいオイルシールのリップ部を傷つけてしまっては、元の木阿弥です。アクスルシャフトとリップの初期馴染みを円滑にするために、シリコングリスを塗布します。



ブレーキのバックプレートは、ケミカルで再び徹底洗浄してからスコッチブライトで摺動部分を仕上げます。ブレーキダストやブレーキフルードで汚れがちな部分なので、必要最小限のグリス量で組み上げられるように調整することが肝要です。



装着して間もないアルフィンデフカバーを洗浄、液体ガスケットを除去します。デフケースの内側にはみ出したガスケットの形状と量をよく観察して、より精度の高い再組付けに繋げます。






デファレンシャルギヤセットを養生して、ガスケットリムーバーを使用しました。この溶剤は強力なので、作業員の保護具装着は元より、ウエスや工具の管理にも厳重な警戒が必要です。









デフカバーとアクスルの嵌合面が、再組付けにふさわしい状態に仕上がりました。脱着のたびに何度でもこの状態に戻すことが、所定の性能を持続させることに繋がります。

1回目より2回目、2回目より3回目の方が整備品質が上がるように工夫しましょう。



新品のブレーキライニングに、再使用する駐車ブレーキレバーを組付けます。
最小限のグリス量でスムースに動き続けるイメージを、思い描きながら組み付けます。








車体側のブレーキパイプと後ブレーキホースの結合部。
ユニオン周辺の錆びが脱着・締付を障害しがちなので、細心の注意を払いましょう。



後ブレーキホースをアクスルに固定するボルトは、ブリーザーを兼用する設計です。
これも、再組付けにふさわしい状態に仕上げる部品のひとつです。











新品ブレーキドラムの摺動面も、布ペーパーでクロスハッチに仕上げます。保管中の錆び防止のために塗布された油分を完全に除去して、初期あたりを付きやすくすることに繋がります。





新しいブレーキドラムをホイールナットで仮止めして、ライニングとの隙間を調整します。アクスルシャフトのアウターベアリングが新品になったので、従前よりも狭い隙間にセットすることができます。

これで、リヤ周りのオイル漏れと異音、ブレーキの効き低下に関する手当ては完了です。
万一のやり直しに必要な工数を考慮して、アルフィンデフカバーの装着を最後にしました。

以前よりも、一層精悍な佇まいです。
路上では、ほぼ見えないのですが。。。



後アクスルとブレーキを整備する記事は、以上です。

アクスルシャフトのシール不良によってブレーキドラム内にデフオイルが滲入する症状を、取り除くことができました。Bendix製の10インチドラムブレーキは、インナーパーツの大部分を更新して設計性能を回復。その効果は、継続検査の際にブレーキテスターの上で明らかになるでしょう。

次回の記事では、前アクスルの整備を紹介します。